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2013-02-27up

柴田鉄治のメディア時評

第51回

その月に書かれた新聞やテレビ、雑誌などから、
ジャーナリスト柴田さんが気になったいくつかの事柄を取り上げて、論評していきます。

「戦前の日本」とそっくりな北朝鮮

 北朝鮮が3回目の核実験をおこなった。国連安保理の決議も守らず、日本や米国、韓国、ロシアだけでなく、最大の友好国、中国からの要請も無視して強行したのである。先の長距離ミサイルの打ち上げ成功につづき、今回の「核兵器の小型化、強力化」によって、北朝鮮は核保有国への道をまっしぐらに進んでいるといえよう。
 このニュースをめぐって号外が出たほか、日本のメディアには実にさまざまな報道が渦巻いた。北朝鮮に対する厳しい抗議にはじまって、さらなる制裁措置の検討など、どこまで効果があるのかは分からないが、多種多様な反応が報じられたのである。
 さすがに前の核実験のときに政治家から出たような「日本も核武装を」といった物騒な反応は見られなかったが、韓国では核武装論が浮上したそうだし、中国で北朝鮮に対する抗議デモがおこなわれたという珍しい報道もあった。「北朝鮮が核開発に投じているカネで食糧を買えば、国民は飢えることもないのに」と試算した記事まであったのだ。
 「おや?」と思ったのは、「北朝鮮は、リビアのカダフィ政権がたどった道を反面教師にしているのではないか」という見方が米国で出ているという解説記事である。核開発を目指して世界から孤立していたカダフィ政権が、核を放棄して米国の友好国になったのに、「アラブの春」の余波で倒されてしまった経過を見て、北朝鮮は「やはり核を持たねばダメだ」と考えたらしいというのである。
 こうしたさまざまな報道に接しながら、私はもう一つ、日本のメディアにほしい視点として「いまの北朝鮮は戦前の日本とそっくりな国だ」という解説があってもいいのではないか、と思った。
 どちらも国家や軍備がなによりも大事だという軍事独裁政権で、「報道の自由」はなく、政府に都合の悪い情報は国民に伝えず、教育とメディアによって「国民をマインド・コントロール」して、政権にたてつく人は「非国民」として監獄に入れられる社会なのである。
 また、どちらも国際社会から孤立して、戦前の日本が国際連盟から脱退したように、北朝鮮も核不拡散条約から脱退して、外国からの忠告にも耳を貸さなくなっているのだ。
 北朝鮮のテレビが核実験の成功に大喜びする国民の姿を映し出しているのを見て、戦前、「勝った、勝った!」の大本営発表に大喜びして旗行列に駆り出された私の国民学校(当時の小学校)時代を思い起こしたほどである。
 こうした北朝鮮の体制が変わるためには、かつての東欧革命やソ連の崩壊のように、海外からの情報が国内に浸透していくことがカギを握っていると思うのだが、恐らく北朝鮮では短波ラジオを聴こうとしたら、かつての日本の「隣組」と同じような組織が互いに監視しあっているのだろう。
 いまの日本にとって最も大切なことは、核実験に過剰反応することではなく、北朝鮮を反面教師にして、日本が「平和と人権」をなによりも大事にする国でありつづけることだ。それには「報道の自由」と権力を監視するメディアの役割が極めて重要であることを、国民もメディアもこの機会に再確認することではあるまいか。

「東電のウソ」を見破ったスクープ

 今月のニュースで見逃せないのは、2月7日の朝日新聞が朝刊の1面トップで報じたスクープである。福島原発事故の原因究明にあたっている国会事故調査委員会が昨年2月、1号機の非常用復水器の現地調査を決めたところ、東電が現場の映像を示して「このときは照明があったが、いまは真っ暗で危ない」と虚偽の説明をして調査を断念させたというのである。
 1号機の非常用復水器というのは、津波なのか地震で壊れたのか事故原因の焦点の一つになっているもので、そこの現地調査をウソをついてまで阻止しようとしたとは見過ごせない話だ。このウソを見破ったのは、朝日新聞の記者が建築業界の専門誌を調べた結果だというから立派なものであり、また、このニュースを素早く同日の夕刊1面で大きく追った毎日新聞、読売新聞も、当然のこととはいえ立派だった。
 この問題は、国会でも取り上げられ、東電の広瀬社長を参考人として国会に呼び、事情を聴いた。広瀬社長は説明の誤りは認めたが、「意図的なものではない」と組織的な関与は否定している。また、国会事故調はすでに解散してしまったため、非常用復水器の現地調査は、新たに発足した原子力規制委員会が引き続き実施することになった。
 新聞のスクープをもとに国会が大騒ぎとなって波紋が広がることは、昔は珍しくもなかったが、最近は減っているだけにメディアにとって久しぶりの快挙だといっても過言ではあるまい。
 ところで、東電は福島原発事故を起こした当事者であるにもかかわらず、事故に関する情報を「独占」し、公表するかどうかを含めて極めて恣意的に扱っていることに、国民やメディアはもっと怒るべきではないのか。先のテレビ電話会議の映像の開示に、音声を消したり、映像をぼかしたりしたときにも触れたことだが、ここでももう一度、声を大にして指摘しておきたい。
 それと同時に、この問題に関して私はメディアにもう一歩、踏み込んで調べてほしいと要望したい。国会事故調は、東電から「真っ暗で、危ない」と説明を受けたとき、なぜ「それなら強力な照明器具を用意して現場に入る」と言わなかったのか。
 国会事故調は、4つの事故調の中では最も東電に厳しく、「規制する側(原子力安全・保安院や原子力安全委員会)が規制される側(電力会社)の虜(とりこ)になっていたのが原因」とまで指摘していたのである。その国会事故調が、どうしたことか。
 そういえば、地震から3日目の深夜から未明にかけて東電の社長から官邸にたびたび「全面撤退」の通告があり、当時の菅首相が東電本店に乗り込んで阻止した「事件」があったが、国会事故調は、「全面撤退など考えてもいなかった」という東電社長のあとでの言い分を支持し、「官邸の勘違いだった」と断定しているのである。
 国会事故調まで東電の虜になっていたときがあったのかどうか、メディアの解明を期待したい。

ロシア中部に隕石落下のニュースをどう見る?

 今月のニュースで私がどうしても触れたいものに、ロシア中部のチェリャビンスクに落下した隕石の話題がある。
 ニュースには、いいニュースと悪いニュースがあるとよく言われる。その分類に従えば、隕石の衝撃波で3000棟の建物が損壊し、1000人以上が怪我をしたというのだから、間違いなく「悪いニュース」であろう。しかし、私はどうしても、これが悪いニュースとは思えないのだ。
 といって、これが「心温まる、いいニュースだ」というつもりはない。そうではなく、このニュースは宇宙の壮大さ、自然界の大きさに比べて、人間とはなんて小さな存在なのだろう、人間が傲慢になったり、威張ったりするなんて大間違いだ、ということをあらためて教えてくれる貴重なニュースなのでなないか、と思うのだ。
 そういえば、今年は彗星や小惑星が次々とやってくる珍しい年だといわれていた。11月に来るアイソン彗星は、金星より明るく輝く史上最大の彗星になるといわれているし、3月10日に太陽に最接近するパンスターズ彗星は、久しぶりに双眼鏡で見えるうえ、4月まで見え続けるという。
 実はその前触れともいうべき小惑星が2月16日に地球の静止衛星の軌道の内側にまで接近するということが観測から分かっており、15日付の朝日新聞の「天声人語」が「命中コースから、地球二つ分それる気まぐれに感謝したい。(中略)恐竜の絶滅も小惑星の仕業とする説がある。6500万年前に直径10キロ級が衝突、粉じんや煙が太陽を遮り、寒冷化で大型生物が死に絶えるシナリオだ。その点、こんどの訪問者は実に優しい」と書いていた。
 この天声人語を印刷する輪転機が回っているころ、ロシア中部に隕石が落下、爆発したのである。この隕石と通過した小惑星とは何の関係もないらしい。米航空宇宙局(NASA)によると、この隕石の地球の大気圏に突入する前の大きさは、直径17メートル、重さ1万トンだったという。それが大気との摩擦で太陽より明るく輝き、最後は爆発して粉々に散った。
 この隕石の直径17メートルが10キロ級だったら人類は恐竜のように絶滅していたかもしれないのだ。それならそれで仕方ないと思うが、人類の創り出した核兵器による核戦争での絶滅だけは、何としてもごめんこうむりたい。
 そんなことをいろいろと考えさせてくれたニュースだった。

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ロシアでの隕石墜落は、まさに人間のちっぽけさ、小ささを、
改めて痛感させられる出来事でした。
廃棄物の処理方法さえも確立されていない「原発」を、
それでも推進しようとするのは、その「ちっぽけさ」を忘れた、
人間の奢りそのものではないだろうか、と思います。

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柴田鉄治さんプロフィール

しばた・てつじ1935年生まれ。東京大学理学部卒業後、59年に朝日新聞に入社し、東京本社社会部長、科学部長、論説委員を経て現在は科学ジャーナリスト。大学では地球物理を専攻し、南極観測にもたびたび同行して、「国境のない、武器のない、パスポートの要らない南極」を理想と掲げ、「南極と平和」をテーマにした講演活動も行っている。著書に『科学事件』(岩波新書)、『新聞記者という仕事』、『世界中を「南極」にしよう!』(集英社新書)ほか多数。

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