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マガ9レビュー vol.35

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本、DVD、展覧会、イベント、芝居、などなど。マガ9的視点で批評、紹介いたします。

vol.35
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『パッチギ! LOVE&PEACE』

2007年日本製作/井筒和幸監督

 1974年の東京――。

「米軍の北ベトナム爆撃を“落とされた方にも問題がある”とぬかした男(佐藤栄作)がノーベル平和賞をとった」というセリフと、その前年に公開された『仁義なき戦い』ばりの、朝鮮学校高校生と“国土館”大学(国士舘ではありません)応援団との派手な乱闘シーンから始まるこの映画は、『三丁目の夕日』とはまったく違ったノスタルジーを抱かせる。

 このころ、ぼくが通っていた東京郊外の中学校は札付きのワル揃いで、彼らは校内で暴れるだけでは飽き足らず、近くの朝鮮高等中学校に乗り込んだことがあった。

 そして返り討ちにあった。

「(眉間に)“チョーパン”入れられた」と、最も腕っ節の強かったYが悔しそうに言っていたのを思い出す。チョーパンとは「朝鮮人の頭突きパンチ」の意味で、ぼくらには恐怖の代名詞だった。それが「パッチギ」と呼ばれていたというのは、井筒監督の映画で初めて知った。

 こんな中学時代を連想させるオープニングだが、その後はスクリーンにぐいぐい引き込まれていく。

 難病の筋ジストロフィーに侵された息子チャンスの治療費を調達するため、在日の長老格から受け取った金の延べ棒を手に、玄界灘へ船を出すアンソン。彼はそれを半島から南下してきた同胞と船上でドルと交換する。

 そして、在日の狭い世界を飛び出し、芸能界に飛び込むキョンジャ。彼女も甥チャンスの病気を治すためのお金を稼ごうと女優を目指すが、在日であるがゆえの障害に次々と突き当たる。

 彼(女)ら兄妹がマイノリティとして日本で生きていく日々と平行して描かれるのは父親の過去だ。日本の敗戦末期、済州島出身の父親は日本軍の徴用を拒み、南の島に逃げ、そこで米軍による猛爆撃を浴びながら、奇蹟的に生き延びたのだった。

 この作品は、1968年の京都を舞台にした前作『パッチギ!』とは、別の作品としてみた方がいいかもしれない。日本人高校生と朝鮮学校女学生の恋を軸とする、きっちりとした作りの前作に比べ、こちらは監督の気合がスクリーンをはみ出さんばかりで、一歩間違えば破綻しかねない危うさをもっている。

 その過剰さが『LOVE&PEACE』の魅力だ。劇中では、お涙頂戴の戦争映画を否定し、日本人の在日韓国朝鮮人に対する差別意識をストレートに描き、激しいどつき合いも見せつける。

 物語は、1975年のサイゴン陥落のニュース(その後、南北ベトナム統一される)が来るべき朝鮮半島の将来を示唆して終わるのだが、本編が終わってもエンドロールを最後まで見てほしい。

 バックに流れる「あの素晴らしい愛をもう一度」の三番を聴いたとき、ぼくは涙が止まらなくなった。

(芳地隆之)

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