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こども医者毛利子来の『狸穴から』:バックナンバーへ

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「マガジン9条」の発起人の1人でもある小児科医、「たぬき先生」こと毛利子来先生。
お仕事や暮らしの中で感じた諸々、文化のあり方や人間の生き方について、
ちょっぴり辛口に綴るエッセイです。

こども医者毛利子来の『狸穴から』(12)

もうり・たねき(小児科医) 1929年生まれ.岡山医科大学卒業。東京の原宿で小児科医院開業。子どもと親の立場からの社会的な発言・活動も多い。「ワクチントーク全国」元代表、「ダイオキシン環境ホルモン対策国民会議」元副代表などを経て、現在は雑誌「ちいさい・おおきい・よわい・つよい」編集代表、『マガジン9条』発起人などを務める。著書に『ひとりひとりのお産と育児の本』(1987,毎日出版文化賞)、『赤ちゃんのいる暮らし』、『幼い子のいる暮らし』などがある。最近は、友人でもある小児科医・山田真氏との共著である『育育児典』(岩波書店)が、評判を読んでいる。HP「たぬき先生のお部屋」

「頑張ります」は辛い

 オリンピックが近づいた。
 近づくにつれて、やたら「頑張ります」という声が聞こえてくる。インタビューを受けた選手たちが、ほとんど異口同音に、そういうのだ。

 あれは、日本国の名誉を担った気負いなのか、それとも自分自身を励ましているのか。たぶん、その両方がミックスしているのだろう。もっとも、ただの決まり文句になっているだけなのかもしれないが。

 いずれにしても、聞いていて、かなり辛い。ご苦労様だなあ、と思ってしまう。
 だいいち、そう誓っていて、メダルを取れなかったらみじめ。「頑張らなかった」か「頑張りが足りなかった」と思われかねない。少なくとも、自分では、そんな後悔に責められるにちがいない。

 しかし、だからといって、「テキトーにやります」なんて、とてもじゃないが、いえないだろう。たとえ内心ではリラックスを心がけていても、「気楽にやります」とはいいにくいだろう。そんなことを口に出したら、ものすごいブーイングに見舞われるのは目に見えている。

 どうやら、選手たちに「頑張ります」といわせているのは、日本中にみなぎる熱気の圧力らしい。
 なにしろ、選手を送り出すほうが、マスコミを含めて、声高に「頑張れ!」という檄をとばす。「ニッポン・チャチャチャ」などとけたたましいほどだ。

 まあ、スポーツに応援はつきものだし、身びいきの楽しみもあるから、いちがいに悪いとは思わない。
 だが、あまりにも常軌を逸した応援は、笑ってすますわけにはいかない。
 だいいち、楽しかるべきスポーツを、使命感で、悲壮にしてしまいそうだ。しかも、それがプレッシャーになって、実力が発揮できなくなることだって、十分にありえる。

 そういえば、こうしたゆきすぎは、どうもスポーツだけではなさそうだ。
 カイシャの仕事にしても、学校の勉強にしても、「頑張れ!」は、常套句みたいに、言い交わされている。
 そんな風潮があんまり強まると、無理を重ねて、体をこわしたり心を病むことにもなりかねない。
 一日も休まないと「皆勤賞」をくださる幼稚園や学校があるが、あれなど「過労死」を招く教育をしているようなものだ。

 そこで思うのだが、これからは、なるべく「頑張れ!」というのはひかえたい。
 そして、それに替えて、英語でいう「テイク・イット・イージー」、日本語なら、さしずめ「力を抜いて」、「それでいいよ」といった言い方をするようにしたい。
 そのほうが、かえって、人々に潜在力を出させ、世の中も生きやすくなるような気がしている。

「Take it easy」にぴったりはまる日本語が思いつかないのは、
ついつい「頑張りすぎ」てしまう日本人のメンタリティゆえ?
「頑張る」ことが悪いわけではないけれど、
ときには「気楽に行く」こともたいせつです。
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