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マガ9レビュー

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本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

vol.137

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「人口減少経済」の新しい公式

松谷明彦/日経ビジネス人文庫

 全人口に占める65歳以下の人口の比率(高齢化率)が7%を超えた社会を「高齢化社会」、14%を超えた社会を「高齢社会」という。日本が「高齢化社会」(1970年)から「高齢社会」(1994年)になるまで、わずか24年。どこの先進国にも見られない早さで国民の平均年齢が上がり、生まれる子供の数が減っていった。いまでは「限界集落」(65歳以上の高齢者が人口比率で住民の50%を超えた集落)が各地に点在している。

 人口が減少し続ける日本の経済は今後どう変わっていくべきか。本書は「『経済規模のわりには貧しい国民生活』という問題を解決する好機」として論じる。

 日本は世界第2位のGDP規模(今年は中国に抜かれるとみられているが)を誇っているにもかかわらず、国民の大半は豊かさを実感できていない。その理由のひとつは、長時間労働のわりには低賃金という「生産効率の低さ」に加えて、企業が設備投資資金を確保するため、企業の付加価値のうちの多くを内部に留保してきたことにある。

 しかし、設備投資のための内部留保も経済規模が拡大するという前提があってのことだ。人口の減少にともない国民経済が縮小していく時代、日本は投資主導の経済から消費主導のそれへシフトしていかざるをえない。その変化は新入社員の採用基準にも変化を及ぼすだろう。大企業が一流と呼ばれる有名大学から、なるべく「まっさらな」学生を受け入れてきたのは、彼らを社内で(企業カラーに)教育するためであった。しかし、そうした余裕のなくなった企業は、採用基準として「どの大学を卒業したか」よりも「大学で何を学んだか」を重視するようになる。終身雇用と年功序列は制度疲労を起しており、企業は個々人の努力と工夫をこれまで以上に求めるだろう。

 大都市への人口集中について、都市に住む若い層が子供を生まなくなっていることから、今後は地方よりも首都圏で急速な老齢化が進むという指摘や、地方経済について、都道府県単位を越えて、互いの長所を生かし、不足を補うような広域経済圏を構築すべきという提唱など、本書は人口減少時代における日本のかたちについて様々な角度から光を当てる。

 そのすべてに首肯できるわけはないが、本書は厳しい現実の先に希望を見ようとする姿勢を貫いている。だから読者は、自分たちがこれから迎えるだろう時代を前向きに想像できるのである。

(芳地隆之)

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