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2012-10-24up
時々お散歩日記(鈴木耕)
110ふたつの飛行場
そして、巨大な憤りのデモが再び
我が家の近所に調布飛行場がある。プロペラ機専用の小さな飛行場だ。ここで「調布飛行場まつり」が開催された。21日、久々に何も用事のない日曜日。僕は自転車で、まつりをのぞきに行った。
普段は入れない滑走路の手前まで行ける。会場は2万人以上もの来場者で大賑わい。ここからプロペラ機が定期就航している大島や神津島や式根島などの物産展も開かれていて、地方色も豊か。
それに、飛行機がカワイ~イ。そばまで行ってじっくりと見ることができる。測量用や救急用の、とても平和な民間の飛行機やヘリコプターだ。子ども以上に、大人たちも大はしゃぎ(そんなわけで、今回の「お散歩写真」は、調布飛行場まつりの光景です)。
平和なまつりの中で、僕はつい、普天間飛行場と比較してしまっていた。穏やかなプロペラ音と、暴力的なオスプレイの轟音…。
調布飛行場は、戦前(1941年)、旧日本軍の「帝都防衛拠点」として開港、特攻機にも使われた「飛燕」の基地だったが、戦後、接収されて米軍基地となった。米軍はやがて周辺の土地も収用し、三鷹・調布・府中にまたがる広大な基地に拡大された。
1964年の東京オリンピック開催で、東京代々木にあった米軍将校用の居住地ワシントンハイツにオリンピック選手村が建設されることになり、それに伴って将校用住宅がこの地に移転、「Kanto Village」(通称・関東村)と呼ばれる「日本の中の豊かなアメリカ」がここに誕生したのだ。
関東村は、1973年に日本側へ全面返還された。三鷹・調布・府中の3市は跡地利用委員会を結成、基地返還後の利用計画を議論、策定した。その結果が現在の形で、地元の人たちはいまでも「関東村」と呼んで親しんでいる。
東側は調布飛行場と、それを取り巻くように武蔵野の森公園、たくさんの野球場やサッカー場、テニスコート、遊具広場、大きな池などがあり、南側にはサッカーファンにはおなじみの味の素スタジアム、西側には多くの高齢者介護施設、養護施設、障碍者施設、養護学校、デイケアセンターなどの福祉施設。そのさらに西側には、榊原記念病院(心臓病治療で有名)や、警察大学校、東京外国語大学などが建っている。
僕はここが好きでよく散歩する。ことに、のんびりと飛行場でのプロペラ機の離発着を小高い丘の上から見ているのは、なかなか楽しいものである。ブルンブルンのプロペラ音も心地よい響き。
ゆったりと散歩する人の多いこの「旧関東村」、ざっと地図で測ってみると、実は普天間飛行場と面積はさほど変わらない。しかし、この違いの大きさは、まさに天と地、もっとシビアに言えば天国と…。
なぜ、ここ「関東村」がこんな変貌を遂げられたのか。そしてなぜ、普天間は今でも轟音の下に蹲ったままなのか。それこそ、最近の沖縄の人たちが痛苦な思いで口にする「沖縄差別」の具体例ではないか。
僕らは調布飛行場まつりで、民間のかわいいプロペラ機の展示を笑顔で見ていられるが、普天間周辺の人たちは、それこそ、はらわたが煮えくり返る思いだろう。
同じプロペラ機とはいいながら、ここの民間機とオスプレイでは、騒音の度合いが違う。それが、昼夜を問わず人口密集地の上を飛び回るのだ。しかも、日米政府で合意したとかいう「飛行訓練の制限」など、すぐに絵に描いた餅と化した。米軍は、住民の気持ちなど知ったことかと、傍若無人。しかもしかも、その上に今度は米兵による女性暴行事件。
どこまで足蹴にすれば気がすむのかと、沖縄の人たちが切ないほどの憤りを表すのは当然だ。
田母神某とかいう人物が「午前4時までフラフラしている女性にも責任が」などと呟いていて、また怒りに油を注いでいる。こんな男が防衛省の制服組の幹部だったのだ。防衛省が、真剣に米軍基地問題に取り組んでいないのではないかと疑われるのも仕方がない。
沖縄では、またしても巨大な怒りの集会が議論され始めた。底流には、じわじわと広がる「沖縄独立論」もある。沖縄がどこへ行くか、もはや、日本の政治家の誰一人として見通せる者はいない。政治の崩壊、政治家たちの惨状もここに極まった。
そんな状況があるというのに、議員連中の対応は、ひどい、ひどすぎる! もはやどうしようもない。
むろん、現在の政権政党である民主党はひどいが、自民党や公明党だって、同じ穴の狢(むじな)だ。「近いうち」がどーしたの、「解散の約束」がこーしたのと、政局ごっこにウツツを抜かすばかり。
さらには、最高裁に「違憲状態にある!」と叱りつけられても、1票の格差是正のための選挙法案改正など放りっぱなし。国民に痛みを押しつける「消費増税」だけはシャンシャンお手盛りで決めておきながら、自らの痛みには徹底的に目をつぶる。
「金曜デモ」の悲痛な声が届くはずの国会議事堂は、うわべはがっしりと重厚だが、中身はグチャグチャの腐敗臭。僕らの声を聞こうとするまともな人間の住む場所でなくなって久しい。
原発反対の声は、毎週金曜日、国会周辺に渦巻いている。先週19日、僕もいつものように参加した。周辺を歩き回ってみた。
官邸前歩道に数千人、国会正門前の向かい左側歩道にも千人以上、同右側歩道にも数百人、ファミリーエリアにも数百人(ここにはお子さん連れの多くの人たちの姿)、さらには、官邸の裏側(地下鉄溜池山王駅)にも数十人の静かな抗議の人たち。そして人々を奮い立たせるドラム隊が集結する場所にも数百人。
坂を下って、経産省前や文科省前にも抗議の声が響く。自転車部隊も増えている。反原発を示す思い思いのステッカーや旗をなびかせて、数十台の自転車が、国会の周りを、拳を振り上げながら走り回る。日は違うが、デモは自民党本部や経団連にまで波及している。
「官邸前の抗議も下火だ。人数は減っている」という人が増えてきた。僕のツイッターにも、そんなことを書き込み、絡んでくる連中がいる。ま、言いたいヤツには言わせておく。そういう連中に限って、国会前に来たこともなければ、デモ現場に足を運んでもいない。テレビの浅薄なコメンテーターの根拠のない言い分や、原発がなければ生きていけないような某新聞の記事を鵜呑みにしているだけだ。
しかも、この毎週金曜日デモは、いまや全国に広がりつつある。僕がネットで漁ってみた限りでも42ヵ所に達していた。むろん、調べ切れなかった場所もあるだろうから、実数はもっと多いはず。数十人から数百人、数千人まで、規模はさまざまだが声は確実に広がっているのだ。
10月13日には東京・日比谷野外音楽堂で6500人の集会とデモがあったし、なにより、大間原発建設に反対するデモが、北海道札幌では1万2000人を集めたのだ。地方都市での1万人超のデモなど、3.11以前にはほとんど例がなかったのだ。これを全国への「拡散・拡大」と言わずして、なんと呼べばいい?
11月11日(日)には、国会周辺で、金曜デモ主催の「首都圏反原発連合」の主催、代々木17万人集会を成功させた「さようなら原発1千万人アクション」、「脱原発世界会議」、「経産省前テントひろば」、「原発をなくす全国会議」など各協力団体の呼びかけで「国会包囲100万人デモ」が予定されている。
「100万人」と豪語してはいるが、実のところ、どれほどの人たちが集まるか、呼びかけている側にも分からないという。だが、すでにこのデモの呼びかけは、ツイッターやブログ、フェイスブックなどで、凄まじい勢いの拡散をみせている。僕のツイッターにも、これに関して多くの情報が寄せられ始めた。
多分、前代未聞の国会包囲になるのではないか。もう一度、野田の心胆を寒からしめる効果は十分だ。何度もシカトを決め込んで批判を浴びてきたマスメディアも、今回はそう簡単には無視できないだろう。
拡大する官邸前デモをまったく報道しようとしなかったマスメディアに業を煮やした広瀬隆さんらの「それなら、自前でヘリを飛ばして撮影・報道しようじゃないか」という提唱で始まった「正しい報道ヘリの会」は、あれよあれよと賛同者が増え、寄付金(城南信用金庫に口座開設)もあっという間に1000万円を超えた。
この11月11日の100万人集会にも、「ヘリの会」は俳優の山本太郎さんのリポート、広河隆一さんらの撮影で、ヘリを飛ばすという。そしてその光景は、岩上安身さんのIWJや白石草さんらの Our Planet-TV などを通じてネット上で実況中継される予定だ。
むろん、その日は僕も友人や仲間とともに参加する。
パンドラの函の底の小さな希望は、それでも大きく膨らみつつある。
鈴木耕さんプロフィール
すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。
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