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2012-12-05up
時々お散歩日記(鈴木耕)
116憲法改定と国防軍、キナ臭い選挙が始まった!
そこで、各党の憲法意識をまとめてみた
かつて、筑紫哲也さんがこんなことを言っていたのを憶えている。
「日本には『判官びいき』という言葉がある。つい弱いほうを応援しちゃう、という意味だよね。でも、一方で『寄らば大樹の陰』という言い方もある。どうも、最近は『大樹の陰』にすり寄る連中ばかりが目につくなあ。『判官びいき』が、日本人の美点だったと、僕は思うんだけどねえ…」
判官とは、九郎判官義経、つまり源義経のこと。兄の頼朝に憎まれ、奥州藤原氏のもとへ落ちのびて行った「悲劇の若武者」だ。日本人は、頼朝よりもこの義経を愛した。歴史を作った権力者よりも、その権力者に追われた者に肩入れしてきたのだ。
筑紫さんは2008年にお亡くなりになった。だから、この言葉を聞いたのは、2005年ごろだったろうか…。なんだか、今の日本のありようを予測していたように思える。
このところのこの国の流れを見ていると、どうも強い者、権力者の側に多くの人たちがすり寄ろうとしているように思えて仕方がない。筑紫さんの愛した「日本人の美点」は、大声を競う者、強さを誇示する者、武力で国を守れと高言する者、外国に舐められるなと叫ぶ者、そういう連中によって消し去られようとしている。
弱者を労わり、そっと手を差しのべ、強い者にはそっぽを向く…、そんな「判官びいき」はどこへ消えたのか。
総選挙が近い。
名前さえ覚えられぬほどたくさんの政党が、さまざまに美味しい「公約」を並べ立てている。
僕は5週前、このコラムの第111回で「衆院選が近い? そこで、各政党の原発政策をチェックする」と題して、原発政策に限って各党の政策を調べて書いた。あれから多くの政党がくっついたり離れたり、何がなんだか分からない部分もあるが、おおむね、そのときに書いたことは間違っていないだろう。
ただし、付け加えておかなければならないのは、新しく立ち上がった日本未来の党の原発政策だ。東京新聞(12月2日付)がこう伝えている。
3年で発送電分離
未来が「卒原発」工程表
交付国債で電力会社支援日本未来の党(代表・嘉田由紀子滋賀県知事)が掲げる十年後の「卒原発」に向けた工程表の骨子が一日、明らかになった。今後三年間を「原発と電力システムの混乱期」と位置付け、発電と送電の事業者を分ける発送電分離や電力会社の経営危機への対処など電力システム改革を集中的に断行。その後、競争のある電力市場の確立や再生可能エネルギーの普及により、原発からのエネルギー転換を完成させる。(略)
なんとも言えない部分(交付国債など)も残るが、とりあえず具体的な工程表を公表したことは評価したい。「工程表がないじゃないか。『卒原発』などまやかし、デタラメだ」と罵倒してきた自民党や、脱原発のお株を奪われて口汚く罵る橋下維新などは、きちんとした対応策を出さなければ、原発政策では完全に未来の党に負けてしまうだろう。
それにしても、維新の原発政策(とても「政策」などとは呼べないが)のブレは酷すぎる。
党首討論の場で、石原慎太郎代表は原発について、「フェードアウト? そんなものは直させる」と語り、松井一郎維新幹事長は「党としての決定。見直しはない」と否定。ところが橋下代表代行は「フェードアウトは政策実例であり、公約とは違う」と石原を弁護。
もうこの党、何がなんだかさっぱり分からん。ただただ大声をあげ、勇ましいことをぶち上げ、拳を振り上げて憲法改正を叫ぶだけの右派政党だということだけは、よく分かったが。
「マガジン9」にとって、日本国憲法をめぐる議論も大きな柱のひとつだ。なにしろ、発足当時は「マガジン9条」と名乗っていたぐらいだから、憲法への思い入れは強い。
そこへ突然、安倍晋三自民党総裁がいきなり「国防軍」などと物騒なことを言い出して、妙な具合に「憲法」が今回の選挙の大きな争点のひとつになってしまった。
僕は、3.11以来、このコラムをほとんど「原発」についての文章で埋めてきた。しかし、「平和ボケ老人になることを理想とする」僕にとって、突如として浮上した「改憲論」に、黙っているわけにはいかない。「平和でなければ、おちおちボケてもいられない」じゃないか! だいたい、平和であって何が悪いっ!!
そんなわけで、今回は選挙に備え、「憲法について、現在、各党はどう考えているか」を、僕なりに調べてみた。新聞各紙やテレビ報道、週刊誌の記事、それに各党の「政策集」やHPを参考にしたものだから、むろん、文責は僕にある。
【民主党】
憲法を活かす。現状では憲法改正の必要はない。【自民党】
現憲法の全面的改正。天皇を元首とし、第9条の平和主義は残すが、自衛隊は「国防軍」と改め、軍備は増強。集団的自衛権を行使できるようにする。自由や権利には責任と義務が伴う。まず96条を改正して現行の改正発議要件(衆参両院の議員の3分の2以上の賛成で憲法改正を発議できると定めた条項)を緩和、議員数の2分の1の賛成で改正を発議できるように改める。【日本未来の党】
現在、緊急に憲法改正を行わなければならない状況ではない。改正にはどちらかといえば反対(嘉田代表)。【日本維新の会】
押し付け憲法である現憲法は破棄(石原代表)。自主憲法の制定。集団的自衛権の行使を認める。自衛隊の武器使用基準の見直し。防衛費GDP(国内総生産)1%枠を撤廃。武器輸出3原則の見直し。【公明党】
現憲法の尊重。現状にそぐわなくなった部分は改正していく「加憲」論。自衛隊という名称は定着しているので、国防軍に改称することには反対。【日本共産党】
憲法改悪は認めない。【みんなの党】
現状にそぐわなくなった部分は改正する。改正発議要件の緩和(3分の2→2分の1)は、自民、維新と同じ。ただし、国防軍への改称などには反対。【社民党】
憲法改悪阻止。【新党大地】
現状では、憲法改正を急ぐ必要はない。【国民新党】
【自主憲法の制定を目指す。集団的自衛権の行使を認める。【新党日本】
憲法改正には反対。【新党改革】
現状にそぐわなくなった部分は、改正していく。
まあ、色分けははっきりしている。自民党と維新の会は、主張がほとんど重なる。原発政策も近寄ってきている。さっさと一緒になっちまえばいい。合流しない理由を探すほうが難しいほどだ。
第3極といわれるが、自主憲法制定を強く主張している維新に対し、未来の党は「とりあえずは護憲」というニュアンス。やや穏健なリベラルに振れているようだ。
しかし、たとえば僕の選挙区で未来の党から立候補した人物は、地元では有名な右派思想の持ち主、彼が護憲派だとはとても思えない。僕は、この男には絶対に投票しない。党名だけでは判断できないのだ。
投票では、所属党の政策をチェックするのは当然のことだが、それよりも候補者本人のこれまでの主張をより厳しくチェックすべきだ。党の政策と本人の考えに大きな差があれば、その候補者は、ただ議員になりたくて党に所属しているだけの議員亡者だということだ。そういう人物は、何かあれば、また簡単に裏切るだろう。
それにしても、自民党(というより安倍総裁)の、憲法改定に関する突出ぶりは凄い。自民党有利の報道に興奮して、はしゃぎまくっているとしか思えない。
彼は12月25日の「報道ステーションSUNDAY」(テレビ朝日系)に出演した際、「国防軍」について、こんな発言をしている。
長野智子アナ「(自衛隊の)名称を変えるだけで実態は同じで、軍として憲法できちっと定めると?」
安倍「(自民党の)憲法改正案には、軍としてちゃんと認める。そして、そのための主要組織もちゃんと作る。海外と交戦するときには、交戦規定に則って行動する」(略)
安倍総裁、頭の中ではもはや「外国軍と交戦」することが既定事実になっているようだ。いったい誰がどこと交戦するというのか。むろん、彼の脳裏にある戦場は尖閣諸島であり、交戦相手は中国軍であり、前線に出て行くのは日本の「国防軍」なのだ。多分、その先には「徴兵制」が待ち構えているのだろう。
しかし、実際にこんなことを口走る大政党の党首が、これまでいただろうか。それを許してしまうこの国の流れと、さらにそれをまともに批判しないこの国のマスメディアの劣化ぶりに、僕は暗然とする。
それに輪をかけて煽るのが、石原慎太郎維新代表だ。党首討論では、「公明党は憲法改正に反対のようだから、この党は評価できない」と名指しで批判。さすがに公明党から抗議されたらしく、3日には自分のHPで珍しくも「公明党と憲法の考え方についての私の発言が、誤解を招いたことは大変遺憾に思います」と、何を謝っているんだかよく分からない謝罪文を掲載。謝ることなどめったにしない「傲慢閣下」が、やはり選挙のためか、妙な陳謝だ。
それにしても、まさに極右のそろい踏み。この国は、いつからこんなことになってしまったのか。
こんな人物たちの跳梁跋扈を許してしまったのは、政権交代に夢を託した国民を裏切った民主党の責任でもある。
民主党の野田首相は、選挙直前になって突然、「憲法を尊重し、日本を後戻りさせてはいけない」などと主張し始めた。
何を今さら! である。
大飯原発を再稼働させ、大間原発などの建設続行を認め、国会にも諮らず反対を押し切って原子力規制委員会人事を強行し、原発政策を「後戻り」させてしまったのは、野田本人ではないか。
またかつては「集団的自衛権行使容認」まで踏み込んだ発言をし、日米同盟とTPPに固執し、普天間飛行場の辺野古移設など沖縄の米軍基地を「後戻り」させてきたのも、野田本人ではないか。こんな人物の言う「憲法尊重」を信じられるわけがない。
そんな厳しい状況だが、僕は、それでも投票に行く。
筑紫さんが言い遺したように、「判官びいきこそ日本人の美点」だと思うから、僕は、憲法を守り原発を止める(廃炉にする)ことをきちんと実行する政党と候補者を見極めて、自分の1票を投じる。
東京都知事選も同日だが、これは簡単だ。脱原発と反貧困、憲法擁護を前面に押し出している候補がいるから、迷うことはない。
鈴木耕さんプロフィール
すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。
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