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2012-06-13up
時々お散歩日記(鈴木耕)
96「安全30項目」、超デタラメ野田宣言
確かに危険もある。だが、私たちが今、最も頼りにしている石油資源も、いつ手の届かないものになってしまうか分からない。今もし、アラビア湾が封鎖されでもしたら、どうなると思う? それが6ヵ月続くと、中東から日本へ石油が入ってこない期間は航行日数も入れて7ヵ月から約8ヵ月近くになりますね。日本は石油の輸入を81%中東に頼っている。ですから、石油の輸入は平常の20%になり、それが200日間続くと日本中で300万人が死に、財産の70%が失われることになります。(略)
私たちはそんな危なっかしいものを命綱として生きているんです。これほどの危険がほかにありますか。私たちは、エネルギー源としてはできるだけ多くのものを持っていなければならない。石炭でも石油でも原子力でも…
原子力発電を止めたままでは、日本社会は立ち行かなくなります。突発的な停電が起これば、命の危険にさらされる人もでます。
電力価格が高騰すれば、中小企業や家庭にまで影響が及び、産業空洞化が加速し、雇用の場が奪われます。我が国のエネルギーは石油の輸入に頼っています。その石油資源の7割を中東に頼っており、もし中東からの石油の輸入に支障が生じれば、石油ショックのときのような痛みも覚悟しなければなりません。
この2つのリクツ、そっくりだとは思わないか?
前者は1978年公開の映画『原子力戦争』(田原総一朗原作、黒木和男監督)の中で、ある原子力学者が新聞記者に答える場面での言葉だ(「時々お散歩日記」第84回参照)。
そして後者は、2012年6月8日に、あの野田首相の国民向け(とは名ばかり、実は西川一誠福井県知事に向けたおべんちゃら)の「大飯原発再稼働」宣言の一部分だ。
驚くべきことに、34年前の映画の中のセリフと、つい先日の野田首相の言葉とが、ほとんど瓜二つなのだ。中東危機を煽って、石油が入ってこなくなれば日本(国民)は大変なことになるゾ、と脅す。
つまり、野田首相の頭の中身は、34年前の映画から一歩も進歩していないということだ。いや、むしろ、事実を捻じ曲げている分だけタチが悪い。そんな男がこの国の首相なのだ。絶望的だ。
どこが事実と違うか。東京新聞(6月9日付)が、簡単にこのウソを暴いている。
(石油輸入については)原発停止に伴い火力発電への依存が増加したことを念頭に置いた発言とみられるが、現在の火力発電の燃料は石炭や液化天然ガス(LNG)が主体で、価格の高い石油火力は一割程度しか使っていない。
そもそも関西電力の原油輸入先はインドネシアとベトナムが95%(二〇一〇年実績)を占める。中東の石油輸入に支障が生じれば、国民生活への影響は大きいことは間違いないが、関電の電力需給に限って言えば、石油ショックと同列に語ることの根拠はない。(略)
野田首相の発言は、まったくの事実誤認か、もしくは意図的なウソか。多分、そのどちらでもあるまい。彼は、こんな事実は知らなかったのではないか。
田中直紀前防衛相を「無知の知」と、わけの分からない言葉で庇ったが、実はその野田本人こそ、田中氏に負けず劣らず無知だったのだ。だから、官僚がでっち上げた駄文をそのまま読み上げただけだろう。
いまや野田首相の頭の中は、消費増税でいっぱい。とても原発のことまで考えるだけの脳内キャパシティはない。だから、こんな手玉に取りやすい首相もいないと米倉財界の覚えはめでたいし、操り人形としては最良とほくそ笑む官僚たちのしたり顔…。
そんな野田首相が、まるでナントカのひとつ覚えのように繰り返すのが「再稼働の安全性」だ。要旨、こんな具合だ(朝日新聞6月9日付)。
福島を襲った地震・津波が起こっても事故を防止できる対策と体制は整っている。全電源が失われる事態でも炉心損傷に至らない。もちろん、安全基準に絶対はない。30項目の対策の実施を期限を区切って電力会社に求めている。政府の安全基準は暫定的なもの。新たな(規制)体制が発足した時点で、安全規制を見直す。(略)
野田首相は「30項目の対策の実施を期限を区切って…」と言っている。つまり、最低限の必要対策であるはず(それとてデタラメ保安院の提言に過ぎないが)の30項目すら「まだ実施されていない」ことを、自ら認めているのだ。ならば、最低でも(野田自体が最低だが)その「30項目が実施されてから再稼働する」というのが当然ではないか。自分で必要と認めておきながら、それは後回しにしてもかまわない…。こんな矛盾だらけの話があるものか。
矛盾はまだある。関西広域連合の「再稼働は一時的とし、需要ピークを過ぎたらまた停止させるべき」という意見に対し、野田首相は「一時停止は考えていない。安全確保された原発は順次、再稼働させていく」と、フル稼働を明言した。
これもデタラメ極まる。自ら「政府の安全基準は暫定的なもの。新たな(規制)体制が発足した時点で、安全規制を見直す」と言っているではないか。ならば、新たに原子力規制庁が発足した時点で、原発を再度停止させ、新体制で厳格な安全審査を行ってから再び動かすのが当然だろう。少なくとも、野田首相の言葉からはそう受け取れる。いや、それ以外は読み取れない。にもかかわらず、野田首相は「一時停止は考えていない」と断言している。では「暫定的」という言葉は何なのか?
もはや、この男の使う言葉は日本語彙ではない。中学校へ入りなおして、言葉の意味を一から学んで来いっ!
ペラペラ喋っているときにはつい聞き逃してしまうけれど、ちょっと考えてみれば、バカな理屈の羅列だ。分からないのか、野田よ! 書いているだけで腹が立つ。
怒りはともかく、では、そのデタラメ保安院が示した「30項目の暫定安全対策基準」とは、どんなものか。列記してみる。
- 外部電源系統の信頼性向上
- 変電所設備の耐震性向上
- 開閉所設備の耐震性向上
- 外部電源設備の迅速な復旧
- 所内電気設備の位置的な分散
- 浸水対策の強化
- 非常用交流電源の多重性と多様性の強化
- 非常用直流電源の強化
- 個別専用電源の設置
- 外部からの給電の安易化
- 電気設備関係予備品の備蓄
- 事故時の判断能力の向上
- 冷却設備の耐震性確保・位置的分散
- 事故後の最終ヒートシンクの向上
- 隔離弁・SRVの動作確実性の向上
- 代替注水機能の強化
- 使用済み燃料プールの冷却・給水機能の信頼性向上
- 格納容器の除熱機能の多様性
- 格納容器トップヘッドフランジの過温破損防止対策
- 低圧代替注入の確実な移行
- ベントの確実性、操作性の向上
- ベントによる外部環境への影響の低減
- ベント配管の独立性確保
- 水素爆発の防止(濃度管理及び適切な放出)
- 事故時の指揮所の確保・整備
- 事故時の通信機能確保
- 事故時における計装設備の信頼性確保
- プラント状態の監視機能の強化
- 事故時モニタリング機能の強化
- 非常事態への対応体制の構築・訓練の実施
以上が、「デタラメ保安院が提示した30項目の緊急対策」である。その中で、ゴチック活字で示した15項目が、すでに実施済み、とされているものだ。言い換えれば、残りの15項目は、まだ実施されていない、ないしはこれから実施する、というもの。
よく読んでみてほしい。
実施済みという15項目だって、やられていて当然のことばかり。むしろ、これらの項目を新たに列挙しなければならないということは、これまで対策が十分になされていなかったという事実の証明になる。それを考えれば、身の毛もよだつほど恐ろしい。そんな状態で、今まで原発は運転されていたのか…と。その結果が、福島だった。
この30項目、逆に「まだ実施されていない15項目」を見ていけば、さらに恐ろしさが倍加する。
たとえば項目2、3では耐震性さえまだ確保されていない。22~24の項目。大事故の際、緊急対応としてのベント(放射性物質を含んだ気体の放出)の対策がなされていない。福島原発を爆発させた水素の管理や放出対策ができていない。もっと問題なのは、項目25と26だ。ここでは実施済みとされているがウソだ、大きな欺瞞だ。
福島原発の最終的大破壊をかろうじて免れたのは、「免震重要棟」と呼ばれる施設が奇跡的に生き残り、機能を発揮できたからだった。ここに逃れた吉田昌郎所長以下の原発職員たちの献身的な働きがなければ、それこそ菅首相の言ったように「東日本は壊滅」していただろう。それほど重要な施設だったのだ。
ところが、大飯原発には、25に言うような「事故時の指揮所」など確保されていない。ここで言われているのは、町役場などに仮に設置する緊急連絡所にほかならない。決して福島で機能したような施設ではないのだ。福島並みの「免震事務棟」が造られるのは、2015年だという。前述したベントの放射性物質を除去できるフィルター付きの施設が完成するのも、2015年だ。
高田純次さんではないけれど、まさにテキトーを絵に描いたような対策としか言いようがない。
野田首相に問いたい。
「もし、2015年までに大地震と大津波が襲ったらどうするのか?」
水素爆発への手当てもない、ベントもできない、免震事務棟もない、項目11にあるように電気設備関係予備品の備蓄さえ満足にはない、項目19の格納容器の除熱も完全ではない、項目27・計装設備がいまだに信頼性不確実のまま、どうやって事故時のさまざまな測定を行うのか…。
この30項目のリストをちらりと見ただけでも、素人でさえこんな疑問が山盛りに浮かんでくる。
野田首相よ、あなたは「福島を襲った地震・津波が起こっても事故を防止できる対策と体制は整っている」と連発する。この30項目をどう読めば、そんな言葉が出てくるのか。
ならば、素人である僕を納得させてみよ。上に挙げたほんのわずかの疑問にでもいい、納得できる回答を聞かせてみよ。
あなたは「国論は二分している」と繰り返す。いったいどこを見ているのか。どこの国の「国論」について述べているのか。国論は「二分」などしていない。どんな調査を見ても、大飯原発再稼働については、反対が賛成の2倍ほどもあるではないか。それを二分とは言わない。
大飯原発の敷地内の断層について「活断層の可能性」を、名古屋大学の鈴木康弘教授と東洋大学の渡辺満久教授が共同研究した。そしてその上で「再稼働前の現地調査の必要がある」と発表した。
「F―6断層」と呼ばれる破砕帯が、渡辺教授たちが注目したものだ。大飯原発1、2号機~3、4号機の間の地下をほぼ南北に走っていて、これが海域にある周辺の活断層と連動してずれることもありうる、と指摘している(東京新聞6月10日より)。
これに対し関西電力はいつものように、「活断層ではないと判断しており、安全性に問題はない」と、調べもせずに突っぱねた。
むろん、野田首相は関電の言い分しか聞かない。都合のいい話しか聞こえなくなったバカ殿か…。
このところ、怒ってばかりいるせいか、文章がキツイぞ、と友人に言われた。反省している。だが、優しい文章を書けるような心境じゃない。だからせめて「お散歩写真」くらいは静かでゆったりしたものを。
僕の大好きな散歩道を、しばらく掲載しよう。すべて、我が家の近所の散歩コースです。
鈴木耕さんプロフィール
すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。
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