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2011-12-02up
おしどりマコ・ケンの「脱ってみる?」
第32回
第116回放射線審議会、ほっといても
2年後に40%下がるのに除染するの? の件。
日にちが前後しますが、11月22日は第116回放射線審議会に走っていってきました。「脱ってみる?」第29回でもちょこっと書いたやつ、延期になっていた回がやっと開催されたのです。
案件は、環境省が1月1日から施行する「放射性物質汚染対処特措法」の概要やそれに基づく放射線障害の防止に関する技術的基準について。
ICRPの関連のパブリケーションや産業廃棄物について読み漁って張り切って伺ったものの、肝心の質疑応答がほとんど聞こえない! 傍聴席なんて名ばかりじゃーん。他の記者さまがたはそんなに質疑を聞くそぶりは無く、資料をお読みになることに没頭。そういうものなの?
資料で気になったもの。
(ちなみに配布資料はここでもチェックできます)
「平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境への汚染への対処に関する特別措置法の概要 」 の資料にある「責務」という欄。
国:原子力政策を推進してきたことに伴う社会的責任に鑑み、必要な措置を実施。
地方公共団体:国の施策への協力を通じて、適切な役割を果たす。
関係原子力事業者:誠意をもって必要な措置を実施するとおもに、国又は地方公共団体の施策に協力。
と、あります。
これを飯舘の仲良しに電話で話したら、「わーびっくりした! ほんとにそんなこと書いてあんの?」と驚いていました。どこに驚いたかというと、「国:原子力政策を推進してきたことに伴う社会的責任に鑑み」という一文。
「はっきりそう書いてあると、これからの私たちの考え方、動きにだいぶん関わってくるよね」と話し合いました。
そして、審議会では委員のお一人が(多分、山本英明委員だと思うんだけど)「環境中の放射性物質は除染しなくても、自然減衰で最低40%は低減されるが、そのうえ除染する意味は?」というようなご質問をされました。
わーそれ、私も以前から疑問だったの! と思いワクワクしながら回答を待ちましたが、回答は、聞こえず、それに、何か資料をお読みになっただけ。いずれ議事録が上がるだろうけど、それまで待てないなぁ! と思った私は、オブザーバーとして出席されてる方で、知ってる方を発見! 安全委員会の加藤審議官の後ろにいつも控えておられる通称「専門家」。
そうだ、放射線審議会は文科省の管轄だし、合同会見で聞こうっと。
というわけで11月24日の政府・東京電力統合対策室合同本部記者会見でお聞きしてみました。
――先日第116回放射線審議会があったのですが、福島原発事故由来のセシウムは134と137、半減期2年と30年のものが、ほぼ1対1で出ておりますので大体何もしなくても物理学的半減期により「2年後には40%から60%減衰するだろう」と言われておりますが、前回の審議会で確か、山本委員だったかと思いますが「除染をしても元々物理学的半減期での自然減衰のパーセンテージしか落ちないのなら、何故除染をするのか」という質問があがりました。
しかし、審議会の中で説明者側の回答が聞き取れず、そして聞いたところによると、配られた資料をお読みになっただけでしたので、回答として少し不十分なものでした。
ですので、この点の質問は福島の住民の方々も大変疑問に思っておられますので、大体文科省としてセシウム134、137が1対1で出てる福島は2年後、元々何もしなくてもどれくらい減衰するのか、そして除染をしてどれくらいまで減らすのか、ご回答いただけたらと思います。宜しくお願いいたします。
文科省・伊藤審議官「22日のあの、放射線審議会でのやりとりについては、私自身承知をしておらない訳でございますが。ご質問にありました、今後福島県におけるその、線量低減の見通し、というご質問だったと思います。 あの、私が答えるのもあれですが、8月26日に原子力災害対策本部の方で『除染に関する緊急実施基本方針』というのを出しておりまして、まあそこではですね、今後2年後をめどに、一般公衆の被曝線量をまあ50%減少した状態を実現すると。
50%の内訳なんですけども、放射性物質などの物理的減衰、あるいは風雨など自然要因による減衰、ウェザーリング効果(風雨などによる自然要因による減衰効果)というものによって2年間でまず40%減少する。除染によって更に10%を削減して50%を達成する、というのが政府全体としての目標として掲げられてるところであります」
(ウェザーリングで減少、といっても、雨や風で撒き散らされるだけで、実質の量は減らないんですけどね。ある一部分のところは減ったようになっても、風雨でどっかにいくだけ)
――自然減衰、ウェザーリングで40%、除染で10%ということで、わかりました。「この減衰で元々50%低減するのではないか」という専門家もいらっしゃいますが、すいません、もしよければ関係省庁として安全委員会の方もこの放射線審議会にご出席されていたので、安全委員会としても、減衰、ウェザーリングで40%、除染で10%という事でよろしいでしょうか。
(またもや加藤さんにパス出してみた件)
安全委員会・加藤審議官「それについてはですね、私たちはそのお話を聞いた時に助言を出しておりまして、まあそれは一つの予測であって、ちゃんとモニタリングを行なって、予測の正しさを常に見直していくように、という助言をしております」
――わかりました、ありがとうございます。
この8月26日に線量低減の指針を出された所は、すいませんこれは政府として、もしくは文科省としてのどちらだったんでしょうか、伊藤さん宜しくおねがいします。
文科省・伊藤審議官「原子力災害対策本部ですので、文部科学省は一院ではありますけれども直接の作業には加わらなかったと思います」
――わかりました、ありがとうございます。災害対策本部ということで、園田政務官、お願いいたします。
現在福島の住民の方々が自分たちが被曝しながら除染をして、しかし放っておいても物理学的に減衰をするので「あまり自分たちが被曝しながら除染をしてもそんなに変わらないのではないか」という声を飯舘村、いわき、伊達市、南相馬などで聞きますが。これは園田政務官、減衰で40%、本人たちが除染をしながら10%というのは妥当だとお考えでしょうか。
園田政務官「はい、政府全体としてこのまず50%を、あのー減衰で40%、プラスアルファーといいますか除染で10%というところと、あと子供(小学校や通学路など)に関しては更にプラスアルファーを10%、さらにといいますか、自然減衰と合わせて60%まで減衰をするという目標を掲げさせていただいた所でございます。
したがって少しでも、早くそういったところが達成できるように私共としても当然ながらやっていかなければならないというふうに考えておりますので、そういった意味では、これから本格的な除染、警戒区域内とそれから計画的避難区域内においての部分がありますのでそこの、地域住民の方々――避難されておりますので被曝はされないと思いますけれども――当然業者であるとかそういった方々が入る時には、当然その被曝は避けられるような措置をしていくように、気を付けるようにといったマニュアルもですね今、環境省の方で作って頂いてると考えております。
したがって、一日でも早くそういった避難をされておられる方々がご自宅にお戻り頂けるような環境を私共としては作り上げて行くというのが、政府の責任、国の責任ではないかというふうに考えます」
――この40%+10%というのは、現在避難されてる避難区域の方だけではなく福島県全域伊達市などでの説明会でもこの数字がよく上げられているのですが。それは住民の方々が除染をされます。
園田政務官「はいはい、あのそういった方々に関してはですね、当然ながら警戒区域や計画的避難区域とはまた低い線量の部分でありますけれども、しかしながら被曝には気を付けていただく必要がありますので、その方々に対しても、まあいわゆる避難警告といいますか、無用な被曝をしていただかないような注意喚起という物はさせていただいておりますし、そういったマニュアルも配布はさせていただいて周知徹底をしている所だ、というふうに聞いております」
――では避難区域そして避難区域外、伊達市、いわき市などでも含めて住民の方々の声なのですが「放っておいても40%下がり、多大なるお金を突っ込んで除染をして10%程度しか下がらないのであれば、除染をしないという選択肢も与えてほしい」と仰られるのですがいかがでしょうか。
園田政務官「ま、あの、各市町村からですね、まだそういった『除染をしない』というお声というのはちょっとすいません私は聞いておりませんでしたので、そういった面では各住民の…」
――あの! 各住民の方々の説明会では(そうした声が)多大に上っております。
園田政務官「あ、そうですか、すいません。あのー…」
――はい、あの自治体の長は予算の関係で除染を推進しておられますが、えー例えば飯舘村など8割が除染に反対であったりしますので、それは多分、園田政務官の方にまでお耳に届いていない、ということだと思います。
園田政務官「少なくとも、そういったところは自治体が除染を遂行されるということで、私共としては財政的な支援と技術的な支援、そしてまた防御的な考え方をお示しをするという形で説明をさせていただいて、自治体の方々がご納得をいただいていると聞いておった所でございますけれども、もう少しそういった自治体の皆さん方からも聞く必要があるということであるならば、伺わせてはいただきたいというふうに思います。
いずれにしても当然、これは自治体の皆さん方と住民の皆さん方が共同で行なっていただけると、いうふうに聞いておりますので、その自治体がやらない、という事であるならば、それはそれで私たちも受け止めなければいけないことかもしれません」
――ありがとうございます、えー、すいません私の質問の仕方が悪かったみたいで。自治体として一つの意見にまとめるのではなく、個々の住民の「除染をしたい」「いや、除染をしたくない」という、また「避難をしたい」という希望を聞いていただけないか、ということです。
自治体として一つの意見に(まとめて)、10%人力で除染をして、10%の効果しか出ない、という事について多大な予算をつぎ込み、それでも半分しか下がらない線量の中で我慢をしながら暮らす、という選択肢を強いないでほしい、ということなんですがいかがでしょうか。自治体として意見をまとめないでほしい、ということです。
園田政務官「はい、その辺は現地の支援チームがですね、自治体あるいは福島県ともご相談をさせていただきながら、色々な可能性を私共からご提示をさせていただいて、それを選択をされた、という事でございました。
したがって、そういった声がですね、自治体を通じてどういう形で私共に…また、まあ機関の決定という…これは実施主体が自治体でございますので、その自治体がどういうご判断をされるのかというのはもう少し私共としても、お聞かせをいただけていればな、と思っております」
――あ、わかりました。結局自治体としての意見ということですね、自治体としての声しか聞かないという事で。分かりました、ありがとうございます。
園田政務官「いや、自治体の声しか聞かないというよりも、自治体が実施主体でございますので、その自治体が、住民の皆さん方とお話をされるというのは当然ながら、住民の皆さま方の声を代弁して、自治体が本来ならば動くべきではないか、ということを申し上げたわけでございます」
―― …自治体に任せるということですね。
自治体が100%の住民の方々の同意を得る事はかなり不可能であり、今回の福島原発由来の放射線の事は100%の同意をまとめるべきことではない、と思うのですが、自治体が主体ということですね。わかりました、ありがとうございます。
なぜ、こんなに食い下がったか、というと、除染して住む、という選択肢しか住民の方々に渡されてないからです。そうではない意見も本当に多数聞きます。例えば飯舘村で今でも10μSV/hのところの方は除染して50%下がったとしても5μSV/hです。そんなところには住みたくない、という方もいらっしゃる。高齢の方は自分は住むけど、孫や子どもは住ませたくない、とおっしゃる。若い方はそこで出産をし子どもを育てるリアリティは無い、とおっしゃる。とても年配の方は、高い線量でもしょうがないとあきらめるけれど、除染して10%しか下がらないのなら、庭の木や山の木を切るのはイヤだ、とおっしゃる。
なので、年代や生活状況によって本当に意見は分かれるので、全住民のアンケートを取ってほしい、と度々お願いしているのですが、その必要はない、と村長はおっしゃるのです。除染して村民を戻すと。
今は村民はあちこちに避難しているので、役場側の協力がないと全住民アンケートが取れないのですが、実行は絶望的な状況。
福島県の自治体の役人の方にお聞きしたのですが、福島県の自治体というのは現在、とても矛盾している、とのこと。住民の幸せを考えるのがそもそも自治体の仕事なんだけど、住民が避難して移住してしまうと、税収が減るでしょう? 自治体にとって住民はお客さまの側面があるのです。自治体の収入は、税収と行政からの予算なので、だから、多額の予算がつき、住民を移住させない除染政策にのっとってるんだ、自分の家族は避難させていても、ですって。
「避難した住民は市民、村民として扱わない」と明言した自治体の長までいらっしゃいます。
原発事故に関しては、住民の方々の意見は1つにとりまとめるべきことではないように思います。そうすることで、我慢を強いられる方がたくさん出てくるからです。いつも思いますが、正確でたくさんの情報と、判断するための公平な知識と、そして様々な選択肢が与えられるべきことだと思います。
あと、まぁ、自然にほっといても40%下がるんですよ? 何億も何兆も除染の予算にお金を使って、そして10%しか下がらないなら、他の選択肢もあってよくない? 他の選択肢に予算が行くべきでない? それに、ほっといても40%、人力で除染して10%ってちゃんと住民の方々に周知されてるのかしらね? ていうか、これをお読みになってるアナタはご存知でした?
***
この日の会見のあと、安全委員会の加藤さんとこにぶら下がろうとしていたら、文科省の伊藤審議官から「ちょっとおしどりさん、聞きたいことがあるのでいいですか?」
と呼び止められました。おぉ! 逆ぶら下がり!?
文科省・伊藤審議官「先ほどの質疑の中で、疑問だったんだけど、除染をしたくない、っていう住民の方がいるってどういうことなの? 避難したいってこと?」
――もちろん、避難、移住したいという希望もありますが、それだけではなく、ほっといても2年後に線量が40%下がるなら、今から急いで除染するのではなく、2年間どこかに避難して2年後に戻ってきてそこから除染するとか、2年後にもう一度考えるとか、もしくは高齢の方なら除染しても10%しか下がらないのなら、庭の木や山の木を切り刻んで除染したくない、とか、本当に様々なのです。せっかく2年後に40%自然に下がるのに、この2年間で何億もつぎ込んで10%下げる意味はあるのか? もっと他のことに予算を使わせてもらえないのか? など、今の「除染して住む」政策には疑問の声が多いんです。
文科省・伊藤審議官「なるほど、よくわかりました! それはおっしゃるとおりですね、そうお考えになるのもよくわかります。しかし自治体の長の声と全然違いますね。」
――そうなんです! 自治体は予算の関係からか、除染政策一辺倒なのですが…
文科省・伊藤審議官「その自治体の長を住民が選んだ、ということですからね… うーむ、なんというか、そこは民主主義の悩ましいところなんですよね! 」
(わー、悩ましいとかおっしゃってる場合じゃないでしょ、切実ですよ、こっちは!)
――ですので、全住民アンケートなどをとって、自治体側の要望だけではなく、住民の要望も聞いてほしいのですが、自治体側がそれを頑としてしてくださらず、自治体がピックアップした住民の声だけが外にアナウンスされている、という状況が多いようです。
文科省・伊藤審議官「なるほど、その必要性はありますね。状況がよくわかりました、ありがとう」
とおっしゃって去る伊藤審議官を見ながら、案外、伊藤審議官が聞いてくださって良かった! と思いました。
***
12月に除染関連の様々な予算が決定されようとしています。そして年が明けたら特措法が施行され、除染計画はどんどん進むでしょう。
除染は悪いことだとは思わないけど、どんな除染を行なうか、どういう目的のためにやるか、どれくらいお金を使うか(費用対効果はどれくらいか)、どれくらい被曝するのか、などなど、きちんと考えていかねばならないでしょう。
例えば、0.23μSV/h以上の地域が除染実施区域となるのですが、その考え方は
自然界(大地)からの放射線量:0.04μSV
事故による追加被曝放射線量:0.19μSV
として、一日のうちに屋外に8時間、屋内(木造家屋、遮蔽効果0,4倍)に16時間滞在するという生活パターンを仮定して、
0.19μSV/h×(8時間+0.4×16時間)×365日=年間1mSV
という式が載っていました。
自分で計算してみると、998.64μSVになりましたので年間1mSV以下でしょう。でも待って、これは追加被曝のみだよね?
自然界の放射線量とあわせた0.23μSV/hで計算すると、1208.88μSVになりました。年間1mSVは超えてしまいます。
そして重要なことは、これは空間線量、外部被曝のことだけしか考慮してません。食べ物による内部被曝は現在、年間5mSVが線量限度となっています。これはやっぱり高いので、来年の4月をめどに1mSVに戻す、と厚労省は言っているけれど、おかしいよね。
なぜなら、チェルノブイリ事故後のベラルーシの基準は内部被曝・外部被曝合わせて、とにかく被曝は年間1mSVまで! という考え方なのに、日本は食べ物は食べ物で、土地は土地で、空間は空間で、水は水で、のような基準になっているからです。
この辺りはチーム飯舘顧問のロシアの怪人のブログをご覧あれ!
そして、8000Bq/kg以下の廃棄物はそのまま埋め立て地やコンクリートや園芸土に使われるとのこと。どれも、年間の被曝線量1mSV以下だから大丈夫、といえど、それぞれ1mSV以下なだけで、総合すると、ひょっとしたら怖いかもよ? ということをお見知りおきくださいませ。
【今週の針金】
放っておいても2年で40%減るのに、大金をつぎ込んで被曝しながら10%しか減らない除染事業。誰がやりたいのかな?
住み慣れた土地に、除染で少しでも線量を下げて暮らし続けるのか。
同じお金を使うなら、別の場所で生活を始める資金にしたいと考えるのか。
その判断は、おそらく一人ひとり異なるはず。
重要なのは、判断のベースとなる情報が十分に与えられること。
そしてその判断が、各自の選択として尊重されることではないでしょうか。
たしかに「効率的」ではないかもしれないけれど、
これまでの生活を破壊された人たちに、最低限保障されるべきことだと思うのです。
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おしどりの2人への「ご祝儀口座」はこちらから!
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おしどりプロフィール
マコとケンの夫婦コンビ。横山ホットブラザーズ、横山マコトの弟子。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。2003年結成、芸歴は2005年から。
ケンは大阪生まれ、パントマイムや針金やテルミンをあやつる。パントマイムダンサーとしてヨーロッパの劇場をまわる。マコと出会い、ぞっこんになり、芸人に。
マコは神戸生まれ、鳥取大学医学部生命科学科を中退し、東西屋ちんどん通信社に入門。アコーディオン流しを経て芸人に。
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