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2011-08-03up
時々お散歩日記(鈴木耕)
56新聞、読み比べて見えてくること
ああ、この連載ももう56回目か。だいたい1年ほども続けたら、連載もマンネリになる。だから50回ほどでやめようかと思っていた。しかし、3月11日。あれ以来、僕は震災と原発について書き続けてきて、連載終了のキッカケを失っている。
正直に言って、こんなにしんどい思いで文章を綴ってきたことはない。本音では、もうそろそろ連載を終わりにしたい…。でも、読んでくれる方は増えているという。もっと書き続けろ、という声も聞こえてくる。もう少し、もう少しだけ続けよう…か。
かつて出版社勤めをしていた頃、僕は出勤してすぐに、全国紙はもちろん琉球新報まで含めて新聞7~8紙をめくるのが日常だった。編集という職種では、新聞を読むのも大事な仕事だったのだ。
いま僕は、新聞を3紙購読している。朝日、毎日、東京。さすがにそれ以上は経済的にきつい。読売、産経、日経、地方紙などは、できる限りネットで検索する。
いまは、会社勤めのころよりも時間を自由にできることもあって、新聞の読み方も変った。隅々まで記事を追いかけ、小さな記事をなるべく丁寧に漁るようになったのだ。そうすると、時折、なかなか興味深い事実を知ることとなる。
たとえば、続々と明らかになる例の「プルサーマル説明会」での「ヤラセ問題」だ。7月31日の各紙は一面で「古川康佐賀県知事、やらせ誘導」と大きく伝えた。当然だろう。しかし、中身を比べてみると、妙なことに気づく。
【毎日新聞】
(略)九電第三者委員会の郷原信郎委員長は30日夜に会見し、大坪潔晴・佐賀支社長が段上守・前副社長の指示で、知事公舎で古川康知事と面談した際のやりとりをメモしていたことを明らかにした。中身は「メールなどで(再稼動への)賛成意見も集まるようにしてほしい」という趣旨の内容だったという。(略)
【朝日新聞】
(略)古川知事は会見で「当事者である九電に『声を出すべきだ』と発言したのは軽率で、反省している。私が言ったから(やらせメールが)行われたとは考えていない」と述べた。
東京新聞では微妙にニュアンスが変る。記事の最後に、面白い文章があるのだ。
(略)九電はやらせメール問題が発覚した直後に社内調査でメモの存在を把握していたが、「メモの内容と出席者の話が一致していない部分がある」「古川知事に重大な責任が生じる可能性がある」などとして、十四日の経済産業省への報告書には記載していなかった。 (略)郷原氏が二十七日に古川知事から事情を聞いた際、知事は「経済界の賛成意見が番組を通じて表に出るように話したが、九電が組織的に賛成意見を出すように働きかけたことはない」とやらせメールの“要請”を否定した。しかし、メモには「経済界」という文言はなく、「ネットやメールを通じて賛成意見も集まるようにしてほしい」という内容が書かれていたという。
読み比べてみればお分かりだろう。
古川知事は記者会見で、「賛成意見も集まるように、とは言ったが、それでヤラセが行われたとは思わない」と自らの責任を否定している。しかも「経済界の賛成意見」という表現で、自分の意見ではなく経済界からの要請であったように郷原氏には答えたし、テレビで観た古川知事の記者会見でも、確かにそう述べていた。だが、東京新聞のみは「『経済界』という文言は、九電側のメモにはなかった」と、はっきり古川知事の言い分を否定している。
同じ会見を取材していながら、なぜか表現が違う。細かなニュアンスながら、古川知事が自らの責任回避のために、微妙な言い回しで、九州電力と“経済界”という漠然とした業界に責任を押しつけ、(結果的には)ウソをついていた(かもしれない)ことを、記事できちんと触れているのは、3紙のうちでは東京新聞だけだったわけだ。
どこが何を隠し、誰が虚偽説明をしたのか。
すべての責任を古川知事によって押し付けられることに、さすがに九電側も我慢できなかったのか、郷原・第三者委員会委員長に真相をぶちまけたのだろう。むろん、ヤラセを行った九州電力に第一義的な責任はあるだろう。だが、実は古川知事も同じ穴の狢(むじな)だった。それを「すべては九電の責任。私はそんなことを言った憶えはない」と責任回避しようとした古川知事に対し、「それはないでしょう」というのが、九電側の正直な気持ちだったのではないか。狢同士の醜いケンカ(?)。
記事の最後の数行で、そんなことも見えてくる。
産経新聞が配信(7月30日)した記事も、ヤラセに絡んで面白い。
経済産業省原子力安全・保安院が中部電力と四国電力に、国主催のシンポジウムで「やらせ」を依頼していた問題で、保安院の森山善範原子力災害対策監は30日、問題となった2件のシンポジウムに関する資料を同省大臣官房監察室に提出したと明らかにした。
(略)森山対策監は「やらせ」依頼に関して「まったく想像できない。保安院がそういうこと(やらせ)をする必然性がない」と強調する一方、「事業者から(やらせ依頼の)報告があるので、それ自体は非常に深刻な問題だ。そうした事実を否定するものではない」と述べた。
もう、笑ってしまうしかない。この森山対策監なる人物は、朝日新聞(7月29日夕刊)によれば、こうだ。
(略)森山氏自身が、(問題の浜岡原発のプルサーマル発電に関する)シンポジウムの説明者で保安院の原子力発電安全審査課長として出席。「中越沖地震があった後なので、厳しい質問が多くあったと記憶している」と話した。
つまり、「ヤラセ質問」を中電側に依頼していたことがすでにバレている保安院の代表としてシンポジウムに出席していた当の責任者が、「ヤラセをする必然性がない」とか「まったく想像できない」などと答えているのだ。白々しいにもほどがある。ある組織の代表として出席していた人物に、その組織が何も知らせていなかった、とでもいうのか。
蛙のツラになんとか、というけれど、何をひっかけられても平然としていなければ、高級官僚たる資格がないのか。こんな明らかなウソをついても、官僚というのは処分されないのか。
誰がウソをつき、どんな組織がなにを隠蔽していたか…。
朝日新聞(8月1日付)にも、官僚組織と東電の馴れ合いのデータ操作に関する記事が大きく載っていた。引用するのもバカらしいので、要約する。
(要約)真夏のピーク時の東電管内の一般家庭が使う電力需要を、東電は2割も多めに推計した。経済産業省資源エネルギー庁の実測値はそれより少なかったにもかかわらず、資エネ庁はなぜか自分の部署で測った数値を使わず、丸呑みで東電の推計値を認めた。そのため、家庭への15%の節電要請は必要以上のものだったことになる。つまり家庭ではムリヤリの不必要な節電をさせられたわけだ。
東電は一般家庭の電力需要を、「午後2時の在宅率6割」「3割以上の家庭はペットがいるので留守でもエアコンはつけっぱなし」「1家庭には大型エアコン(10~15畳用)が2.6台」「家庭用冷蔵庫の大型(100ワット程度)より大きい268ワットの冷蔵庫が1家庭に1.2台」などを基にして計算したという。
そんな家庭がどこにある? 資エネ庁はそれを承知の上で認めたのだ。かくして官民一体の「大節電キャンペーン」が開始された。まさに、原発再稼動推進タッグチームだ。
資源エネルギー庁は「風評被害をまねくおそれのある正確でない情報又は不適切な情報を調査・分析する」(資エネ庁の仕様書)ために、ネット上での原発記事監視を、強い反対を押し切ってついに始めてしまった。自らが"不正確で不適切な情報"を垂れ流し、それを基にして“大節電キャンペーン”を行いながら、いったいどの口でこんなことが言えるのか。日本は「恥の文化」だというけれど、これらの組織の辞書には「恥」という言葉は載っていない。
僕は本来、温和な性格だ(と自分では思っている)。しかし、原発問題を調べ考えるようになってから、なんだかとても怒りっぽい性格に変ってきてしまったようだ。なにしろ、腹の立つことが、これでもかこれでもかと出てくるのだから。
悲しい。淋しい。
この国が立ち直るために
さほど大きくないけれど、少し希望の持てる(でも考えようによっては、とても切ない)記事が毎日新聞(7月31日付)に載っていた。
再生エネ特許 日本最多 世界の55%、実用化技術力は遅れ
世界各国で出願された4万7000件余りの再生可能エネルギーに関する特許のうち、日本で出願された特許件数が全体の55%を占めることが、環境省のまとめで分かった。(略)
日本での特許出願が55% で、米国21%▽欧州7%▽複数国で有効な国際出願7%▽韓国7%▽中国3%と続いた。
日本での特許出願のうち、太陽光発電・太陽熱などの太陽エネルギーが57%と最多で、水力14%▽バイオエネルギー12%▽風力8%▽地熱5%▽海流や潮の満ち引きなどを利用する潮力や波力4%。
独立行政法人・科学技術振興機構の「科学技術・研究開発の国際比較」11年版によると、日本の再生可能エネルギーは「大学・公的機関の研究」「企業の研究開発」で4段階評価で最も高い「非常に進んでいる」とされたが、「企業の生産現場の技術力」では「進んでいる」にとどまり、欧州や中国の「非常に進んでいる」には及ばなかった。(略)
日本について「国内市場が小さく技術の実用化が遅れている。太陽電池と風力発電は世界市場が急速に拡大しているが、コスト競争力の点で劣勢」(略)「技術開発力では他国を圧倒しているが、産業への展開に課題があり、いつの間にかシェアを海外企業に奪われているのが現実だ」と分析している。
日本の現状そのものだろう。エネルギー技術やエコ技術は世界一であるにもかかわらず、産業展開できず、美味しいところはみんなヨーロッパや中国に持っていかれる。
その理由は簡単だ。産業化する努力を、政府も電力会社も財界もまるでしてこなかったからだ。年間4千億円(この金額だって本当のところは判らない)とも言われる電力関連予算のほぼ90%を原子力へつぎ込み、再生可能エネルギーには、そのおこぼれの金しか回さなかった。しかも、電力会社と経産省が再生エネに大幅な規制をかけ、再生エネの自由な展開を阻んでいる。産業化などできるわけがない。
政府と電力会社や原発メーカーは一体となって、海外への原発売り込みを図った。それはフクシマによって頓挫した。当然だろう。では、日本はもう立ち直れないのか。そんなことはない。
日本には、世界に誇る省エネ技術や再生エネ技術がある。日の当たらぬところで、それらの技術を開発してきた技術者たちがいる。これらの人たちや特許を持つ企業と一緒になって、日本は「再生エネルギー&省エネ技術の国際売り込み隊」を作り、新たな海外戦略にすればいい。今からでも遅くはない。その方向へ、日本の生き残り戦略を立て直すことは可能だ。なにしろ、世界の55%の再生エネ特許を持っているのだから。
「電力不足によって、日本の企業は海外移転しなければならなくなる。日本経済が崩壊する。だから原発は必要だ」。これが、相も変らぬ原発推進派の、ほとんど“ナントカのひとつ覚え”のリクツだ。安全神話が壊れた以上、今度は経済性云々に頼らざるを得ない。
だが、電力不足もまたほとんど“作られた虚構”であることが、徐々に分かってきてしまった。電力は足りている…。
なにより、企業の不安は、実はアメリカのデフォルト(債務不履行)寸前の経済危機による凄まじいばかりの円高にあることははっきりしている。リーマンショックと止むことのない戦争、膨大な戦費。アメリカが巨大な債務超過に陥るのは当然だ。
輸出に頼る日本の大企業は、アメリカの危機による急激な円高の直撃を受けている。海外へ工場移転して、円高の大津波を回避せざるを得なくなっている。それが現実ではないか。
しかし原発容認派は、なぜかその点にはほとんど触れようとしない。触れれば馬脚を現してしまう…からか。
こんな“隠れ原発派”もいる。「原発は減らすほうがいいに決まっている。しかし、再生可能エネルギーへの転換などすぐにはできるわけがない。それができるまでの間は、安全性に考慮しながら、原発を動かし続けるべきだ」。
だがこれも分かっているようで、実はヘンなリクツだ。
引用した毎日の記事にあるように、実際にヨーロッパや中国では、再生エネの企業現場での生産力は「非常に進んでいる」のだ。つまり、やればできるのだ。まず、やってみればいいではないか。
できることをやりもしないで「すぐにはできない。転換には時間がかかる」という。他国がやっていることが、なぜ日本ではできないのか。やる気がないから、としか言いようがない。
「安全性に考慮しながら」などと、福島の現状を見ても言える神経はリッパだ。「放射能は怖くない」と言い続ける学者先生の神経もリッパだ。むろん、僕にはそんなリッパなモノはない。
日本は、3.11で手痛い「2度目の敗戦」を被ったのだ。同じ手法で立ち直ることなどできない。懲りもせず同じように原発に頼って、「3度目の敗戦」を迎えるのか。もしそうなれば、それは日本という国の消滅を意味するだろう。
立ち直ることができるとすれば、これまでと違う方策を採らなければならない。
できる。技術がある、才能もある、人間もいる…。
鈴木耕さんプロフィール
すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。
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