本書の主眼は、フェミニズムとは何かを論じることにではなく、「女も男みたいに100メートル十秒切れるようになったら、男と対等に物を言え」というような理不尽な物言いに対して、言葉で反撃する術を伝授することにある。
3年間の東京大学・上野千鶴子教授のゼミを通して、その方法論を確立した著者の「ケンカのしかた・十箇条」は必読だ。たとえば、後半部分の「言葉に敏感になる」(十箇条・その7)には、
「どんな些細な言葉でもいい。不用意に出た言葉、無自覚に使われる表現、曖昧になっている言葉、すべてが攻撃対象だ。戦いはそこからしか始まらない」
抽象論を展開してもだめ。相手の矛盾を徹底的に衝くべし。それも「間をあけない」(十箇条・その8)で。相手に考える時間を与えず、立ち上がる猶予を与えず、矢継ぎ早の質問でたたみかけるのである。
ただし、その際「声を荒げない」(十箇条・その9)こと。罵声を浴びせたりするのは、相手の冷静さを際立たせることになって逆効果だ。テレビ朝日系列の討論番組「朝まで生テレビ」に出演する東大教授、姜尚中氏のように、よく通る低い声と丁寧な口調で、相手の痛点をつくやり方を身につけよう。
上野教授は著者に言う。相手にとどめを指すのではなく、もてあそぶ方法を覚えよ。そうすれば勝敗は聴衆が決めてくれる、と。
私たちはしばしば、9条に関する改憲派と護憲派の論戦で、前者が後者をもてあそぶ場面を見せられてきた。本書は、その関係を逆転させるノウハウとしても学ぶところ大なのだが、「ケンカのしかた・十箇条」のその10は「勉強する」こととオーソドックスに著者は書く。
私たちは、上野教授や彼女の周りに集う「学問のプロ」のレベルに達することはできない。でも、彼女たちの成果を自分のものにすることはできる。学者の仕事を自分流に活用させてもらえばいいわけだ。
本書の魅力のひとつは抜群のユーモア。笑いながらすいすい読めて、本を閉じるころには戦闘意欲が湧き、手近なところで実践したくなってくる。ただし、ケンカ慣れしていない人がやると、相手にとどめをさしてしまったり、勢い余って自爆したりすることがあるから、要注意。
(芳地隆之)
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