原題は「ホワイトライト・ブラックレイン」。原子爆弾が放つ閃光と、爆発後に降ってきた放射能混じりの雨を指している。
先日、初来日したオバマ大統領の広島・長崎訪問はかなわなかったが、同大統領の「世界で初めて核兵器を使用した国の責任」(プラハ演説)という言葉と「核兵器の廃絶を目指す」意思は本気だと私は思う。この映画に登場するエノラ・ゲイ(広島に原爆を落とした爆撃機)に搭乗した飛行士たちは、新型爆弾の威力を上空で見せつけられたとき、「とてつもない爆弾を落としてしまったことに、しばらく言葉を失った」という。そして、いまこう語る。
「『イラクに原爆を落とせばいいじゃないか』と勝手なことを言う者もいるが、とんでもない。核兵器は使える兵器ではないのだ」
広島、長崎の被爆者がカメラの前で語る言葉に、まずは静かに耳を傾けたい。
炎に包まれながら「お母さん、熱いよお」と叫びながら死んでいった弟、触ったとたんに皮膚が灰のように零れ落ちる全身丸焦げになった母親、首のない幼児を背負ったまま水を求める老女……。
被爆者の回想に私は何度か耳を覆いたくなり、焼けただれた人々の当時の映像に目を背けたくなった。そして、そのたびに姿勢を正した。歴史の事実から目を背けてはならないという義務感だけではない。この映画の、多くの被爆者の声と表情を細やかなカットでつなぐ手法により、スクリーンから一時たりとも目を逸らせなかったのである。
以前、当サイトの「この人に聞きたい」に登場していただいた、自身も被爆者である広島県の医師、肥田舜太郎さんが言うように、奇跡的に生き残った人たちには、その後の辛い人生が待っていた。突然、高熱が出て、大量の血を吐き、髪の毛が抜け落ちて、全身に紫斑ができるといった原爆症の苦しみ。それに追い討ちをかけるような「被爆者に近づくと伝染病がうつる」などの流言。原爆は、広島と長崎で、それぞれ14万人、7万人の命を瞬時に奪ったが、被爆の影響で亡くなっていく方々は、いまも後を断たない。
この90分足らずのドキュメンタリーを観る前と観た後では、「日本は世界で唯一の被爆国である」ことの意味の重さがまったく違って感じられるはずだ。
(芳地隆之)
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