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マガ9レビュー

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本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

vol.100
チョムスキーの「アナキズム論」

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ブラックホークダウン

2001年米国/リドリー・スコット監督

 1992年12月、米軍は激しい内戦状態に陥ったソマリアでの国連ソマリア活動に加わった。アフリカの角と呼ばれる同国の海岸に上陸した米海兵隊を待ち受けていたのは、米国メディアによるフラッシュの雨。人道的介入の「瞬間」に立ち会うため、ジャーナリストたちは戦場に先回りし、カメラやビデオを構え、待っていたのである。

 海兵隊員はその後、首都モガディシオでソマリア最大の軍閥、アディード将軍率いる武装勢力幹部の拉致を目的とした極秘作戦を敢行する。1時間もあれば完了するといわれた計画は、米軍の戦闘用ヘリコプター「ブラックホーク」の撃墜で破綻し、18名が命を落とした。

 戦場に残された米兵の遺体は身ぐるみはがされ、モガディシオ市内を引きずり回された。この映像が流されると、米国の世論は撤退へと一気に傾き、当時のクリントン政権は米兵をソマリアから引き上げさせる。

 メディアに始まり、メディアに終わった人道的介入だった。ここから得た米国の教訓は「国連とともに平和維持活動をするとろくなことがない」。その後の米軍はNATOによるセルビアやコソボへの爆撃、英国軍とのイラク侵攻と、国連決議の縛りのない独自行動を選択するようになる。

 この映画は、そうした背景は抜きに、国連軍にさえ知らせなかった軍事作戦へ焦点を絞って描く。『地獄の黙示録』を思い出させるブラックホークからレンジャー部隊はロープを伝って戦場に降りていくのだが、ヘリはその後、民兵の迫撃砲を受けて、旋回しながら落下。悲劇は始まった。

 徹頭徹尾、アメリカ側から見た作品である。ソマリア人の視点など、これっぽっちもない。ソマリア民兵は残虐この上なく、モスクから響くコーランは不気味な効果音のような使われ方だ。リドリー・スコット監督のソマリアを見る目線の位置がよくわかる。

 にもかかわらず、この映画を推すのは1時間以上に及ぶ市街戦のシーンゆえだ。ドラマチックな展開への誘惑を断ち切るかのように、監督は若き米兵たちが追い詰められていくさまをリアルかつ執拗に描こうとする。

 最終的にソマリアを見捨てた国際社会は、それから10年以上の時を経て、アデン湾での海賊対策というツケを払っている。はたして先進国は半永続的に自国の戦艦をタンカーと併走させるつもりなのだろうか。

 日本政府は海賊対処法案を早期に成立させる方針のようだが、「海賊との戦い」などという耳あたりのいいフレーズで軍事行為を正当化していると、いずれアデン湾が海上のイラクになってしまう。そんな気がしてならない。

(芳地隆之)

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