「日米同盟」という言葉が強調されるようになったのは、イラク戦争が始まったころだろうか。それまで使用頻度の高かった「日米安保体制」に比べると、「同盟」には運命共同体のような響きがある。
だが、はたして私たちは、唯一の同盟国「アメリカ」をどれだけ知っているのだろうか。消費生活や娯楽、文化など、戦後、多大な影響を受けてきたにもかかわらず、私たちはこの国が歩んできた歴史に意外と疎いのではないか。
アメリカ合衆国は宗主国イギリスとの戦争に勝ち抜いて独立と建国を達成して以来、絶えて外敵の侵入に縁のなかった国である。なるべく揉め事には巻き込まれないよう世界と距離を置くというのが、長らくこの国のスタンスだった。ゆえに常備する軍事力は手薄だった。
ただし、これは戦闘を好まない国民性からくるのではない。自由を尊ぶ国では、国家への暴力の集中をよしとせず、身を守るには国民自らが武装すべしと考えられたのである。そこにこの国の銃規制の難しさがあるのだが、国としてのアメリカは大西洋と太平洋という巨大な海洋によって外敵から守られていた。
天然の防波堤が防波堤足りえなくなったことを痛感させたのは真珠湾攻撃だった。「パールハーバー」は、自由を守るというアメリカ国民気質を鼓舞するとともに、空を制する者が勝つという新しい時代の戦争への挑戦に彼らを駆り立てた。
この体験がアメリカに世界の軍事大国への道を歩ませるものの、空の制圧はベトナム戦争で挫折する。映画『地獄の黙示録』で鮮烈な印象を観客に植えつけたヘリコプターは、敗北のイメージとして記憶されることになった。
本書を読み進めていくと、ベトナム後遺症をアメリカ国民から振り払ったのは、9・11だったように思えてくる。多くの犠牲者を出した米国同時多発テロ事件は、衝撃や悲しみと同時に、アメリカ国民に一体感とある種のユーフォリアを与えた。事件後、ニューヨーク市内での犯罪発生率が低下したというのは有名なエピソードである。9・11以降、ニューヨーカーはとても親切になったとも言われた。
とすれば、アメリカは内に善意を満たすとともに、外に向かっては激しい攻撃性を表出したことになる。
なぜ、善意が空爆へと結びついてしまうのか。本書はそこに焦点を絞ることで、アメリカ現代史の深層をうまく浮き彫りにしている。
(芳地隆之)
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