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マガ9スポーツコラム No.011

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  みんなが大好きなスポーツ!「マガ9」スタッフだってそうです。
だから時々、メディアで報じられているスポーツネタのあれこれに、
突っ込みを入れたくなったり、持論を展開したくなったり・・・。
ということで、「マガ9スポーツコラム」がスタートです。不定期連載でお届けします。

四国・九州アイランドリーグ
愛が支えるビジネスモデル(最終回)

 私は、今から3年前の2006年の夏、休みを利用して四国アイランドリーグの試合を見て回ったが、その時印象に残ったエピソードをいくつか紹介したい。

 まず、愛媛県今治市営球場では愛媛マンダリンパイレーツ対香川オリーブガイナーズ戦を観戦した。その時、一塁側の最前列に、愛媛のユニフォームを着て、野球教本を手に応援する若い女性がいた。

 「私、アイランドリーグ見るまで、野球のこと全然知らなかったんですよ。タッチアップって何? みたいな。だからこれ(教本)で勉強してるんです。私、ピッチャーマニアやから、とくに投球フォームのチェックとかね」

 でも、応援する選手が成功すると、アイランドリーグからいなくなるわけでしょう。それってファンとして寂しくない? そう私が言うと、

 「何言うてるの、それ(NPB=日本プロ野球機構に行くこと)が彼らの目標やないですか。私たちの役目は選手の夢を応援することと違いますか?」

 それから彼女いわく。フロントや監督はもっと選手のことを考えてほしい、たとえばNPBのスカウトが視察にきているときは、売り出したい選手を優先的に起用するとか、年齢が高い「後のない選手」により多くのアピール機会を与えてあげるとか――。そして、

 「そのためなら勝敗には多少、目をつむる」

 同じく一塁側に陣取って、声援を送るオレンジ色のハッピを着た愛媛の応援団長さんは、

 「ここ(アイランドリーグ)は(選手の)通過点やからね」と言った。

 誰かが来て、また去っていく。そんな場所でいいのだろうか? 彼女も彼もちょっと優等生すぎる(発言だ)と私は思った。しかし、団長さんは、

 「わざわざ愛媛に来てくれた選手が巣立っていくのを見るのも(私たちの)喜びですわ」と穏やかな顔をしている。

 アイランドリーグでプレーする選手のうち、NPBに行ける選手はごくわずかだ。毎年、夢破れた選手たちがここを去っていく。と同時に、日本各地、あるいは世界(現在、アイランドリーグでは韓国、台湾、中国、ベネズエラなどの選手がプレーしている)から若者たちがやってくる。

 常に新しい血を受け入れることで成り立っているアイランドリーグの試みは、単純に「地域密着」とはいえない。

 高知県中部・香美市にある土佐山田スタジアムでの高知ファイティングドッグス対愛媛マンダリンパイレーツの試合では、バックネット裏には、地元の少年野球チームの監督と子供たち、麦わら帽子の父と野球帽の息子、若い女性のグループ、作業着姿のおじさんなどの姿があった。そんななかに50代くらいの女性がいた。白いブラウスに帽子。右手でうちわを扇ぎながら、背筋を伸ばしてじっと戦況を見つめている。

 試合の終盤、その真摯な眼差しの彼女に声をかけた。アイランドリーグをよく見にこられるのですか? すると先ほどまでの真剣な表情がちょっと崩れた。

 「ええ、去年から。主人と息子に誘われて来たんですが、いまではすっかり私の方がファンになってしまって。今年はもっぱら1人で観戦です」

 香美市内に住む主婦だという。彼女にとって、アイランドリーグの魅力って何だろう?

 「みんなが一生懸命なところ。選手たちが私の息子と同世代ということもあって、近しい感じがしますし。去年(2005)は(リーグが)始まったばかりだったせいか、(選手の)目がギラギラしてたんですよ。でも、今年は少し落ち着いてきましたね。プレーもよくなったのではないかしら」

 まるで子供の成長を語る母親のような口調だった。試合は2対0。高知の右腕、相原投手の完封勝ち。彼女は「相原君の話を聞きにいくので」とちょっと恥ずかし気に席を立ち、ヒーローインタビューが行われる一塁側近くへ移動していった。

 アイランドリーグのファンには、選手を「君」づけで呼ぶ人が多い。

 「ぼくが現役のとき、試合終了後は通路にロープが張られていて、ファンと交流することなんてなかったからね」

 こう言ったのは高知ファイティングドッグスの初代監督の藤城和明さんだ。藤城さんは1977年に新日鉄広畑からドラフト1位で巨人に入団し、エース級のピッチャーとして活躍した。現役引退後は長嶋監督の下、巨人の投手コーチとして優勝に貢献しているが、アイランドリーグでは、当時とまったく違う環境に身を置くことになった。

 「でも、ぼくたちがこうして野球をさせてもらっているのは、地域の皆さんの支えがあってこそ。今年は、去年1回だった農家の田植えの手伝いを3回、ゆずの収穫もやりました」

 アイランドリーグでは試合後、ホームチームの選手が球場前でファンを見送る。土佐山田スタジアムの正面入り口では、ファンが藤城監督にひっきりなしに声をかけていた。先ごろ体調を崩して休養していたそうで、それを心配する声が多かった。

 アイランドリーグを訪れると、どうして幸せな気分になれるのか。それは、若い選手の夢やスタッフの努力を後押しする心優しき野球ファンの愛情が、スタジアムを包んでいるからに違いない。

 この時以来、毎夏、私はアイランドリーグの試合会場へ足を運んでいる。

 四国(または福岡か、長崎)に行かれる機会があったら、ぜひ、アイランドリーグへ。

(芳地隆之)

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