今週の「マガジン9」

 「『集団的自衛権の行使が必要だ』ということを説明しようとしたのでしょうが、実際には『その必要性がまったくない』ことの説明になっていましたね」
 先日、参議院議員会館で開催された「集団的自衛権を考える」と題された勉強会。講師の元防衛官僚・柳澤協二さんは、その前日、安保法制懇による報告書提出を受けて開かれた安倍首相の記者会見の内容を、そう評しました。安倍首相が「集団的自衛権の行使が必要」な理由として並べ立てたのは、「実際には集団的自衛権とは関係ないケースばかり」だというのです。
 例えば、「どこかの国で紛争が勃発した場合に、そこに滞在していた日本人を米国が救出・輸送する際の防護」。安倍首相は会見の中で、幼い子どもを腕に抱えた母親のイラストを配したボードを提示し、「自衛隊が、彼らが乗っている米国の船を守ることもできないのが今の憲法解釈」だと訴えました。しかし、柳澤さんは「戦争がはじまった後の軍艦に、民間人を乗せるようなスペースはありません。紛争の気配が察知された段階で、民間人は民間機が動いている間に帰国させるのが鉄則」だと指摘します。
 「もし本当に、『民間人を自衛隊が守らなくてはならない』ような事態になるとしたら、それは完全に官邸の危機管理のミス。憲法の怠慢ではなくて政府の怠慢です」という言葉には、柳澤さん自身もかつて官房副長官補として、内閣に籍を置いていた方だけに重い説得力がありました。

 そんなふうにここのところ、外交や国際協力の現場を知る人たちから、集団的自衛権行使容認を掲げる安倍政権の方針に批判的な声をよく耳にします。
 例えば、アフガニスタンで長く医療・灌漑支援を続けている医師の中村哲さんは、西日本新聞のインタビューで「(集団的自衛権が行使されて)自衛隊が来れば、現地の対日感情が悪化して、そこで活動している自分たちの危険はかえって高まる」と指摘しています(マガ9のインタビューでも以前、同様のことを語っておられました)し、シェラレオネ、アフガニスタンなどで武装解除・平和構築にかかわってきた日本紛争予防センター理事長の瀬谷ルミ子さんも、あるテレビ番組で「現地で活動するNGOなどは、政府と距離を置いて中立を保つことで安全を確保している。(安倍首相が行使容認の根拠の一つとして挙げる)“駆けつけ警護”の事例にNGOが含まれているのは適切ではない」と話されていました。
 また、元UNHCR職員の米川正子さんがツイッターで、かつてカンボジアで選挙ボランティアの中田厚仁さん、文民警察官の高田晴行さんが武装勢力に殺害されたことに触れ、「彼らが命を落としたのは、“自衛隊がいなかったから”ではない。安倍首相が“自衛隊がいないと、日本人を守ることができない”ような誤解を与えたのは、中田さんや高田さんにもあまりにも失礼ではないか」といったことをつぶやかれていたのも印象的でした。

 前述の勉強会で柳澤さんは、「よく、集団的自衛権の行使容認によって『抑止力を高める』ともいいますが――そして私は元防衛官僚ですし、抑止力一般を否定はしませんが――それによって高まるリスクも一方であるわけです。その両方を総合的に見て、かつ国民の前にもきちんと示すべきではないでしょうか」ともおっしゃっていました。
 そうした検証がまったく行われないままに、行使が認められないと安全が守れないかのような「ムード」だけが先行する中で、国の大きな方向性が変えられようとしていることに強い危機感を覚えます。

(西村リユ)

 

  

※コメントは承認制です。
vol.453
現場から相次ぐ「違和感」の声
」 に1件のコメント

  1. とにかく、この自衛権問題以外にやること山積みですぞ。やらない事の言い逃れが集団的自衛権問題なのだ。

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