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2012-08-30up
おしどりマコ・ケンの「脱ってみる?」
第50回
8月21日発表の文科省のプルトニウム調査の件。
8月21日に文科省からプルトニウムの土壌調査についての資料が発表されました。これ。
去年の8月、飯舘村でプルトニウムの親核種であるネプツニウムが検出された記事を書いたときは、「プルトニウムは重いから飛ばないんだからね!」と叩かれ、「半減期の短いネプツニウムがそんなに存在するはずがない!」などデマ扱いされたものですよ…。 →「脱ってみる?」第16回
ちなみに、このときの論文は昨年、Environmental Pollution誌にアクセプトされています。
有料なので読めないのですが、このブログでAbst(概要)などまとめられていますのでご覧あれ。
さて、文科省の発表のデータ、NHKの記事(すみません、リンク切れ! あちこちのニュースも探しましたが、どのメディアの記事もすぐに見られなくなるんですねぇ。あ、1つ、共同通信のが見つかりました)などでもなんかたいしたこと無さそうに書いてありますし、まぁね、今頃だよね、と思いながら、元の資料にあたってみると! ひっくり返った!! (ちなみに資料が出た8月21日は福島に取材に行ってたので、帰りの電車で見たんですけどね!)
何が驚いたか、というと検出されたプルトニウムの値!
NHKの記事を見ると、
「原発から最も離れた場所は、およそ32キロ離れた飯舘村の地点で、
▽プルトニウム238の濃度は0.69Bq/m2
▽プルトニウム239と240の濃度は2Bq/m2
が検出されました」
となっています。ふうん、去年9月の発表データより低いのかな、と思っていたら!
飯舘村の最高値はプルトニウム239と240の濃度で16Bq/m2ではないですか!
えええ、そっちはニュースにはしないの? と思いながら資料のデータを読んでいくと! 飯舘村以外でも高い値がたくさんある…。
プルトニウム239と240の濃度で
田村市 10Bq/m2
浪江町 13Bq/m2
塙町 16Bq/m2
南相馬市 19Bq/m2
このあたりが非常に高い値です。
そして、こんな重要な情報なのに、地名ではなく、緯度と経度しか情報が無いんですよね…。どうしてー!! 不親切! いいですよ、調べるもん。ま、どうして地名表示をしなかったかも、文科省さまにお聞きしてみましょう。
全文は後程「脱ってみる? デイリー」に掲載します。
******
――この資料は、地名が入っておらず緯度と経度での地点になっているのですが、今までの文科省のリリースと違って、緯度と経度で地名が入っていない、というのは、どういった理由からなんでしょう?
文部科学省「あのー、測定点を明確にするためにやってるんですが、緯度と経度でやると、あの、グーグルかなんかで検索して頂くとはっきり分かりますので」
――それは存じております。学術論文でも全て緯度と経度ですので、正確でありがたいと思うのですけれども、そのリリースする時に地名が無ければ少し分かりにくいと思ったのですが。
文部科学省「えーっと、概略の地名は入ってますよ、何村とか」
――概略は入ってます。入ってますが、例えば飯舘村で10か所以上のポイントがありますが、全て緯度と経度のみですので、概略は入ってますが、少し分かりにくいと思います。今までの文科省のリリースでは飯舘村の各地点はきちんと、長泥地区や小宮地区など地名が出ておりましたので。
文部科学省「出ている場合と出てない場合とがございますね、まあ色々ありますけど、まあ大体出てますね、仰るように」
――はい。出ていますね、特に今回地名を付けなかった理由というのは。
文部科学省「まあ緯度と経度が出ているから、ということで省略させていただきました」
(回答になっていない!! 結局、理由はおっしゃりたくないのね…)
******
そして、21日の文科省発表のデータを受けて、各媒体の記事では、
「文科省の調査で、新たにプルトニウム238が10地点で測定され、最も遠いのは原発から33キロ離れた飯舘村だったと発表した。昨年の調査では原発から45キロ離れた同村内でも検出されたが、今回は45キロ圏外にはプルトニウムが飛散していないことが確認されたという」
という主旨のニュースになっています。
これは、半減期が87.7年と比較的短いプルトニウム238と、半減期が長いプルトニウム239(2万4千年)とプルトニウム240(6564年)の存在比率を出して、検出されたプルトニウムが、福島第一原発事故由来のものかどうか、判断する、という考え方なのです。
つまり、半減期の比較的短いプルトニウム238が無くて、半減期の長いプルトニウム239と240だけ検出されたら、「これは今回の原発事故由来のものでなくて、過去の核実験か、チェルノブイリのときのが降ってきたんだね!」と考えるということ。
んー、でも、本当にそれでいいのかな?
冒頭で書いた、「脱ってみる?」第16回の論文で出てくるネプツニウムは、ネプツニウム239→プルトニウム239と壊変します。
過去の存在比率と比較するだけで、本当に福島原発事故由来かどうか、判断できるのかな?
つまり、今回の事故で、プルトニウム239は(親核種のネプツニウム239の形で)大量に放出されたけど、プルトニウム238は思ったより放出されませんでした、という状態だと、過去の存在比率と比べても、あまり、意味ないのではない?
ということなども、お聞きしてみました。
******
――田村市と塙町など現在住民の方々がおられる所で飯舘村以上のプルトニウムが発見されておりますが、田村市は飯舘村のマックスよりは低いのですが、10Bq/m2ですね。で塙町が、16Bq/m2ですね。
文部科学省「これはですね、あのー、プルトニウムの238が検出されていなくて、たぶんあの、昔の核実験由来の物と思われますが。はっきりは断定できません。
それでその表の別紙1をご覧になってるんだと思いますが、別紙1の右から2つ目の列にプルトニウム238とプルトニウム239+240の比を取った値があります。そのところで田村市の場合には238が検出できなかったので、横棒になってますよね、今度の事故由来の物は大部分が238が検出されていて、それで比を取ると大体0.3以上、0.18とかそういう大きな値になってますね。
そして、原爆由来のものが資料の中にも書いてございますが、大体0.23から、あー、0.03からちょっと待って下さい…危ないなあ、0.031程度と全国平均ですね、それより比が大きければ、えっと今回の事故由来といえるんですが、田村市の場合は多分検出限界にも引っかからなかったところを見ると…。
――しかしですね、生成ルートとして、プルトニウム単体で燃料から放出した場合はその可能性が疑われますが、ネプツニウム239からの生成ルートだとプルトニウム238、239、240の存在比だけでは原発事故由来のものかどうかは語れないという研究もありますが。
文部科学省「はー、それはちょっと私ども、不勉強で知りませんが。ネプツニウム系列から出てる場合もあるということですか」
――そうです、あの去年、○○○大学の研究チームが、海外に論文を発表しまして、もうそれはアクセプトされてるんですが、ネプツニウム239が2.4日で改変してプルトニウム239に大量になっていると、飯舘村にネプツニウム239が数千Bq/kg単位で出た、という論文ですね。」
文部科学省「あー、ちょっとそれ、申し訳ありません。えーとどなたの論文でしょうか、私も勉強させて下さい」
――わかりました、○○○という先生です。
文部科学省「すいません、不勉強で申し訳ありません。これでちょっと勉強してみます」
――いえ、とんでもございません。わかりました、では現段階の文部科学省の考え方では「田村市や塙町は原発事故由来のものではない」という事ですね。
文部科学省「『ない』と断定は出来ないんですが、ないんじゃないか、と思うということですね」
――わかりました。
文部科学省「『ない』というところまで断定出来るほどではないです」
******
む… 文科省の方がこうおっしゃっておられるのに、21日の文科省発表の資料を受けての各メディアの記事が「今回は45キロ圏外にはプルトニウムが飛散していないことが確認されたという」となっているのは、少し問題ではないでしょうか?
この量のプルトニウムが健康に影響があるかどうか、というのも重要な問題です。「微量なので健康に問題無い!」そうおっしゃる研究者の方々も多いでしょう。しかし、そう考えない研究者の方もおられます。
ちなみに、2011年3月17日に出された、暫定食品基準値によると、
プルトニウム及び超ウラン元素 のアルファ核種(238Pu,239Pu, 240Pu, 242Pu, 241Am,242Cm, 243Cm, 244Cm 放射能濃度の 合計)
乳幼児用食品 1 Bq/kg
飲料水 1 Bq/kg
牛乳・乳製品 1 Bq/kg
となっています。全てのα核種を足してですよ、それぞれではなく。α核種は内部被曝すると本当に危険ですから。
比較のため、ヨウ素はこんな感じ。
放射性ヨウ素 (混合核種の代表核種:131I)
飲料水 300 Bq/kg
牛乳・乳製品 300 Bq/kg 注)100 Bq/kg を超えるものは、乳児用調製粉乳及び直接飲用に供する乳に使用しないよう指導すること。
野菜類 (根菜、芋類を除く) 2,000 Bq/kg
これは暫定基準値なので、現在はもっと厳しくなっていますけどね。
内部被曝すると本当に危険なプルトニウムですが、その吸入被曝の危険度は、浮遊係数から計算できるそうです。これは今、勉強中。
でも、私は、できるだけ吸い込みたくないな、いくら「微量だから大丈夫!」といってもね。
そしてICRPのpublication.111「原子力事故または放射線緊急事態後の長期汚染地域に居住する人々の防護に対する委員会勧告の適用」を最近読み込んでいますが、こんな一節があります。
【被ばくの特性】
住民の生活場所に影響を及ぼすほとんどの現存被ばく状況においては、被ばくレベルは主として個人の行動によって左右され、線源で被ばくを制御することは難しい。
この結果、一般にきわめて均一でない被ばくの分布が生じる。このような地域での日常生活または作業は、必然的にある程度の放射線被ばくを引き起こす。原子力事故または放射線緊急事態後、短期および中期の対策が履行された後に広く見られる被ばく状況では、既に受けた線量と予想される残存線量のいずれも、非常に広い範囲にわたる個人被ばくを示すことになろう。
個人被ばくの範囲は、個人に関連する多くの要因によって影響を受ける可能性がある。○(除染後の)汚染地域における(住居および職場の)位置。
○職業または仕事、並びにその結果として汚染の影響を受けた特定の地域内での滞在時間および実施時間。
○個々の習慣、特に各個人の食習慣。
このような習慣は各個人の社会・経済状況に依存する。"平均的個人"の使用は、汚染地域における被ばく管理には適切でないことが経験により示されている。
食習慣、生活習慣と職業によって、隣接する村の間、同じ村に住む家族の間、あるいは同じ家族の中でさえ、大きな差異が存在する可能性がある。※下線は引用者
そういえば、7月10日に放医研の事故直後の短半減期核種の内部被ばくの評価を再構築する国際シンポジウムに行ったときも、海外の研究者がしきりに、「平均で値を出すな、個々で出してくれ」と日本の研究者におっしゃってましたよ。
そのときの模様もまだまとめてませんね、すみません! 8月21日の福島県立医科大の鈴木先生の講演会に出席された方に取材したときのまとめもしたいんですけどね、他にも、会見のまとめもね、いっぱいあってね……はい、がんばります!!
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汚染と被ばくに関しては、何度も言いますが、「平均値」や「平均的個人」で判断するべきではない、と思います。
そして、放射性物質が人体に与える影響についても、まだまだ研究途上で、わからないことがたくさんあるということ、今までの放射線防護の歴史を見ても、その規制が緩んだことは一度もない、ということなどから、現時点での「健康に影響がない」というのをそのまま信じることは危険性をはらんでいると思います。
福島県内や汚染地域の方々を取材していると、放射性物質は弱い方や、弱いところに影響を与えるような感触がしますね。平気な方は平気だろうけど、やっぱり、敏感に反応される方もいるんじゃないかしら? 有害な化学物質なども同じでしょ?
なので、私たちには、選択肢がたくさん与えられていることが最も重要だと思うのです。
「大丈夫だから、食べて、住みな?」では乱暴すぎる!!
そして、行政や国の言う「大丈夫☆」は当てになるのかしら? 水俣病やアスベストや、公害問題で国は国民側だった? 薬害エイズは? 生ポリオワクチンの問題は? 他にも数限りなくあるでしょ、なぜ、今の国の「大丈夫☆」を信じることができるのかしらね?
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などなどブツクサ言いながら、また走り回りましょう、地図の緯度経度からの地点出しを下請け(ケンパル!)にお願いしているのだけど、まだのようです。もう、おっそーい!!
自分でやったほうが早いんだけどな…
それは後程、別枠でお送りしましょう!
【今週の針金】
先日また福島第一で作業員の方が亡くなられました。
そして情報はほとんど出てきませんねん。
放射性物質が人体にもたらす影響については、
まだまだ「わからない」ことがたくさんある。
それは「被ばく」を語るときの前提となるべき認識だと思います。
その意味でも、汚染や被ばくに「平均値」を持ち込むべきではないし、
すべての人が「選択肢」を持てるようでなくてはならない。
マコさんの指摘は重要です。
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おしどりの2人への「ご祝儀口座」はこちらから!
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おしどりプロフィール
マコとケンの夫婦コンビ。横山ホットブラザーズ、横山マコトの弟子。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。2003年結成、芸歴は2005年から。
ケンは大阪生まれ、パントマイムや針金やテルミンをあやつる。パントマイムダンサーとしてヨーロッパの劇場をまわる。マコと出会い、ぞっこんになり、芸人に。
マコは神戸生まれ、鳥取大学医学部生命科学科を中退し、東西屋ちんどん通信社に入門。アコーディオン流しを経て芸人に。
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マコ:@makomelo
ケン:@oshidori_ken
その他、news logでもコラムを連載中。