モラルなき資本主義がいかに人心を荒廃させるか。
世界大手の監査法人、アーサー・アンダーセンと組み、粉飾決算と不正経理によって自社株の時価総額を吊り上げ、天文学的ともいえる報酬を得ていたエンロンの経営陣は、それを自らの経営能力と誤解し、驕慢と強欲を肥大化させた。しかも、彼らは不正発覚の報道がなされると、自社株を売りぬき、巨額の金を手にして逃げようとしたのである。
このドキュメンタリーは、錬金術のような虚業で時価総額全米7位にまでのぼりつめた企業の崩壊までを、元社員やジャーナリストへのインタビュー、内部のビデオや音声テープなどによって描いている。
天然ガスパイプライン会社としてスタートしたエンロンは、電力市場の自由化によって、エネルギーを売買する商社的企業へと変わっていった。
大量の電力を取り扱うようになったエンロンは、州外企業の参入を規制するカリフォルニア州に電力不足を生じさせ、最終的に自社の電力を法外な価格で売りつける。エンロンの罪は損失隠しだけではなかったのだ。
当時のデービス州知事は、就任間もないブッシュ大統領に電力の価格規制を要請している。しかし、ブッシュは「自由市場の原則に反する」として聞き入れない。エンロンの本社はテキサス。会長のケネス・レイはパパ・ブッシュの代から献金を続けるブッシュ家の「お友達」だった。
自由市場という言葉は眉唾物だ。
10月1日から民営化される日本郵政株式会社の社外取締役に名を連ねる、人材会社「ザ・アール」の奥谷禮子社長は、かつて日本郵政公社から七億円近くもの受注をしていたという。労働市場の自由化を推進した一人で、政府の諮問機関、労働政策審議会で「過労死は自己責任」と言い放ち、ワーキングプアには「私みたいに起業したら」と嘯く経営者だが、「官」から仕事をもらっている人間は、自己責任論など吹聴しないほうがいい。
規制緩和で一番おいしい思いをするのは、技術を極めたモノづくりをする製造業ではなく、他人のパイを我が物にするのに長けた、国際競争力とは本来無縁の企業なのではないか? この映画を観て、そう思った。
(芳地隆之)
ご意見募集