今週の「マガジン9」

 先週の編集会議でスタッフとISIL(イスラム国)についての議論になりました。これはいったい何なのか。タリバーンやアルカイーダとはまったく違う(もちろんこの両者も互いに異なる組織ですが)、イデオロギーに根ざした運動体にも見えない、いままでなかった現象が世界に広がりつつあるように思えたのです。先日、ロンドンに住む15~16才の少女たちが家族に「ちょっと出かけてくる」と言って、シリアのISIL支配地域に向かったというニュースが報じられました。

 会議の翌日、スタッフの一人が、東京外国語大学教授の伊勢﨑賢治さんが『WEBRONZA』のトークセッションで語った記事を紹介してくれました。そこで伊勢﨑さんは、9・11以降にアメリカが開始した「テロとの戦争」は、建国史上最長の戦争(南北戦争、第1次、第2次世界大戦、ベトナム戦争より長い)になっている点を指摘し、この戦争は永久に続くと述べています。

 テロとの戦争とは国家VSゲリラ(いわば民衆)という構図です。何をもって戦闘を終結させるのか、きわめて難しい。

 伊勢﨑さんは、アメリカを中心とするNATO軍や日本政府がアフガニスタン政府をホストネーションとすべく、国家の統治機能をもたせることに失敗した過去の経験を悔やんでいますが、ISILにいたっては、ホストネーションとなるべき国家さえわかりません。

 先日、日本政府は、日本周辺有事で米軍を後方支援する周辺事態法から「周辺事態」の概念を取り除き、自衛隊の活動を世界規模で展開できるよう抜本的に改正する方針を示しました。また、防衛省は、背広組(文官)が制服組自衛官より優位を保つと解釈される同省設置法を改正する方針を固めたとのこと。これはシビリアン・コントロールが実質、機能しなくなるということです。

 伊勢﨑さんはトークセッションの最後で、集団的自衛権の行使は、国連的措置、つまり、地球規模の問題になっており、日本が関わらないという選択肢はありえない、ゆえに集団的自衛権は行使すべきと語っています。ただし、日本が主体性をもって貢献できるのは非武装の分野であり、そのためには「過去」の清算を、勇気をもってやらなければならない、ことも強調しています。これは日本のソフトパワーの強化と言い換えてもいいでしょう。

 しかしながら、現在の日本政府が構想する安全保障政策はハード面ばかりに傾いており、国民に広く訴え、議論を喚起するようには、およそ見えません。

 上記の方針が――一部マスメディアで報じられているように――安倍首相訪米の手土産にという思惑と絡んでいるとすれば、すべてがなし崩し的に進んでしまう。そのことの恐ろしさを感じています。

(芳地隆之)

 

  

※コメントは承認制です。
vol.491
永久的に続くテロとの戦いで日本がなすべきこととは
」 に2件のコメント

  1. countcrayon より:

    防衛省設置法修正の件で一点だけ、シビリアン・コントロールのカードが一枚減ってかなり後退するのは事実でしょうが、「実質、機能しなくなる」はやや言い過ぎかと思いました。私が甘いですかね。甘すぎてもむろん頭からばりばりと喰われてしまいますが、危機を伝える言葉が過剰なのもいろんな意味でよろしくないかと思った次第です。いずれにせよシビリアンのトップがあれでは、という話で、枝葉の部分ですけれども。

  2. ピースメーカー より:

     先日に寄稿されたcountcrayonさんと類似した諫言ですが、ISILに対しては「恐ろしい」という表現を全く使わないのに、アメリカやNATOに追従する安倍首相に対して「恐ろしさを感じる」というのは、やはり一般大衆の感覚からズレている様で、世間にあまり評価されないのではないでしょうか?
     安倍政権に対して使うのは、「懸念」程度に留めておくべきだと思います。
     危機を伝える言葉が過剰なのは色々な意味でよろしくありません。
     さて、文中にありました「『過去』の清算」とは、日本のどの「過去」なのであり、それを具体的にどのように「清算」すべきなのでしょうか?
     このような表現は、日本の反体制派や近隣諸国の武器として、永久的に使用されるような印象のある表現です。
     それをあえて伊勢崎賢治さんが、永久的に続くテロとの戦い(このような戦いは憲法9条制定時には想定外の事態である)の為に「勇気をもってやらなければならない」と主張されるのならば、是非ともそれをマガジン9の紙面にて拝見したいと望むのは、私だけではないと思います。

←「マガジン9」トップページへ   このページのアタマへ↑

マガジン9

最新10title : 今週の「マガジン9」

Featuring Top 10/195 of 今週の「マガジン9」

マガ9のコンテンツ

カテゴリー