マガジン9条でロバート・アルトマンの作品を取り上げるのであれば、朝鮮戦争を徹底的におちょくった「M★A★S★H」(1970年)の方がふさわしいかもれない。でも、ここは昨年11月に81才で亡くなったアルトマン監督の遺作に敬意を表したいと思う。
ミネソタ州セントポールのフィッツジェラルド劇場(同地生まれの作家の名前を取った)で開かれるラジオ音楽ショー。その様子が淡々と描かれる。
劇場はテキサスの企業に買収され、駐車場にされることが決まっている。今夜が最後の舞台だ。でも、楽屋ではリリー・トムリンとメリル・ストリープ扮する姉妹歌手が出番前の他愛もない昔話を交わし、舞台ではギターの男女が笑顔でカントリーを歌っている。
仕切るのはギャリソン・キーラーという司会者だ。バリトンの落ち着いた声で、曲と曲の間に絶妙なタイミングでスポンサー企業の宣伝を入れる。「コーヒーのお供には○○アップルパイを」みたいな。わざとらしいといえば、わざとらしいのだが、奇をてらったテレビCMを日々見せられている身には、キーラーの落ち着いた声が心地よい。
ロビーから舞台裏、そしてステージへと自在に動くカメラは、登場人物たちへの共感を育み、カウボーイのデュオ、ダスティ&レフティの下ネタ・ジョークを交えたウエスタンに馬鹿笑いするころには、この「プレーリー・ホーム・コンパニオン」という公開ラジオ番組の30年と芸人たちがいとおしくなることだろう。
登場人物には(映画『ベルリン天使の詩』でブルーノ・ガンツが演じたような)天使も混じって、話にアクセントを入れる。それは見てのお楽しみということで、舞台の出演者がいっしょに歌うラストの「レッド・リバー・バレー」までを堪能してほしい。カントリー&ウエスタンが苦手な人でも、思わずハミングしてしまうから。
世界市場をターゲットにした、派手なスペクタクルや人気シリーズのリメイクより、場末のラジオショーを丁寧に撮るこんなアメリカ映画がぼくは好きだ。
(芳地隆之)
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