2008年4月、名古屋高裁が、航空自衛隊によるイラクでの空輸活動の一部を「武力放棄を定めた憲法9条1項に違反している」と判断したのに対し、当時の田母神航空幕僚長が「そんなの関係ねえ」と放言したのは記憶に新しい。本書を読むと、その発言の背景には、田母神氏の幕僚長としての資質の問題だけでなく、日本政府のなし崩し的な司法無視の姿勢がくっきりとみえてくる。
イラクの復興支援を目的にサマワに駐屯していた自衛隊は13回にわたって迫撃砲やロケット弾による攻撃を受けた。しかし、その事実は伏せられた。イラク派遣は、当時の小泉首相が前のめりにブッシュ大統領と交わした約束である。自衛隊の派遣される場所は(小泉氏が言うように)「非戦闘地域」でなければならなかった。結果、自衛隊は堅牢な要塞のような駐屯地に引きこもることになる。
アメリカとの約束を守ることに汲々とし、自衛隊の派遣を決定した後はほったらかしの政治家。一方、嘘がまかりとおる政府のアナウンスのなかで現場活動を続けなければならない自衛隊。シビリアンコントロールのたがは外れてしまっている。
上述の航空自衛隊の空輸活動だが、人道支援物資や国連などの国際機関職員の輸送という本来の任務は少なく、実際には米兵を運んでいたという。C130輸送機は彼らから(どこにでも行ってくれる)「タクシー」と呼ばれていたそうだ。
本書の最終章で報告されるのは、アメリカのミサイル防衛(MD)システムと米軍再編にずるずると組み込まれる日本政府と自衛隊の姿である。1発20億円といわれる海上配置型迎撃ミサイルは、売り手(アメリカ)でさえ、その精度を十分に信頼していない代物だ。にもかかわらず、買い手(日本)は言い値で払ってしまう。沖縄海兵隊のグアム移転に伴う米軍用住宅の価格は一戸あたり5000万円。プール付の邸宅が買える額だ(そのために日本国民の税金から拠出されるお金は6000億円以上といわれる)。国内に目を転じれば、岩国への空母艦載機部隊の移設、そして佐世保の準母港化――。
「テロの危険がなく、光熱水料や基地従業員の給与まで負担してくれる日本はますます『米軍の楽園』となることだろう」との著者の言葉に頭がくらくらしてきた。
なし崩し的に米軍に組み込まれることを、自衛隊自身がよしとしているわけではないとも著者は言う。海外へ派遣された自衛隊員の礼儀正しさ、高い技術、相手国への尊重の姿勢などが他国の軍隊に高く評価されていることは、当サイトでの著者へのインタビューでも語られている。自衛隊のあるべき姿を考えたとき、傾聴に値する指摘だろう。
長年にわたり自衛隊を取材してきた著者ならではの優れたルポルタージュである。
(芳地隆之)
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