タイトルに惹かれて本書を手にした。
「赤頭巾ちゃん」や「3匹のこぶた」など、オオカミは童話の悪役として使い勝手のよいキャラクターだ。そのため子供たちには、邪悪で狡猾なイメージがインプットされがちだが、子供の頃、「オオカミ(を悪く言うの)は可哀想だ」という友だちがいた。
オオカミだって、生きるためには食べなきゃいけないのに――。
日本では約100年前、牧畜の捕食被害を防ぐために一頭残らず、駆除されてしまった。そして現在、天敵のいなくなったシカやイノシシ、サルによる農林業への被害が深刻化している。
異常繁殖したシカによって草が食べ尽くされ、あげくに木の幹まで齧られて、まる裸にされそうな山や、イノシシやサルに農作物を荒らされるのが日常茶飯事の集落もある。日光からシラネアオイやヤナギラン、それにニッコウキスゲが姿を消したこと、また、かつてシカを見ることのなかった尾瀬にも出没しているという事実はショッキングだ。
だからこそ、日本にオオカミを放てと、日本オオカミ協会のメンバーら、著者たちは主張する。オオカミは、シカやイノシシを捕食して、数を調整するだけではない。オオカミによる食い散らかしは、他の生き物の餌や土に返って植物の栄養となり、その結果、複雑で豊な生態系を回復させる役割を果たすのである。
とはいえ、放たれたオオカミは人間を襲うのではないか。
こうした不安は当然生じるだろう。しかし、オオカミは人間を恐れるので、めったに姿を現さないという。日本の昔話に「悪い」オオカミがほとんど登場しないのは、古来の日本人にとって、この動物が土地の神様として、畏怖の対象だったからだ。私たちのオオカミ観は輸入されたものなのである。
ある山を見て、「あそこにはオオカミが住んでいる」と想像してみよう。いままでよりも自然に対して謙虚な気持になるはずだ。
(芳地隆之)
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