フランスの植民地、北アフリカ・アルジェリアの首都、アルジェ。1960年代に製作されたこの映画を観ると、「歴史は繰り返す」という言葉に真実味が増す。
拘束したアルジェリア人を逆さ吊りにしたり、身体にバーナーの火を近づけたりして、フランス軍がアルジェリア解放戦線の仲間の居場所を吐かせようとする拷問シーンは、アルグレイブ刑務所でのアメリカ兵によるイラク人捕虜虐待のようだし、地元住民が住む迷路のようなカスバ地区と支配者であるフランス人が住む欧州人地区を隔てる鉄条網は、エルサレムのヨルダン川西岸に建てられたイスラエル人とパレスチナ人の分離壁を連想させる。
そして、欧州人地区への爆弾テロ。解放戦線の妻たちがバー、ディスコ、空港に時限爆弾を仕掛ける。耳をつんざく爆音と一帯を覆う硝煙のなか、額から血を流し、うつろな目でふらふらと出てくる被害者のシーンは、否が応でもバクダッドでの自爆テロと重なった。
ここで言うテロとは支配者側のボキャブラリーだ。20世紀のフランス軍も、21世紀のアメリカ軍も、自ら「平和と安定をもたらす使者」を任じ、欧米の植民地支配に抵抗する者に「テロリスト」のレッテルを張った。
この映画が最後に描くのは、フランス軍が解放戦線の指導者を拘束・殺害した後、数年の沈黙を経て立ち上がる民衆の姿である。レジスタンスの指導者を失った彼(女)らは、静かだが、堅い意志をもって蜂起する。そして2年後の1962年7月、アルジェリアはフランスからの独立を果たす。
『アルジェの戦い』はイタリアとアルジェリアの合作である。当時のフランスでは製作できない題材だったのだろうが、それから約40年後、どうしてフランスがアメリカ軍のイラク攻撃に執拗に反対したのかがわかる気がした。
自由や民主主義を唱えながら、植民地支配を企てるダブルスタンダードは失敗する――そのことをフランスはアルジェリア戦争から学んだのではないか。
とはいえ、『アルジェの戦い』に説教臭はない。躍動するカメラワークとアップテンポの音楽はスピード感にあふれ、ほとんどが素人の登場人物たちを映し出すモノクロ画面と相まって、上質なアクション映画のように仕上がっている。
十数年ぶりにこの作品を観た後、アルジェの最高裁判所と国連機関が入っているビル近くで爆発が起こり、60人以上の死者が出たというニュース(12月11日)が入った。
この映画が発する既視感に身震いした。
(芳地隆之)
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