「美しい国」というスローガンを掲げて登場した初の戦後生まれの総理大臣は、臨時国会の開会直後に政権を投げ出した。「野党党首が国会運営に協力してくれない」のが理由だという。2007年9月のことである。彼の後に首相の座についた人は臨時国会前に辞めた。前任者の投げ出しからちょうど1年後、(政権投げ出しは)無責任ではないかという記者に対して、「あなたとは違うんです」とキレた。
2人とも祖父や父親が総理大臣経験者である。都心の一等地に住んで私立の学校に進学し、厳しい受験勉強に揉まれることなく、卒業後はしばらく民間企業に身を置いてから、親族の地盤(後援会)、カバン(政治資金)、看板(知名度)を引き継いで立候補した。
現職の総理大臣は3世だ。突然、ハローワークに現れたかと思ったら、地元に求人がなく、とにかく職をと上京した若者に対して、「何をやりたいかを決めないと、就職は厳しいだろ」と説教を垂れた。自身が初めて出馬した選挙のとき、有権者に向かって「下々の皆さん」と呼びかけただけのことはある。
著者によれば、こうしたひ弱で世間知らずのお坊ちゃん政治家の性格形成に寄与するのは、何でも尻拭いしてくれる後援会の存在と、本来なら相続税の対象となるはずの政治資金を非課税で相続できる仕組みだという。政治家の子弟の名前に「一郎」や「太郎」が多いのは、有権者に名前をすぐ覚えてもらうためというくだりには笑ってしまったが、極めつけは「おわりに 政治記者にはなぜ政治家の二世が多いのか」の章だった。
逓信族、総務委員、郵政・総務大臣経験者に対するテレビ局の気の遣いようは尋常ではないという。政治家は放映免許の許認可、放送法を改正する権利を握っている。だから政治家に頼まれれば、テレビ局側は子女をコネ入社で受け入れる。子女にとっても、議員バッジをつけた後のマスコミ対策にもなる。どうりで、ときどき首を傾げたくなる、変なバイアスのかかった報道があるわけだ。
著者は、日本も英国に近い政党本位の選挙をすべきだと主張する。私はしばらくドイツにいたことがあるが、同国には世襲議員なる政治家はほとんど存在しなかった。
イタリアで「酔いどれ会見」を行った大臣も世襲議員だった。彼は辞任後、北朝鮮の核実験に対して、「日本の核武装」について語り始めたが、相手とタフな交渉をする胆力のない人に限って、国内向けに勇ましい発言をすることが多い。冒頭に述べた元総理大臣は、国会の代表質問を前に辞任という、いわば「敵前逃亡」したにもかかわらず、次回の衆議院選挙の公約に「集団的自衛権の行使を含めた憲法解釈の変更を入れよ」と言っている。
子供の火遊びレベルの議論とは、ぼちぼちおさらばしたいものだ。
(芳地隆之)
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