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マガ9レビュー

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本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

vol.53
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夢助

忌野清志郎/ユニバーサルJ

 昨年1月、NHK・BSで放映された「君はオーティスを聴いたか 忌野清志郎が問う魂の歌」という番組で、忌野清志郎(キヨシロー)はオーティス・レディングの足跡をたどる旅に出た。

 オーティスを乗せた飛行機が墜落したのは1967年12月10日。享年26才。飛行機が落ちたウィスコンシン州マディソンのマノナ湖に佇むキヨシローの横顔は少年のようだった。

 番組では、その後、キヨシローがアメリカのミュージシャンたちとともにオーティスに捧げる歌をつくる姿を追うのだが、そこでできた曲「オーティスが教えてくれた」は、このアルバムに収録されている。

 私はキヨシローを通して、オーティスを知った。オーティス以外にもアレサ・フランクリン、サム&デイヴ、マディ・ウォーターズなど、キヨシローや彼のRCサクセション時代からの盟友、仲井戸麗一(チャボ)が大好きなミュージシャンだからと、自分も聴き始めた。ソウルやブルースの何たるかさえ知らない10代の私にとって、それは新しい世界だった。

 キヨシローほど、日常使い慣れた言葉を歌にするミュージシャンも珍しい。でも聴いていて飽きないのは、そこに彼の音楽のルーツと、その積み重ねの上に生れる新しさが感じられるからだと思う。

 チャボはかつてこう言ったことがある。

 「あいつ(キヨシロー)の歌は、くだらない歌詞であればあるほど、生きてくる」

 ラブソングであれ、ときには反戦歌であれ、言葉の数々は、キヨシローの声とリズムに乗ったとたんに躍動感を帯びてくる。
 (「毎日がブランニューディ」の歌詞にある、)「75%忘れたって……。」ときどき人を食ったようなことばを放つのもキヨシローの魅力だ。
 そんなとき彼はとても楽しそうに見える。2005年にキヨシローがデビュー35周年を記念して発表したシングルもそうだった。RCサクセションの名曲をライムスターと組んでラップ調にアレンジした「雨上がりの夜空に35」。彼はごきげんにシャウトしていた。

 その後、キヨシローは自らが癌にかかったことを告白し、1年半の闘病生活を経て、今年の2月、日本武道館のステージで復活する。
 予測を裏切る彼の音楽、聞き逃せない。

(芳地隆之)

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