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2012-11-07up
時々お散歩日記(鈴木耕)
112大飯原発活断層検討会合で
明らかになったこと
11月4日に行われた原子力規制委員会の調査団による「大飯原発の活断層調査」の結果検討会合を、アワープラネットTVの中継で観た。予想通りの展開だった。
(注・これを中継してくれた白石草さんたちの「アワープラネットTV」には、心から感謝する。「知る権利」をマスメディアの独占から解放してくれた功績は、岩上安身さんたちの「IWJ」などとともに、歴史に残ると思う)
会合で、委員の渡辺満久東洋大教授は、はっきりと「活断層であると判断する」と言いきった。それに異を唱えるのが、主に岡田篤正立命館大教授、というのが議論の流れだった。
毎日新聞(11月5日付)が、5人の委員の発言を簡略にまとめてくれているので、少し長くなるが引用しよう。
広内大助・信州大准教授 台場浜トレンチ(敷地北部の調査地点)でいくつか断層を確認できた。関電は地滑りと説明するが、地滑りを示す地形は認められない。(目前の)海底にも(断層かもしれない)筋状地形があり、追加調査が必要だ。
重松紀生・産総研主任研究員 最近の微小地震から算出した応力(地下の圧力のかかり方)に整合した断層運動の痕跡は見つからなかった(活断層であるとは考えにくい)。ただし、今後の調査で見つかる可能性はある。
渡辺満久・東洋大教授 台場浜トレンチの南壁面で、12~13万年前に形成された断層を切っている(ずれがある)ので活断層だと判断した。のんきな学術調査は不要で、追加調査は原発を止めてやるべきだ。
岡田篤正・立命館大教授 台場浜トレンチの地層のずれが地下深部まで続く断層だと即断できず、むしろ地滑りのように見える。地滑りの専門家も含め、幅広い識者で検討すべきだ。
島崎邦彦・原子力規制委員会委員長代理 台場浜付近で12.5万年前ごろにできたとみられる段丘面がずれている。活断層か、地滑りによるものと考えられるが、絞れなかった。
結局、この日は結論を出せなかった。会合後の記者会見で、島崎委員長代理は「断層の可能性はあるが、地滑りとも言えるので、どちらとも絞れない。地滑りなら起こるのは限定的なので、F-6破砕帯とのつながりはなく、問題にならない」と述べた(同・毎日新聞)。
どうも、結論を誘導しているような気配が感じられる。しかもこの「地滑り説」は、実は、当事者の関西電力が10月31日に公表した中間報告で主張していたものなのだ。つまり、関電の言い分をそのまま主張しているのが岡田教授で、島崎委員長代理は「地滑りならば問題はない」と、その主張の後押しをしているようにも聞こえる。
だが、広内准教授は次のようにも述べている(同日・東京新聞)。
海側の試掘溝(トレンチ)でいくつかの断層を確認した。(関電が主張する)地滑りの地形ではない。ただ、いつ動いたのかは判断が難しい。(略) 地滑りで説明するのは難しい。活断層の条件を満たしていないわけではない。活断層か地滑りか分からないのであれば、濃いグレー、クロに近くなってくると思う。
会合に先立って、田中俊一・規制委委員長が「調査の結果、活断層の可能性が濃いグレーもしくはクロであれば、大飯原発の停止を求める」と明言している。広内准教授の「濃いグレー、クロに近くなってくる」という発言は、その田中発言を受けてのものだ。
つまり、広内准教授は関電の「地滑り説」を否定することによって、言外に岡田教授を批判したわけだ。なぜこんな回りくどい言い方をするのか。それは、やはり学会のヒエラルキーが裏にあるからだ。
実は岡田教授は「日本活断層学会初代会長」という肩書きを持っている。広内准教授は「活断層と地形発達史の解明、活断層活動性評価」などを研究分野としており、むろん活断層学会とは関係が深い。ある意味で、学会のボスへの反旗ともいえる。学者としての良心の、最低限の発露なのかもしれない。
渡辺教授は、当初からの説を曲げない。
ただここで指摘しておかなければならないのは、渡辺教授が「反原発」の立場から、このような説を主張しているのではないということだ。渡辺教授は、「原発の必要性と安全性は別の問題」と、はっきり言っている。エネルギー問題としての原発の必要性と、事故の可能性が残る安全性の問題は、切り離して考えるべき、という学者・研究者として当然の姿勢を示しているのだ。
安全性に疑問があるのであれば、まず原発を停止させ、その上で、もし安全性が確認できたら、そこでようやく再稼働させるというのが筋道だ、と極めて当たり前の主張をしているに過ぎない。
ところがこれに対し、関電側は「地滑り説」を持ち出して、「活断層ではないという当社の主張を覆す事実は見つかっていない。だから、稼働は続ける」と、なんとも分かりにくいリクツを繰り返す。
だが、このレトリック、最初から破綻している。
「活断層ではないことを覆す事実は見つかっていない」ということは、逆に「活断層であるという事実を覆す事実も提示できていない」ということではないか。
これは関電自らが「グレーである」ことを、認めてしまっているに等しい。田中委員長の言葉さえ、真っ向から否定するものだ。
岡田教授は、関電の言い分に同調する。
「局所的なところだけを見て、早急に結論づけるのは危険だ。活断層とは断定できない。地滑りの専門家らも含めて、時間をかけて分析すべきだ」と、引き延ばしとも取れる発言を繰り返した。
岡田教授のその言葉自体に矛盾はない。だが、そう主張するなら、少なくとも「地滑りの専門家たちを含めて、時間をかけて分析」する間は原発を止めておく、というのが普通の考え方ではないか。いつまで、どのくらいの時間をかければ結論が出るのかは分からないが、もしその間に大地震が来たらどうするのか。大地震は、専門家会議の結論が出るまで来ない、という保証などどこにもない。
とにかく、大飯原発再稼働を既成事実としたい側の思惑が、この調査委員会にも大きな圧力となっているのは間違いない。
今回の議論の論点をまとめてみれば、5人の委員の誰一人として明確に「F-6破砕帯は活断層ではない」と断定していない。
地滑り説に固執した岡田教授ですら「現時点で活断層とみなすことはできない。幅広い識者で再検討すべきだ」と言っている。
再検討とは、現時点では地滑り説とは断定できない、ということ。つまり、岡田教授でさえグレーだと認めているのだ。ならば、グレーやクロが完全に否定されるまで、原発を停止させておくのが、原子力"規制"委員会の仕事ではないか。本当に"規制"できるのか。すでに批判を浴び始めている「原子力規制委委員会」の立ち位置が試される。
だが、そもそも大飯原発再稼働の理由とは何だったか。
これは、関電の「今夏の電力需要のピーク時に、供給が不足する恐れがある。それを防ぐためにはどうしても大飯原発再稼働が必要」との主張によるものだった。それなら、夏が過ぎ、需要のピークが終わった時点で原発を停止するのが当たり前のリクツである。それを無視して稼働を続けるのは、自らの主張を自らが否定していることになる。屁リクツにもなっていない。
もうひとつだけ指摘しておく。
実は、この会合の中継の最後に、不思議な場面があったのだ。僕はそこで話されたことの一言一句を正確に憶えているわけではないが、岡田教授の、おおよそこんな発言だった。
「このような公開の場で、こんなに大勢の人の前で議論をするというのは、いかがなものかと。どうしても、冷静で実のある議論はしにくい。見ている人たちを意識して、発言しにくい部分も多々あるのではないか。他の委員のみなさんも同じお考えだと思う。できれば、次回からはこのようにオープンなところではなく、もっと冷静に議論できるような場を設定していただきたい」
この通りの言葉ではないことは断っておく。だが、岡田教授の言い分は、ほとんどこのような趣旨だった。
僕は、この発言に"強烈な違和感"を持った。僕は大飯原発の活断層問題に、深い関心を持っている。その検証結果を正確に、すべて知りたい。だが岡田教授は「オープンな場では冷静な議論ができない」と言う。
自分の言葉に責任を持つのなら、すべてを公開して議論するのが当然ではないか。公にしたくない本音がある、と岡田教授は自ら告白したようなものだ。では、その本音とは何か…。
日本の原子力政策の根幹ともいうべき「原子力基本法」にこうある。
原子力開発利用の基本方針
平和目的に限り、安全の確保を旨として、民主的な運営の下に、自主的にこれを行うものとし、その成果を公開し、進んで国際協力に資するものとする
これが、日本における「民主・自主・公開」の原子力平和利用3原則と呼ばれるものであり、さまざまな議論はありながらも、少なくともこれまでは尊重されてきた。いや、関係者たちが、尊重するフリをし続けてきた。
むろん、電力会社や原子力ムラの人々の隠蔽・虚偽・捏造などを、我々はイヤというほど見せつけられてきたけれど、それでも、大っぴらに「公開」を否定する人はいなかった。
ところが、この大飯原発再稼働の是非を問う最終局面ともいえる検討委員会で、それも重要な専門委員のひとりから、「公開原則」の否定とも取れる発言がなされたのだ。このような人物が、この国に生きる人々の命運を握る地位にいる。
僕が「強烈な違和感」を抱いたことを、分かってもらえただろうか…。
鈴木耕さんプロフィール
すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。
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