オペラ演出家としても知られるフランコ・ゼフィレッリ監督の作品である。舞台は1930年代後半のフィレンツェ。主な登場人物はイタリアの歴史と芸術の都を終の棲家と決めた英国の老婦人たち――元駐イタリア英国大使婦人のヘスター、古典絵画の修復で生計を立てている芸術家アラベラ、服地商で秘書を務めるメアリーなど、出自や職業は違うが、大英帝国の誇りを片時も忘れないような女性たちだ。
そして、アメリカ人画商で、元踊り子のエルサ。あけっぴろげな明るさと成金趣味は、ヘスター婦人らとは対極のキャラクターである。それにもう一人、服地商経営者の息子、ルカが加わる。彼は父親と愛人の間に生まれた私生児で、孤児院施設に預けられているのだが、父の願いでメアリーから「英国紳士」になるよう教育を受けている。
しかし、ときは独裁者、ベニト・ムソリーニが権力を振るう時代だ。フィレンツェの外国人居住区に住む英国婦人たちの領域はファシストたちに侵されていく。
そこでヘスター婦人はムソリーニに、自分たちの身の安全を保証するよう直訴する。彼女はその際に撮った「ムソリーニと午後のお茶を楽しんだ」記念写真を錦の御旗に、黒シャツ隊(ファシスト党の武装行動隊)の横暴に抗議するが、ムソリーニには、はなから英国婦人のことなど頭になかった。
ヘスター婦人の姿は、ヒトラーに対する宥和政策で、結果的にヒトラーのヨーロッパ侵攻を許してしまった当時の英国首相、チェンバレンを連想させる。上流階級のナイーブさなのだろうか。ムソリーニを信じた老婦人たちはイタリア・ファシズム政権によって、フィレンツェの南西にある古都、サンジミニャーノに幽閉されるのであった。
そんな彼女たちの生活を何とか改善させようと骨を折るのは、英国婦人から毛嫌いされていたエルサである。しかし、ユダヤ人であるエルサにも身の危険が近づく。そこでルカの出番だ。英米の女性たちを救うのは、メアリーからシェークスピアの素晴らしさを学んだイタリア人青年であった。
ファシズム下のイタリアを描いた作品にもかかわらず、全編、美しいトスカーナ地方をバックにしているせいか、この映画は観る者の心を和やかにしてくれる。いささかご都合主義的な展開や、イギリス万歳! みたいなところは鼻につくけれど、ラストでサンジャミーノがスコットランド人部隊に解放されても、イングランド人・ヘスター婦人の変わらぬプライドの高さは痛快だ。そして何より、ルカが監督の分身であることを知らされて、この映画の面白みと深みが倍増したのである。
(芳地隆之)
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