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2011-06-01up
時々お散歩日記(鈴木耕)
48原発がいらない「20の理由」(その2)
なぜか、朝日ニュースターというCSテレビ局の『愛川欽也のパックイン・ジャーナル』という番組からお声がかかって、5月28日(土)、出演してきた。
この番組、実は僕も好きでほぼ毎回観ていた。毎週土曜日の午前11時~午後1時の2時間、5人のパネラーたちが、その時々のジャーナルな話題を語り合う。なかなかユニークな討論番組だ。
愛川さんの司会で、今回は、早野透さん、二木啓孝さん、マエキタミヤコさん、横尾和博さんという錚々たるメンバーと僕。みなさん、初出演の僕に気を使ってくれて、いろいろと話を振ってくれた。おかげで、それなりに話すことができたようだ。
それにしても、テレビは難しい。話そうとしていたことの5分の1も話せなかった。でも、原発に対する僕の思いだけは伝わったかも…。
『パックイン…』は、はっきりと「反原発」の立場に立っているけれど、他にこんな番組はない。だが、世の中の原発に対する見方も、少しずつ変わりつつあるように思える。
いわゆる地上波のテレビ番組にも、「原発批判派」の人たちが以前よりは多く登場するようになってきた。テレビ局も、世の中の動きに、遅ればせながら影響されている証拠だろう。
僕の書くものが、その変化の1万分の1ほどにでも役に立ってくれていれば、嬉しい。書き続けよう。
今回は、『原発はいらない「20の理由」』の2回目。先週の5項目、ついひとつひとつの項目が長くなってしまったので、今回はなるべく短く書こうと思う。
(6)「ウソつき」に原発はまかせられない
日本の原子力発電所は、"ウソまみれ"だ。電力会社は、こと原発に関しては徹底的にウソをつくし、隠す。
原発で事故が起きたとき、その原因等に関する電力会社の発表は、まず眉にツバをつけてから聞いたほうがいい。それほどひどいし、そしてウソが多発している。原発事故に関し、電力会社がウソをついたり事故そのものを隠蔽したりした事例にはこと欠かないが、特にひどいのは2002年に発覚した東京電力の事故隠しだ。
これは東電の福島第一原発、第二原発、柏崎刈羽原発のうち13基の点検作業を行ったアメリカ人技術者(米原発メーカーGEの社員)の内部告発で明るみに出た。
それは「原子炉内のひび割れが6つと報告したのに、ひび割れは3つと記録が改竄されたり、原子炉内にレンチの置き忘れがあったことを隠蔽したりしている」などという内部告発を、米人技術者が当時の通産省へ行ったものだった。
東電側は当初、「記録を探したが、そういう記述はない」とシラをきった。だがやがて、法律上許されていない「水中溶接」を行っていたことや、ほかにも計29件に及ぶ不正な記録改竄や事故隠しなどのさまざまな疑惑がゾロゾロと発覚し、ついに東電側もそれを認めざるをえなくなった。刑事告発の噂さえ流れた。
それでも東電の築舘常務は同年8月に記者会見し、「未修理の部分はあるが、安全上の問題はない」との決まり文句で逃げを打った。
どんな大事故が起こっても「安全上の問題はない」「人体に影響のあるような放射能漏れはない」をオウムのように繰り返す様は、今回の福島大事故でも、初期のころに何度も聞かされたから、もう信じる者はいないだろう。だが過去において、原発事故に関しては、どんな電力会社もこの二言で逃げおおせてきたのである。
しかし、2002年の隠蔽や改竄は規模も件数も大きすぎた。世論の反発が強まり、ついに当時の南直哉社長など幹部5人が引責辞任に追い込まれた(注・だが南氏はその後も「東電顧問」として権力を保持し、さらに最近、フジテレビの監査役にも再任されている。テレビが「原発批判」を許さない理由のひとつでもある)。
このため、福島第一3号機で予定されていた「プルサーマル計画」は無期延期となった。
こんな例はたくさんある。こんな会社に、こんな危険な代物をまかせておいてはならない。当然のことだ。
(7)反原発派は脅される
前述のプルサーマル計画をめぐっては、「冤罪事件ではないか」と疑われる事例が起きている。
原子力行政には「原子力基本法」という法律があり、「民主・自主・公開」が「原子力平和利用の3原則」ということになっている。まことに白々しい。前項でみたように、ほとんど「虚偽・隠蔽・改竄」が日本の原子力運用の3原則になっているといっていい。さらに、そこに「脅迫」を付け加えて「4原則」と考えるのが妥当かもしれない。
どういうことか?
福島県の元知事・佐藤栄佐久氏は、2006年に汚職容疑で逮捕された。しかしこれは「冤罪であった」とする見方がいまだに根強い。かつて「原発推進派」だった佐藤元知事が、プルサーマル発電に関して疑問を持ち、やがて原発そのものへの疑問を表明していったことに対し、東電・政府・検察が一体となってでっち上げた事件だったのではないか、といわれているのだ。佐藤氏自身の著書『知事抹殺 つくられた福島県汚職事件』(平凡社)に、その経緯は詳しい。一読に値する本だ。
原発をめぐっては、公安警察の介入が激しい。たとえば、5月7日の渋谷での「反原発デモ」の際の、凄まじいほどの公安警官の数を見てもよく分かる。「週刊現代」(6月11日号)で、映画監督の鎌仲ひとみさんは次のように言っている。
<…似たようなことは、原発が建設されるほかの土地でも起きています。反対のデモなどしようものなら、公安警察が来て写真を撮られる。これは大変な恐怖です>と。地方では、警察に睨まれるということが、どれほど怖いか…。詳しくは書けないが、僕も週刊誌の編集者時代に、それに似た経験をした憶えがある。
電力会社と公安警察は、確実に連絡を取り合っている。「反原発」と言っただけで、警察は「過激派」扱いをするのだ。
(8)東電が全原発を止めても電力不足にはならなかった…
簡単に言ってしまおう。原発を止めても、電力不足にはならない。
前述の2002年の一連の東京電力の不正事件により、翌2003年には、東京電力の原子力発電所は検査や事故箇所の修理のために、福島第一、第二、柏崎刈羽の計17基すべてが停止するという緊急事態に陥った。それも真夏のことである。
で、電力不足は起きたのか? そんな事態は起きなかった…。
むろん、運転休止中の火力や水力発電所を再稼動させたことで電力供給が間に合ったのだが、裏返せば、それは「休止中の火力や水力に、原発分を補う発電容量がある」ということである。また2007年、新潟中越沖地震によって柏崎刈羽原発7基が深刻な損傷を受け、ここの全原発が停止した。このときも「電力不足」など起きていない。
2003年の夏には、現在のような「大節電キャンペーン」も「企業への電力抑制要請」も行われなかったことを考えれば、「原発なしでは深刻な電力不足になる」という東電などの言い分を、あっさりと肯定するわけにはいかない。
では、福島原発事故直後の4月に行われた東京電力の「計画停電」は必要なかったのか?
今回は、津波によって火力発電所の多くも被害を受けていたのだから、ある程度電力が逼迫していたことは間違いないだろう。だが、疑り深い僕はあの計画停電には、「原発がなければやっていけないんだよ」と首都圏の住民に刷り込むためのパフォーマンスの臭いを嗅いでしまうのだ。
(9)「原発電力が3割」はほんとうか?
これは、以前にもこのコラムで書いたこと(第43回)なので、詳しくは繰り返さないけれど、日本の全電力会社10社のHPをあたってみれば、各社の発電容量(供給能力)が掲載されている。それに、電源開発株式会社(Jパワー)の分も加えて計算してみる。
日本の電力会社の総発電容量は、約2億2610万キロワット。それに対して、原子力は約5048万キロワット。単純な計算。原子力が総発電容量(つまり電力の供給能力)に占める割合は、22.3%でしかない。どう計算しても、そうなる。
僕がそう書いたら、「それはすべてがフル稼働した場合のことで、現状の供給量ではやはり3割だ」という、よくわけの分からない反論が来た。しかし、原発を優先して稼動させるために、他の火力や水力を止めていただけであって、実際にはいつだって「フル稼働」などしていない。
どう考えても、「3割ではなく2割」というのが、数字から導き出される結論だ。
そういえばTBS系『関口宏のサンデー・モーニング』でも、原発2割という数字を表にしていた、と友人が教えてくれた。政府や電力会社の発表する数字に疑問を抱く人たちが、ようやく大手メディアの中にも出てきたということだろうか。
例の浜岡原発でも、同じような数字のマジックがあった。これもこのコラム(第45回)で触れているので、ここでは繰り返さない。ただ、中部電力が発表した数字と、中電自体が公表しているHPの数字が、なぜか300万キロワットほども違っているということだけを指摘しておく。中電も脇が甘い。
もうひとつ、資源エネルギー庁(原発推進の殿堂みたいなところ)が、発表した数字がある。残念ながら、2004年のものしかなかったが、それでも傾向は変らないはずだ。
それによると、04年度末では、
発電設備容量(供給可能量)
水力=19.1% 火力=61.1% 原子力=19.8%
発電電力量(実際の供給量)
水力=10.0% 火力=60.4% 原子力=29.1% 新エネルギー=0.5%
供給能力が20%ほどの原発電力が、実際の供給量では30%ほどになっている。つまり、ほかの発電所を休ませて原発の稼働率を何とか高めているのだ。
もうお分かりだろう。僕たちの頭に徹底的に刷り込まれた「30%の原発が止まれば、電力不足で停電もありうる」というロジックが、実は数字のマジックだったことが。
(10)原発をチェックできない規制機関
こんなマジックともいえる数字の操作を見破り、安全性について厳格なチェックをする機関が、原子力安全・保安院の役割であるはずだ。しかし、すでにほとんどの人たちが知ってしまったように、この保安院は、安全性のチェックなど最初からする気がない。
保安院は、実は経済産業省の所管。そして経産省とは、原発推進の最先兵の役所なのだ。推進をする側とそれをチェックする側が、同じサイドにいる。どう考えたって、チェックなどできようはずがない。
保安院のトップ寺坂信昭院長は東大経済学部卒。記者会見に出ずっぱりの西山英彦審議官は東大法学部卒。ふたりとも、原発のメカニズムなどについては素人なのだ。しかも、なぜか西山氏は保安院の職員ですらない。経産省の官僚のままだ。最初から原発の安全性をチェックできるような体制にはなっていないのだ。
さらに、原子力安全委員会というのがある。この組織は内閣府に所属する原子力委員会から分離してできたもので、職務は原子力の研究開発等の事項のうち、特に安全性の確保に関して企画、審議、研究することと定められている。そしてその研究成果をもって、前述の原子力安全・保安院をさらにチェックするという多重的体制、なのだそうだ。しかし、ここの委員長が、今回の事故でまるで推進側だったことが暴露された班目春樹氏だった。
彼は、浜岡原発差し止め訴訟で、あろうことか中部電力側の証人として証言、「あれもこれもとすべてを考えていたら、原発なんて造れません」と開き直った人物だった。
班目氏は東大工学部機械工学科卒。この学部が多くの"原発学者"を生み出しているのだが、班目氏は大学院卒業後、東芝に入社、原発開発に携わったのち、東大教授となっている。そんな人物が、原発の安全性を保安院へ勧告する役目の安全委員会委員長を務めている。そして、国会の審議などでニヤニヤ笑いの答弁をする。
つまり、原発推進の大学を経て原発メーカーで原発に携わり、そこから東大教授になり、今度は原発チェック機関の委員長になった、という経歴なのだ。チェック機能など働くはずもない。
さらに、原子力委員会という、似たような名前の組織がある。これは内閣府に所属し、日本の原子力政策の基本を決めるところ。つまり、原発推進の元締めといっていい。
ここは歴代、政治家が委員長を務めてきた。初代委員長はあの「原発の父」正力松太郎氏である。むろん、読売新聞のドン、読売が今でも「原発推進」の旗を振り続けるのは、正力氏のDNAによるのだろう。
第7代委員長は、原発推進の権化だった中曽根康弘氏。
そして、やたらと菅首相の原発事故対応を批判しまくっている谷垣禎一自民党総裁も、実は第56代の委員長を務めている。
その後、原子力委員会の編成が変り、最近では"原発学者"が政治家に代わって委員長の座に就くようになった。現在は近藤駿介東大名誉教授。むろん、この人も超有名な原発推進派学者である。
さらにさらに、独立行政法人原子力研究開発機構なる組織がある。ここの理事長が鈴木篤之氏という人物。やはり東大工学部卒で東大教授、そして班目氏の前の安全委員会委員長を務めた人物だ。典型的な天下り。「原子力ムラ」というところは、実に居心地がいいらしい。
どんなに組織を作ったところで、これほどズブズブの推進派ばかりを並べておけば、反対派の意見など馬耳東風となることは自明の理だろう。安全対策よりも、経済性や利益が優先され、「原子力ムラ」の中で仲良くぬくぬくと利益を享受してきた歴史を、ここに見ることができる。
「短く書こうと思う」と最初に書いたけれど、やはり長くなってしまった。ひとつひとつの項目にあまりにデータが多すぎて、どうにも短くならない。すみません。
長すぎると、一気に読むのは面倒くさい。だから今回も、ここで終わりにしよう。すでに(14)まで書いてあるが、それは来週に回したい。
沖縄が…
原発以外でも、ひどいことはたくさん起きている。切なくなるほどだ。少しだけだが、触れておこう。
沖縄では、「普天間飛行場移設案」が迷走している。アメリカのレビン上院軍事委員長らが「普天間飛行場の嘉手納統合案」なるものを打ち出して、事実上の「辺野古案撤回」を米政府へ要望したのだ。むろん、騒音に悩む嘉手納基地周辺住民がこれを受け入れる余地は少ない。しかし、袋小路に陥っている仲井真沖縄県知事は「ひとつの案として検討に値する」というようなニュアンスらしい。
だが、日本政府はあくまで「日米合意」に固執。まるで硬直したまま何も考えようとしない。ひどい思考停止。
その合間を縫うように、沖縄本島最北部の過疎の村・国頭村の一部住民たちが「普天間移設候補地」として名乗りをあげた。裏側で蠢く利権屋たちの影が濃い。さらに、宮古島近くの下地島へ「米軍と自衛隊共同の災害対策基地」を造る計画が浮上。災害対策とはいいながら、結局は米軍の軍事基地化していくことは目に見えている。多分、中国は猛反発するだろう。こんな時期に、なんで国際紛争の種をまくのか…?
そこへ拍車をかけるように、今度は「垂直離着陸機の新型輸送ヘリ・オスプレイ」の普天間配備を、なんと(米軍ではなく)日本政府が沖縄県へ通告した。普天間飛行場の恒久化がささやかれる中でのオスプレイ配備。沖縄の激高が凄まじい。それにしても、人間の心を逆撫でする技術を、これほど身につけている政府も珍しい。
こんな情報もある。(朝日新聞5月27日付)
アメリカ政府監査院(GAO)は25日、「在沖縄海兵隊のグアム移転を柱とした在日米軍再編で、日米両政府が負担する建設費などの費用総額が291億ドル(約2兆4千億円)以上に達する」という報告書を出した。両政府が2006年にグアム移転費として合意した額の約3倍規模で、現行の再編計画への批判が強まりそうだ。
つまり、2006年に日米両政府が合意した額の約3倍規模。当然ながら、日本側の負担額は、06年合意の約5千億円から1兆数千億円規模に膨らむことになる。
まさに“火事場泥棒”ではないか。大震災で疲弊している日本がそんな負担に耐えられるわけはない。とすれば、移転は無理、普天間はそのまま、という筋書きか。許せない話だ。
さらに、「君が代」がのしかかる
さらに、嫌なニュースは続く。
橋下大阪府知事が率いる“大阪維新の会”が、「君が代」斉唱の際の起立を教員に義務づけるという、凄まじい条例を議会に提出した。橋下知事は提出にあたって、「いずれは不起立を繰り返す教員を懲戒免職処分にできるルール作り」にも言及している。まさに、思想の自由もへったくれもない。"維新の会"とやらが嫌う中国や北朝鮮並みの弾圧条例だ。
そして、まるでそれにお墨付きを与えるかのように、最高裁判所は5月30日、「公立学校の卒業式での君が代斉唱で起立しない教師への校長の職務命令は、思想・良心の自由を保障した憲法19条に違反しない」という判断を示して、教師側の訴えを退けた。
「法の番人」であるはずの最高裁が示した判断は重い。
大震災と放射能被害に窒息しかけている日本に、さらに息苦しさを加速させるような判決。
そして、政治はもうメチャクチャだ。谷垣自民党総裁は「重大な決意をしなければならない局面を迎えた」と述べて、どうやら間もなく「菅内閣不信任案」を提出するらしい。
だが、そこには「これまでの自民党政権が進めた原発政策への真摯な反省」もなければ、「原発事故収束へ向けての菅内閣とは違う道筋」もない。そして「これからの日本のエネルギー政策の方向」も示しておらず、「これ以降、原発をどうするのか」の具体的提案もない。ないない尽くしで、ただただ政権への妄執が見えるだけ。
「そんなことをやっている場合か! 震災復興をどうするんだ、放射能に苦しむ親子をどう救うんだ!」という声が、現在の国民のもっとも当たり前の、そして大多数の声だということに、目先の政局に目がくらんだ政治屋たちは気づかない。まったく呆れ果てる。
ほんとうに、この国は、どこへ行ってしまうのだろう。僕のモヤモヤはおさまらない。
あまり散歩に出かける気にもならない。でも、我が家の小さな庭にも5月の風は吹く。虫も来た。花も咲いた。いつもの5月の風ならば、ほんとうに爽やかなのだけれど、今年の5月は…。
庭にやってきた名も知らぬ虫
近所の小さな山に咲く武蔵野きすげの花
ベニバナトチノキの花も満開だけれど…
鈴木耕さんプロフィール
すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。
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