「ダーウィンの悪夢」(2004年)、「おいしいコーヒーの真実」(2006年)など、グローバリズム経済がもたらす恐ろしいまでの格差や環境破壊といった問題を抉り出すドキュメンタリー作品が近年、上映されている。この映画も同じテーマを扱っているが、こちらは事実をベースにした群像劇だ。
1999年12月、WTO(世界貿易機構)閣僚会議が開催される米国の都市、シアトルが舞台。WTOとは自由貿易を支え、促進していくための国際機関である。しかし、自由貿易という大義名分の下、関税障壁の撤廃を求めるWTOは、ときに巨大な多国籍企業の利益を代弁し、市場における弱肉強食的な行為を正当化する機関とみなされる。
自由貿易は武器を使わぬ国境侵犯だとする人々が、WTOに異議申し立てをすべく、シアトルに結集した。
当時のシアトル市長には、デモ隊に対して非暴力を求める代わりに言論の自由を保障する良識があった。しかし、会議を中止させるデモ戦術、デモの強制的排除を求める米国政府の意向、さらには警察が送り込んだスパイによるデモ隊の扇動など、各立場の思惑がデモを過激化させ、警察に催涙弾の発射など、デモを弾圧する理由を与えてしまうのである。
映画は警察とデモ隊の対立のみを描くのではない。警察の現場責任者の妻は騒乱のなか流産の悲劇に見舞われ、女性のテレビキャスターはクビを覚悟に、当時のクリントン大統領へのインタビューよりもデモの取材を優先する。暴力行為を避けようとしていたシアトル市長の苦悩も重い。
会議出席者も様々だ。「エイズなどの難病患者を治療するため、市場原理を越えた医薬品の安価な提供を」と訴えにきたボスニア・ヘルツェゴビナの代表。自由貿易をうたいながら、自国に流入されては困るものに対しては高関税をかける先進国に不満をもつアフリカの国の代表。彼らはデモに触発され、会議の場で大国の横暴やエゴを批判する。
見終わって、もう少し時間をかけて登場人物たちを掘り下げてもよかったのではと思ったが、そうすると、この映画のもつ小気味よいメッセージ性が失われてしまうような気もする。
スチュアート・タウンゼント監督は1972年生まれの30代。俳優出身で、これが初メガホンである。日本では劇場未公開。日本語版DVDの販売元に感謝したい。
(芳地隆之)
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