このたび文庫化されたこの本を読んで、超大国の国民が置かれた厳しい現実を描いた「報道が教えてくれないアメリカ弱者革命」や「貧困大国アメリカ」といった作品の原点を見る思いがした。
9・11での経験。ツインタワーに旅客機が突っ込んだとき、隣りに立つ金融センター19階、野村證券のオフィスにいた著者は、何が起きたのか分からず、パニックに陥ったまま地上を目指した。ビルを出て、フェリーでマンハッタンを脱出するまでの描写は臨場感に溢れ、読者はぐいぐいと引き込まれる。しかし、著者はその勢いで、同時多発テロ後の逆上するアメリカを追うことはしない。自分の好きだったアメリカの変化に戸惑い、立ち止まって、9・11に遭遇するまでの自身のアメリカ生活を振り返るのである。
ニューヨーク州立大学で学ぶ日々、国連での官僚的な組織運営への疑問、アムネスティ・インターナショナルでの奮闘と突然のリストラ……。
9・11によるPTSD(テロ後遺症)に苛まれながら、自分と自分が生きる世界について考え続ける著者は、内に熱い正義感を秘めるとともに、客観的に自分を見つめる冷めた目を持ち合わせていた。スニーカーを履き、安い給与で働いていたアムネスティ・インターナショナルから、高級スーツで身を包み、世界の金融センターへ転進したときの高揚感、ニューヨーカーというプライド、日本人の内向きな姿勢を見下していた自分の態度などを率直に語る。そして得た結論は、住み慣れたアメリカを離れて日本に戻り、世界をもう一度見直してみること――。
堤未果というジャーナリストがどうやって生まれたのかがよくわかる。
内容は必ずしも時系列で進まない。ときどき、これはいつの時代――9・11前? それとも後? ――とページを繰るのを止めて確認することもあったが、文面が発する著者の「書かずにはいられない」衝動のようなものが、それを補って余りある。
感度のいいアンテナをもった若い人たちは、本書をもう手にとっているだろう。私としては、日々の生活に追われ、仕事や家族のこと以外、なかなかじっくり考える機会のない中高年にお勧めしたい。
(芳地隆之)
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