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2013-08-07up

時々お散歩日記(鈴木耕)

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ナチス、集団的自衛権、
靖国、沖縄、原発…

 毎週水曜日更新の「マガジン9」も、さすがに来週の更新日(8月14日)はお盆休み。だから、今号が年に3回の合併号(年末年始、ゴールデンウィーク、そしてお盆休み)である。

 そんなわけで、今回の「お散歩日記」は、夏休み中に読んでほしい本や、観てもらいたい映画の紹介コラムにしようと考えていた。デスクの上に、どっさりと本を積み上げ、DVDも用意していたのだ。けれど、「そんな悠長な文章を書いている場合じゃないだろう…?」という声が、どこからか聞こえてくる。
 確かに世の中、ひどい有様だ。本の紹介や映画案内はまた別の機会にして、やっぱり今回も世の動きについて書いておくしかないみたい。

 麻生副総理兼財務相、あんまりハチャメチャなので、麻生って名前を書くのもうんざりだが、彼をめぐる動きはひどすぎる。
 彼が「ナチスの手口に学んだらどうかね」と、例によってまるで親父ギャグでも披露するようにカル~ク口走ったのは7月29日、櫻井よしこ氏が理事長を務める国家基本問題研究所という保守系のシンポジウムでのことだった。ようするに仲間内の集いということで、気が緩んで本音が出たわけだ。
 実際、このときの録音を聞くと「ナチスに学んだらどうかね」のくだりでは会場から大きな笑いが起きている。同じようなメンタリティーの持ち主たちの集会だったことがよく分かる。
 これをいち早く報じたのは「スポニチ」だった。取材していたのは共同通信だが、30日未明にネットでスポニチが「麻生副総理 改憲でナチス引き合い、都内の講演で語る」とのタイトルで配信した。ところが、この重大な暴言を後追いしたマスメディアは皆無。ようやく31日になって東京新聞が報じ、8月1日に朝日・毎日などが後追いした。
 ネット上では30日から大騒ぎになっていたにもかかわらず、マスメディアは3日遅れという感度の鈍さ。外国から批判の声が挙がって、ようやく伝え始めたという情けなさ。NHKにいたっては、1日夜のニュースでも触れないという無惨! ほんとうに、日本のジャーナリスト魂はどこへ消え失せてしまったのだろう…。

 この麻生「ナチス発言」は後を引く。特に海外からの批判は「日本の右傾化」というセンテンスの中で拡大していくに違いない。自民党お得意の「国益」ということで言えば、これほど「国益」を損ねた発言も珍しい。なにしろ、「ナチスに学べ」だもの。
 それに引き換え、日本国内の反応の鈍さはどうだ。麻生は「ナチスを例示した部分は撤回する」と、誰の入れ知恵か知らないが、意味不明の弁明で幕引きを図った。「例示」って何よ?
 だが、なぜかマスメディアは、それを徹底的に追及する気配もない。いつからこんな情けない国になったのか。
 図に乗った安倍は記者団に「麻生発言は撤回したのだから、麻生大臣の辞任は必要ない。自民党はナチスを肯定的に捉えることは断じてない」と大見得を切った。
 だがこの安倍の主張は矛盾に満ちている。
 「自民党は断じてナチスを肯定しない」ならば、「ナチスに学べ」という麻生発言とどう整合性が取れるのか。麻生発言に関しては「報道ステーション」が録音を流したし、その後、新聞も発言の詳細を載せた。それによれば、どう読んでも「ナチスを悪例として例示した」とは思えない。明らかに「憲法改正はひっそりと、誰も気づかないうちに、ナチスの手口を学んでやれ」と言っているではないか。ナチスの例は見習うべきもの。これ以外の解釈があるなら教えてほしい。
 この麻生発言を問題にしないなら、安倍もまた「ナチスの手口」を容認したことになる。「自民党はナチス党化しつつある」と言われても仕方ないだろう。

 実際、安倍運転の右傾カー(駄洒落です)は、このところアクセル全開だ。安倍の悲願、集団的自衛権容認へ向け、内閣法制局長官に小松一郎氏という容認派を登用する方針を示した。
 これまでは「専守防衛としての自衛権は認めるが、他国領土での交戦を可能とする集団的自衛権の行使は憲法9条上からも許されない」とする法制局の解釈で、かろうじて集団的自衛権行使に歯止めをかけてきたのだが、一挙にその歯止めを取っ払おうというのだ。
 それにしても、時の首相の一方的・個人的な思い込みで、憲法解釈がくるくる変えられたらたまったもんじゃない。まさに、憲法無視のやりたい放題、戦争態勢へまっしぐらということになる。
 それを後押しするように、安倍の“私的”諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(柳井俊二元駐米大使)が、集団的自衛権行使容認を提言する方針を決めた。
 これもデタラメな話だ。安倍の腰巾着学者や評論家を集めた“私的”な集まりが、国家の命運さえ左右する憲法解釈の変更を提言し、それをひとつの論拠として安倍が突っ走る。安倍の言うとおりの連中の集まりなのだから、安倍の思うとおりの提言をするのは最初から分かりきっている。典型的なデキレース。

 その安倍の右傾化路線に乗っかるように、稲田朋美規制改革担当大臣と高市早苗自民党政調会長が、8月15日の靖国神社参拝を公言した。自民党内でも有名な女性極右コンビ(高市氏が例の「原発事故で死んだ人はいない」発言以降も、この地位にとどまっているのも不思議だ)。
 これでまた、国際関係が軋み始めるのも当然だろう。アメリカ議会は「閣僚らの靖国参拝は地域の緊張を再び高める。それは我が国(米国)の国益をも損ねかねない」と危惧する報告書をまとめた。
 ひたすらアメリカの顔色を伺う自民党幹部が、なぜここだけはアメリカを刺激してまで頑張るのだろう。そんなにアメリカに対して頑張れるなら、なぜ「普天間を返せ、辺野古移設は反対」と言えないのだろう。ここにも妙なダブルスタンダードがある。

 沖縄へは、県民の強烈な憤激をまるで無視してオスプレイの追加配備。これまで12機だったものを24機に倍増する。反対する人々は、普天間飛行場ゲート前へ押しかけたが、なんと2日前に突然、ゲート前に別の柵が建設されていた! 2重の柵と機動隊で住民排除である。
 そしてついに、おひとりが逮捕された。この方はずっとご夫婦で反対運動に参加していたということで、警察が見せしめのために狙い撃ちの逮捕をしたのだろうと、地元では言われている。
 しかも、沖縄県がオスプレイ飛行訓練に関する「日米協定違反」事項が300件以上あるとして抗議したにもかかわらず、防衛省は「飛行区域も飛行時間に関しても、協定違反は見当たらなかった」と、木で鼻をくくったような回答。違反状況の写真や録音まで添付しての抗議にもかかわらず、これが日本政府の態度なのだ。
 保守系であるはずの仲井真弘多沖縄県知事さえ、さすがに「ここまで私たちの訴えを無視すると言うなら、後は知らない」と憤然。味方にしなければならないはずの保守系知事さえ敵に回すほどの、安倍のイケイケ路線に、国民は少しずつ不安を抱き始めているようだ。安倍内閣支持率は急降下との世論調査も出てきた。

 そんな折も折、8月5日、沖縄本島北部のキャンプ・ハンセン内の森林に米軍ヘリが墜落した。4人の乗組員のうち1人は死亡したという。現場は民家から2キロほどしか離れていない場所だ。2キロといえば飛行時間はわずか10秒ほど。いつ民家の上に墜ちるかわからないということだ。
 ところが、米軍から消火要請があったにもかかわらず、駆けつけた地元の消防車は事故現場への立ち入りを拒否された。いわゆる「日米地位協定」というアメリカに一方的に有利な取り決めのためだ。
 自国内で起きた事故に、自国の消防も警察も立ち入れない。それが米軍基地の中だけならまだしも、基地外の場所でもそれが強制されるのだ。
 普天間飛行場に隣接する沖縄国際大学に、2004年8月13日、米軍ヘリが墜落した。この時、沖縄の警察・消防・報道は言うに及ばず、この大学の教員や学生までが米軍によって立ち入りを拒否された。自分の大学に入れない学生たち。しかもその完全占領状態が1週間にも及んだのだ。独立国家の尊厳などありはしない。これが、今も続く沖縄の現実だ。
 安倍自民党はこんな現実を無視して、アメリカのやりたい放題のオスプレイ配備強行を是認する。

 東電福島事故原発は、かなり危ない状態のままらしい。凄まじい高線量の汚染水がどんどん海に流れ出していることを、東電はとうとう認めざるを得なくなった。メルトダウンした核燃料がある原子炉へ流れ込む地下水の量よりも、処理できる水量が圧倒的に少ないのだから、いつかは汚染水が溢れ出すことは当たり前だ。
 原子炉をすべて囲って水が流れ込まないようにしたのならともかく、海側に遮蔽壁を設置するだけだから、流入は防げない。流入が続く以上、いつかは溢れる。ほとんど小学生の算数のレベルだ。
 東電によれば、きちんと原子炉全体を囲う工事には数年かかるという。では数年間は、高濃度汚染水は海へ垂れ流しのまま…ということになる。東電はまさにお手上げ状態になっている。
 しかし、東電にお手上げされては、国民はたまらない。

 さらに、3号機から立ち上る「湯気」が不気味だ。東電は8月4日に「7月18日から出続けていた3号機からの湯気はいったん止まったが、23日からまた続いていた。それが4日朝には見えなくなった」と発表した。何が原因なのか、それも東電は把握できていないようだ。最初は雨水が原子炉の蓋に当たって湯気になった可能性を示唆していたが、原子炉内部から立ちのぼっている可能性もある、という。
 この湯気が出始めてから、主に東北各地で空間放射線量が増加している、という報告もある。なんだか東電事故原発をめぐる状況は、このところいっそう危険度を増しているようだ。

 宮城では8月4日に震度5強の大きな地震。大地は今も蠢いている。もっと強い揺れが来たら、事故原発はどうなるのだろうと考えると、僕は背筋に悪寒が走る。怖いのだ。ほんとうに、今度何かがあれば、東北はもとより、この東京だってどうなるか分からない。
 こんな状況の中で「再稼働」を主張する連中の“肝っ玉の太さ”には感心するしかないが、実はその人たちは何も知られていないのだと思う。
 麻生が言うように「静かにこっそりと」原発の危険な状況も隠されていて、何も知らない気のいい国民は「もう原発も一段落。それよりも経済が大事だよなあ…」と刷り込まれてしまった。
 刷り込みに大協力したのは、残念ながらマスメディアだった、というお粗末な一席。

 でも、黙っていたら負けてしまう。
 僕はまだまだ調べることをやめない。いろんな方にお教えを請うこともやめない。情報を懸命に集め続ける。
 それらをもとにして、書くことも、考えることもやめない…。

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鈴木耕さんプロフィール

すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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