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1958年、岡山県生まれ。東京大学法学部を卒業後、同大助手を経て84年に北海道大学法学部助教授に。93年、同教授に就任する。『ポスト新自由主義』(七つ森書館)、『政権交代論』(岩波新書)、『若者のための政治マニュアル』(講談社現代新書)ほか編著書多数。
今回の衆院選挙の最大の争点は、自民・公明政権を続けさせるのか、ストップするのか、これに尽きます。
マガジン9条の読者や護憲派と言われる人の中には「自公政権は止めたいけど、憲法や安全保障の面で民主党は信用できない」という人が多いのではないでしょうか。私も民主党を全面的に信頼しているわけではありません。「敵基地攻撃論」などを唱える浅尾慶一郎氏(参院議員)を「次の内閣・防衛大臣」に任命していることなど不見識もいいところですし、小沢前代表の「国連至上主義」とも言える国際貢献論にも違和感があります。また、民主党政権が誕生しても米国への軍事協力の度合いが薄まるとも思えません。
でも、自民党にはもっとタカ派的な意見を言う議員は大勢いますし、対米追随ということで言えば、イラク戦争ほか米国の言いなりになってきた自公政権が続くほうがもっとひどくなることは明らかです。鳩山(由紀夫)代表は改憲論者ですが、決して反動的な改憲構想を持っているわけではない。鳩山代表のブレーンには、リベラルな提言で知られる寺島実郎さん(日本総合研究所会長)などもいて、憲法9条の下で日本の国家戦略をどう描けばいいのかという問題意識を持っています。こういう意識は自公政権にはない。
安全保障以外の分野でも、民主党の政策にはリベラルなものが多い。夫婦別姓、婚外子差別の禁止、定住外国人の参政権など、自民党が決して呑めないことが政策として掲げられています。この辺のことを、護憲派の人たちには分かってもらいたい。
民主党内で憲法論議をリードしているのは、枝野幸男氏(衆院議員)と仙谷由人氏(衆院議員)ですが、彼らは真っ当な民主主義者であり、「憲法は国家権力を縛るためのものである」と考える近代立憲主義者です。自民党内に多い復古的改憲論者や対米追随改憲論者は、民主党では少数派なんです。
自公政権よりも民主党政権ができたほうが9条改憲の流れが加速するのではないか、という不安が護憲派の一部にあるようですが、そんなことはありません。民主党政権が発足した場合、新政権にとって手柄となるのは、まずは国内政策です。貧困、格差、社会保障、雇用など国内問題の解決こそ世間が新政権に期待しているのであって、決して憲法改定ではありません。
だいたい憲法改定に取りかかるということは、落ち目の自民党に手を貸すことになるのですから、民主党政権がただちに取り組むわけがない。民主党の党内事情を考えても、右から左まで色々な考えの人がいるのだから、わざわざ党内が揉めることから手を付けるとは考えられません。
護憲派として今回の選挙にどう臨むべきかといえば、具体的には、小選挙区では「非自公」で「勝てる可能性のある候補」に投票することです。例えば、自民と民主の候補が接戦を繰り広げる選挙区で、護憲にこだわって社民や共産に投票すれば、結果的には自民の候補を利することになる。小選挙区では、1~2万の票が結果を左右しますからね。こういう現実を見て、護憲派の方には投票してもらいたいと思います。
憲法9条を護りたいという気持ちを否定するわけではありませんが、より有効に9条を護るためには、何を最優先すべきかを考えてほしい。自公政権の存続を許せば、改憲の危機は近づきます。この数年、改憲を声高に主張してきたのは自民党右派なのですから、まずそこを叩き潰すことが当面の課題でしょう。
また、今回の選挙に限ったことでなく、民主主義の観点からも政権交代は必要です。今の警察・検察、裁判所、それからメディアなどは行政権力におもねっています。自民党が未来永劫政権の座にあるという前提であれば、政権与党の顔色をうかがうのは当たり前です。しかし、一定期間に政権交代が実現する状況になれば、警察・検察、裁判所、メディアも政治的に中立になります。この点だけを考えても、護憲にこだわって政権交代の足を引っ張ることは愚の骨頂です。
「自公」も「民主・社民・国民新」のどちらも過半数を取れないとき、キャスティングボートを共産党が握ることになります。私は、閣外協力でいいから民主側についてほしいと思っていますが、もし共産がどちらにもつかないとなれば、大連立構想という亡霊が蘇ってくるでしょう。そして「北朝鮮の脅威」などを理由にして、新政権が憲法改定を目論むことは十分ありえます。それを防ぐためにも、今回の選挙では民主を中心とした非自公勢力に絶対的な過半数を与えないといけないのです。
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