米軍基地から出る残飯を安く買い取り、養豚業でひと儲けを企む横須賀のヤクザ組織。この町では、軍人向けのダンスホールやキャバレー、そして非合法の売春宿まで、多くの日本人が基地ビジネスで食べている。
組の若いチンピラ欣太は、恋人の春子に「2人で横須賀を出て、川崎で堅気の生活をしよう」と言われている。しかし、おいしい商売をやめる気はない。その春子は母親や姉から米軍将校の「妾」になれと言われていた。そうすれば月4万円の収入になるからだ。親戚筋から「妹をアメリカ兵に売るなんて」と難詰されると、春子の姉、勝代は気色ばんで言い返す。
「何が、パンパンだいッ、これは立派なオンリーじゃないか!」
「パンパン」とは戦後、米軍兵士を相手にしていた娼婦に対する蔑称だ。「オンリー」とは「1人の兵士と関係をもつ」という意味。勝代は「売春と一緒にするな」と怒ったのである。
日本がまだ貧しかった時代。しかし、世界第2位の経済規模を誇る現在も、米軍基地の周辺に生きる人々の生活の根本は変わらないのではないか。
この映画の圧巻は終盤の20分。組の親分の裏切りによって、夜中に十数台のトラックで連れ出された豚たちが荷台から放たれ、基地の町を席巻する。そして人間たちも豚の群れに飲み込まれる。下手な解釈など寄せつけない、観る側を圧倒するシーンである。
役者もいい。主人公の長門裕之は、地に足のつかないチンピラぶりがさまになっている。最後の惨めな死に様など、後の東映ヤクザ映画に影響を与えたのではないかと思わせるほど。春子役の吉村実子は若さとたくましさを体現し、組の若頭役である丹波哲郎は、そのニヒルな風貌と少々のずっこけぶりで笑いを誘う。
だが、一番強烈な印象を与えるのは大衆食堂と売春宿を切り盛りする勝代役の南田洋子だ。
「ベースの兵隊たちはすれっからしのけちん坊だしよ! たまに軍艦が入ったら、手入れだ、取り締まりだと言いやがって! お互い様じゃないか、ばかやろう! 死んだらアメリカまで化けて行ってやるからな!」
売春宿の取り締まりで踏み込んだ警察に対して切る啖呵は、爽快感さえ漂わせる。
この映画は、主演の長門裕之と結婚する以前の仕事だった。晩年、彼女は長らくアルツハイマー病を患い、先月、くも膜下出血で76年の生涯を終えた。ご冥福を祈りたい。
(芳地隆之)
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