1929年のシカゴが舞台である。新聞というメディアによって、多くの人々が情報を共有できるようになり始めた時代だ。
当時のアメリカでは、死刑は電気椅子ではなく、絞首刑だった。本作品は、絞首刑台が設置される刑事裁判所の中庭と、同じ建物のなかに設けられた記者クラブの場面から始まる。
死刑囚ウイリアムズの罪は警官殺し。記者クラブに集まった各紙の記者は、紫煙をくゆらせながら、左翼的な思想をもった男の死刑執行を待っている。13階段を上り、目隠しされた死刑囚が吊るされるまでの過程を、衝撃的に、あるいは情緒たっぷりの記事に仕上げるためだ。
死刑には、国内の過激派(日本語字幕では「過激派」だが、オリジナルは「コミュニスト」とされている)に対する見せしめや、現市長が次期選挙のために黒人票の獲得をしたい(ウイリアムズは黒人警官を撃ち殺した)といった政治的な思惑も絡み、司法とつるんだ記者たちが彼らの意向を後押しする(映画では、新聞記者は「ジャーナリスト」ではなく、「ニュースペーパーマン」と呼ばれている)。
何だかいまでも十分通じるテーマで、暗澹たる思いにさせられるが、そこはビリー・ワイルダー。偽善や矛盾を毒のある笑いでちくり、ちくりと刺しながら、語り口はあくまで軽快だ。
それを支えているのがウォルター・マッソーとジャック・レモンのコンビだろう。いつも苦虫を噛み潰したような顔で、「シカゴ・エクザミナー」紙の1面(フロントページ)に特ダネを載せて、数十万部を売ることばかりを考えている編集長のウォルター・バーンズをマッソーが、陽気でフットワークが軽く、取材と文章には抜群の冴えを見せる記者、ヒルディ・ジョンソンをレモンが演じる。
仕事、仕事で妻子に愛想をつかされた記者稼業から足を洗い、再婚して人生の新たなスタートを切ろうとするヒルディと、あらゆる手を使って、彼を新聞社に留まらせようとするウォルター。そんな二人の関係を軸に、死刑囚の脱獄や彼を守ろうとする娼婦の自殺未遂など、話はめまぐるしく展開されるのだが、よく練られた脚本は物語をバタつかせることなく、ラストもしっかりオチをつけてサービス精神を発揮する。
ウィーン生まれのユダヤ人、ワイルダーは『フロントページ』の時代、ベルリンで新聞記者兼ジゴロとして生活していた。そんな折、彼は偶然、オペラハウスでアドルフ・ヒトラーを見かけた。その数年後、ヒトラーは政権を握り、ワイルダーはドイツを去り、アメリカへ向かうのだが、「オペラハウスで私がヒトラーを撃っておけば」とワイルダーは、評伝『ビリー・ワイルダー自作自伝』のなかでユーモアを込めて悔やんでいる。
題材がどんなに深刻であっても、笑いという武器で観客を画面に引き付ける彼の職人技は、ドイツでのファシズム体験と無縁ではない気がする。
この作品の日本語版DVD、ぜひともリリースしてほしい。
(芳地隆之)
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