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2012-09-05up
時々お散歩日記(鈴木耕)
104「電力不足→節電要請」への大きな疑問
まだ残暑は厳しいけれど、ようやく秋の気配が漂ってきた。
空には鰯雲、アキアカネが舞い、ヒグラシが少しだけ涼しさを誘い、夕刻になると虫の音が秋の訪れを告げている。子どもたちの楽しい夏休みも終わり、ゆっくりと、夏が逝き始めている。
そして、クーラー頼りだった暑熱の日々も、もうじき終わるだろう。あなたの家は、どれくらい節電をしましたか?
我が家では、"フツーの節電"だった。僕の小さな仕事部屋には、古~いエアコンがあるけれど、こいつが極めてうるさい。ゴオーッゴオーンッとかなりな轟音をたてる。原稿を書いていると、妙に気に障る。だから、できるだけ使わないようにしていた。胸のあたりを、ツツーッと流れる汗が、そのうち快感になってきたりして…(苦笑)。
ほかには、こまめに灯りを消すとか、なるべくテレビのスウィッチを切るとか、ま、ありきたりの節電。でも、居間ではカミさんと娘がそれなりに冷房を入れていたので、多分、大した節電にはなっていないだろう。しかし、そんなに無理をしてまで節電する必要が、ほんとうにあったのだろうか?
91歳の義母は、我が家から徒歩5分ほどのマンションでひとり暮らし。かなりのガンコ婆さんで、できるかぎり人の世話にはなりたくないと、ずっとひとり暮らしを続けている。さすがにカミさんは心配する。1日に必ず1度、必ず様子を見に行く。時々、僕も同行する。
年寄りはひとつひとつのことにはガンコでも、お上の言うことには妙に素直である。このところの政治家たちのひどさを新聞やテレビニュースで知っている義母は「もう呆れたわ。あたしはもう選挙になんか行ってやらない」と宣言している。ところが、世の中にとても関心を持っているこんな義母でさえ、しきりに「省エネ」だとか「節電」などと言って、なかなかエアコンをつけようとしない。仕方なくカミさんが押しかけて、むりやりエアコンのスウィッチを入れてくる、などということが、この夏も何度かあった。
「電気が足りなくなったら、タイヘンでしょ。なるべく使わないほうがいいのよね」と、義母は言う。
僕は腹が立つ。電力会社と財界、マスメディア、それに政府までもが一体となって大騒ぎした「電力不足キャンペーン」が、こんな年寄りたちをも直撃したのだ。
ほんとうに電力が足りなくて、いくら頑張っても需要予測値が供給力を上回るのであれば、仕方ない部分もあったろう。だが、たとえば東京電力などは、最初から電力供給力に余裕があった。それは、夏が来る前から分かっていた。しかし、「節電のお願い」をやめなかった。だから、わが義母のように懸命に暑さを耐えようとした人は多かったのだ。この夏、熱中症などで救急搬送された人たちのうち、いったい何人がこの「節電」のためだったか。
「原発頼み」の関西電力は、「大飯原発を再稼働しなければ、この夏を乗り切ることができない」と、米倉経団連ほか財界と原発マフィアたちの強力な援護射撃を得て、凄まじいほどの「電力不足&節電キャンペーン」を繰り広げた。だがそれは、果たして正確な情報と予測に基づいたものだっただろうか。
関電は当初「15%の節電を」と呼びかけた。大飯原発が、野田(呼び捨て運動継続中)によって再稼働してからは、それを訂正した。関電がプレスリリース(記者会見資料)として配布した文書には、以下のように記されていた。
当社はこれまで、大飯発電所3,4号機の再稼働に向け、万全の体制で安全第一に、作業に取り組んできました結果、7月9日の大飯発電所3号機に続いて、本日、大飯発電所4号機が定格熱出力一定運転に達し、再稼働しました。
お客さまにご協力賜ります節電内容については、大飯発電所3号機の再稼働以降、一昨年の夏と比較して15%以上の節電から、10%以上の節電に見直させていただきましたが、大飯発電所3,4号機の再稼働以降についても、10%以上の節電を維持させていただくこととしました。(略)
※1:大飯発電所4号機再稼働後は、8月の需給ギャップがほぼゼロまで改善することを踏まえて、ご家庭のお客さまについては引き続き健康に影響のない範囲で、法人のお客さまについては病院や鉄道などライフライン機能等の維持に支障のない範囲や生産活動に支障が生じない範囲で、節電へのご協力をお願いいたします。(略)
絶対に「原子力」という言葉を使わず「大飯発電所」を繰り返すところにいじましいほどの努力が感じられるが、それはともかく、なんとも中身のない文章である。しかも、ここでは15%の節電要請を、原発再稼働に伴って10%にまで引き下げるとしているが、それすらのちに5%まで引き下げざるを得なくなった。
また、ここでは「4号機再稼働後は、需給ギャップはほぼゼロまで改善」と誇らしげに書いている。だがこれは事実だったか。ウソだった! 大飯原発再稼働などなくても、関西電力管内での電力供給には余裕があったことが、連日報道されている。ここでは、そのうちの3つの記事だけを紹介するが、たとえばこんな具合だ。
(なお、テレビでも、かなりの番組で電力不足キャンペーンへの疑問が特集された。とくに、テレビ朝日「モーニングバード」「報道ステーション」、TBS「サンデーモーニング」などの特集はかなり詳細だった)。
新聞記事の見出しだけを挙げておこう。内容は分かる。
(朝日新聞8月21日)
節電効果、ピークも余裕
9電力、7月の販売減
「融通で足りた」の声 関電管内(東京新聞8月29日)
関電「原発なしでも余力」
節電8週間 最大時に火力1基休止(毎日新聞9月3日夕刊)
必要だったのかなぁ 再稼働
「根拠」操作の疑念噴出
(1)電力需要 (2)融通電力量 (3)揚水発電量
火力発電止め 余裕調整 そんな本末転倒さえも…
要するに、どの記事も関電の「電力不足→節電要請キャンペーン」に疑問を呈しているのだ。特に目立ったのは、「火力発電を止めて、電力不足を演出したのではないか」という疑惑だ。そりゃあ、必要な火力発電所を止めてしまえば電力不足になるのは当たり前。
また、他の電力会社から電力を融通してもらえば十分に間に合った。ところが、その「融通量を最初から低めに設定していた」事実もある。「節電予測値」の恣意的な低さも指摘されている。
つまり、どう考えても関電の「電力不足キャンペーン」は意図的に作り出されたものだったということらしい。
僕が自分のツイッターで「関電管内でさえ電力不足は起こらなかった」と書いたら、さっそく「不足だからこそ他電力から融通してもらったのだ」という批判が来た。この方、誤解している。
電力会社の供給計画は「使える電力がどれくらいあるか」である。それは「計画」なのだから、当然「他社からの融通」も計画の中に含まれていなければならない。電力計画とは、すべての供給可能電力を計算に入れて初めて成り立つのだ。したがって、「融通電力」も当然ながら「供給可能量」に含まれなければならない。
つまり「足りないから融通してもらった」のではなく「融通を計画に入れていれば足りた」のである。
政府は関電の言うことを丸呑みして「電力不足を15%と予測」したが、「節電量を低く見積もりすぎている」との批判を受けた関電自体が、最終的には「不足分は5%」と下方修正した。だがそんなことには目をつぶって、野田は「国民の生活を守るため」と称して大飯原発再稼働に踏み切った(前出毎日新聞記事の要約)。
「電力不足」の根拠自体が怪しかったのだ。確かに節電に頼らなければならない状況はあった。だが、3・11以降、国民に浸透した節電状況をきちんと調べれば、今夏の節電量もほぼ正確に把握できたはずだ。ところが関電も政府もそれを無視し、逆に最も暑かったといわれる2010年夏をモデルにした。
だが、2011年夏も史上4位の暑さだったのだ。その年の節電実績を精査すれば、今夏の関電の節電予測がいかに恣意的な高さだったかが分かってしまう。実績を無視した予測だ。批判されて当然だった。そのため、関電は電力不足予測を自ら15%→5%と引き下げざるを得なかった。だが、さまざまな資料を見る限り、その5%の電力不足予測さえウソだったことが明らかになった、ということなのだ。
夏が終わる。
とりあえず、電力会社・政府の「電力不足キャンペーン」も一段落するだろう。
もっとも、政治家たちは電力問題なんかどっかへ放り投げて、政局ごっこで超ハイテンション。石原・石破の「石石対決」だとか「安倍復活」、「野田降ろしと細野浮上」、はては「橋下維新旋風」と、どれをとっても誰を見ても、ああ…という「溜め息政治」。
しかし、先週も書いたけれど、原発問題へ向けての「緩やかな連帯の兆し」が、ようやく見え始めているのも事実だ。
「脱原発という意志」が選挙での1票になるような動きが…。
鈴木耕さんプロフィール
すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。
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