2003年12月、自衛隊のイラク派遣に関する閣議決定の理由として、当時の小泉首相は記者会見で「テロは許さない」、「国民の精神が試されている」などと述べた。
こうした単純なフレーズで9条改定の道筋がつけられることに警鐘を鳴らしたのが、防衛省(当時防衛庁)の元幹部たちである。
日本の防衛政策は「平和憲法の下にある祖国防衛が中心である」と小池清彦氏(元防衛庁教育訓練局長。現加茂市長)は言う。小池氏から見れば、9条改定は自衛隊を海外に派遣する目的以外の何ものでもない。
防衛庁官房長を務めた竹岡勝美氏は、自分が同庁に出向した際、「自衛隊員が最も張り切るのは災害派遣だ」と聞かされた。竹岡氏によれば、米軍は、日本の隣国である中国、ロシア、南北朝鮮に対日侵攻の名分、メリット、能力がないことは十分承知しており、
「在日米軍再編の『中間報告』や『最終報告』も、このような四国からの本格的な対日上陸侵攻などには一切触れていません」
米軍が脅威と見なしているのは、東アジアではなく、そのさらに西の中東地域だろう。一方、日本はこれまで、この地域と友好な関係を築いてきた。だから、日本政府がいくら新テロ特措法の意義を語っても、日米の利害の対立を「国際貢献」という言葉でうやむやにしているようにしか聞こえないのである。
最後に登場する元防衛庁政務次官の箕輪登氏は、自衛隊イラク派兵差止訴訟を起こした。
かつてはタカ派と呼ばれた箕輪氏であるが、郵政大臣時代、広島の原爆記念館で「戦争とは血を流す政治であり、外交とは血を流さない政治である」と署名している。同氏は、高遠菜穂子さんらがイラクで人質になったとき、アルジャジーラ放送局を通して、自ら身代わりを申し出た。
本書は、防衛政策に直接関わった専門家による9条擁護論だ。
「兵を動かすことを好む者は滅ぶ、正兵法大けがのもと、剣は磨くべし、用いるべからず、古今の兵法の鉄則であります」(小池氏)。
そんな彼らの基本姿勢を肝に銘じておきたい。
(芳地隆之)
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