この映画はピーター・バラカンさんがインタビューのなかでお薦めしているから、いまさら私が取り上げるまでもないと思っていた。だが、先日、亡くなった忌野清志郎さんのエッセイにある「この国の憲法第9条はまるでジョン・レノンの考え方みたいじゃないか?」との一節を思い出し、いてもたってもいられない気分で「ピースベッド」を観なおしてみた。そして時の政権に脅威と感じさせた音楽家の存在にあらためて驚いた。
ベトナム戦争を遂行していた当時のアメリカ政府が、反戦メッセージを発し続けるジョン(と彼の妻、オノ・ヨーコ)をいかに敵視していたか――記録映像や多くの関係者の証言、政権内部の秘密文書や写真をちりばめたコラージュ、そして全編に流れるジョンの曲を通して語られる。
50年近くにわたってFBI(米国連邦捜査局)長官を務めたフーヴァーはジョンとヨーコに尾行をつけ、電話を盗聴し、はては国外退去処分にしようとした。
だが、ジョンは一歩も引かなかった。ときにユーモアを交えながら、世界の超大国に対峙する。平和のメッセージを受け止めた世界のファンがジョンを支えたのだろう。誰でも口ずさめるメロディがそれを可能にした。
音楽はとてつもない力を秘めている。
ジョンは裁判闘争を通して、米国の永住権を得た。一方、彼を毛嫌いしたニクソン大統領は、「盗聴」という自らの策に溺れて(ウォーターゲート事件)大統領の職を失った。
ジョンには、「スターである自分のメッセージが社会にどのような影響を与えるのか」を計算するしたたかさもあった。それがアメリカとの戦いに勝利することへつながるのだが、1980年12月、思いもかけない死が彼を待ち受ける。
“Give Peace A Chance”“Power To The People”“War Is Over If You Want It”…… 。忘れられないフレーズの数々。この映画を見た後、忌野清志郎さんによる“IMAGINE”の日本語カヴァーを聴いた。ミュージシャンの発する言葉の熱が身体のなかを駆け巡るようだった。
(芳地隆之)
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