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2011-02-16up
時々お散歩日記(鈴木耕)
35「イエデン世論」と「ケータイ世論」
雪国の人たちには笑われそうな「関東に大雪」の大報道。たしかに、我が家の狭い庭も真っ白。その中に、猫の足跡が点々。でも、たった半日で消えていく美しさ…。
そして、寒波も一段落。となれば、やってくるのは花粉症。近所の公園にある杉の木が、もう真っ赤な花粉を振り撒く寸前。私も2,3年前からややムズムズ。何とかしのぎたいものだけれど。
同じ公園では「梅まつり」。いつも静かな公園が大賑わい。公園の中の「民家園」では、古いお雛さまを展示中。古典的なお顔が懐かしい。「雛まつり」も近い。春だ。
30年来の友人であるカメラマン田村仁(通称タムジン)さんの写真展『浅川マキ・灯ともし頃』が、東京新宿の紀伊国屋本店画廊で開かれた。昨年亡くなった浅川マキさんは、私の大好きな歌手だったし、タムジンさんの写真も大好きだ。そこで、覗いてきた。
背景に「全学ストライキ」とあるマキさんのスナップ。バリケード封鎖されたキャンパス内でのコンサートのスナップだ。時代が分かる。そんな時代に、タムジンさんも私もいたのだなあ…と。
翌日は、親戚の結婚式へ出席。横浜の海の見えるステキな教会での挙式と披露宴。うーん、今どきの結婚式ってこういうものなんだ、と感心することしきり。
身の回りの日常。いろんなことが、いろんな人との関わりで動いていく。こんな個人的日常と、新聞の記事やテレビニュースが伝える出来事との乖離に、いまさらながらたじろぐ。
普通の日常感覚と、マスメディアが伝える「世論調査」の結果との乖離もまた凄まじい。ネットの中の意見と世論調査結果とが、なぜこんなにも違うのか? 特に、小沢一郎氏をめぐっては、マスメディアの世論調査とネット社会の意見の差は、ほとんど同じ国の同じ国民だとは思えないほどかけ離れているようだ。
「世論調査」の方法に、問題はないのだろうか。ここで示される「世論」とは、ほんとうに世の中の動きを正しく反映しているのか?
たとえば、2月13日に東京新聞に載った「共同通信世論調査」では、その調査方法について、次のような注意書きがあった。
調査の方法=全国の有権者を対象に11、12両日、コンピューターで無作為に発生させた番号に電話をかけるRDD(ランダム・デジット・ダイヤリング)法で実施した。
実際に有権者がいる世帯にかかったのは1445件、うち1013人から回答を得た。
統計手法は学問的な裏付けがあるはずだから、1445件で1013人の回答という少なさでも、結果はそれなりの誤差の範囲に収まっているのだろう。しかし、そのこととは別に、大きな疑問がある。
「無作為に発生させた電話番号」とは、いわゆる家庭の固定電話(いまふうに言えばイエデン)だ。つまり、携帯電話は対象外なのだ。では、固定電話と携帯電話では、その普及率はどうなのか。
少し古いデータだが、2004年の社団法人電気通信事業者協会の調べでは、契約件数では固定電話が5150万件、携帯電話8152万件となっている。7年前の段階で、すでに携帯電話の普及率は固定電話の1.6倍だったのだ。当然、現在ではその差はもっと開いているだろう。
また、内閣府消費動向調査では、2010年3月現在で、携帯電話の普及率は2人以上世帯で92.4%、単身世帯を含めば96.3%となっている。すなわち、もはや圧倒的に携帯電話使用者のほうが多い状況なのだ。むろん、固定電話と携帯電話の両方を利用している人もいるが、携帯電話のみの使用者が増えていることは、この数字からも明らかだろう。
たとえば、みなさんの周囲の若い人たちに聞いてみてほしい。「あなたは携帯電話と固定電話の両方を契約していますか?」と。
私にはふたりの娘がいて、ともに独立して暮らしているけれど、ふたりともこれまで固定電話を設置したことはない。家を出てからずっと、電話は携帯だけだ。彼女たちに聞いてみても、周囲で「ひとり住まいでイエデンを持っている友人なんか見たこともない」と言う。
固定電話と携帯電話の両方を使用している人のデータは、残念ながら見つけられなかったけれど、そんな人はかなり少ないのではないだろうか。家族と同居している若者ならばいざ知らず、単身で住んでいる人たちが固定電話も設置しているとは考えにくい現状だ。
だとすれば、現行の「世論調査方法」は、果たして正しいといえるのか、という疑問が湧く。
無作為にピックアップした家庭に電話する、ということは固定電話に限られる。携帯電話のみを使用している人たちは、調査対象には最初から含まれないことになる。すなわち、相当数の若者(には限らないけれど)たちの意見はまるで反映されていないわけだ。
これが、果たして正しい「世論」を導き出している調査だ、といえるだろうか。マスメディアが発表する世論調査結果とネット上の意見の甚だしい乖離は、ここから生まれているのかもしれない。
だから私は、「世論調査」が発表されるたびに、いささか眉に唾をつける癖がついてしまったのだ。
各社の世論調査では、「消費税増税賛成」「小沢一郎辞任賛成」「沖縄米軍基地容認」が次第に増えている。これだけ繰り返し、「日本の国益のために必要」との報道が続けば、「あ、みんな、そう思っているんだ」と誘導されてしまう人も出てくるだろう。
国家財政破綻→社会保障の財源が必要→消費税アップ
政治とカネの問題→小沢氏の説明不足→小沢氏処分も仕方ない
沖縄米軍基地→アジア情勢不安定→日本の国益→抑止力→基地容認
マスメディアの報道は、こういう流れになっていないだろうか。「世論調査」という言葉が「世論操作」に聞こえて仕方ない。
しかし、それはあくまで「イエデン世論調査」の結果でしかない。電話で世論調査をするのなら、「イエデン世論」と「ケータイ世論」に分けて調査をするべき時代に来ているのではないか。
高江、辺野古、そして「抑止力は方便」
沖縄をめぐる動きは、どんどん悪化している。
沖縄でのプロ野球キャンプにマスメディアの目が奪われている間に、東村高江のヘリパッド建設を、沖縄防衛局が強行し始めた。強い住民たちの反対を無視、押しつぶす形での強行だ。民主主義を標榜する“民主”党政権の、これが政策だ。
さらに、高江がざわめいているのを利用するように、今度は辺野古の美しい砂浜に、醜悪な塀が建設され始めた。キャンプ・シュワブの基地付随建設工事だ。いままで鉄条網で区切られていた浜辺に、もはや内側を見通すこともできない奇怪な“壁”が造られ始めたのだ。
作家の目取真俊さんは、自身のブログ『海鳴りの島から』に、怒りの文章とともに、高江と辺野古の状況写真を掲載している。ぜひ見てほしい。
さらに、鳩山由紀夫前首相の発言が沖縄に波紋を広げている。2月13日の琉球新報は、次のように伝えた。
鳩山由紀夫前首相は12日までに琉球新報などとのインタビューに応じ、米軍普天間飛行場の移設交渉の全容を初めて語った。「県外移設」に具体的な見通しがなかったことを認めた。「県外」断念の理由とした在沖米海兵隊の「抑止力」については「辺野古しか残らなくなった時に理屈付けをしなければならず、『抑止力』という言葉を使った。方便といわれれば方便だった」と述べ、「県内」回帰ありきの「後付け」の説明だったことを明らかにした。在沖海兵隊の「抑止力」の根拠の薄弱さを浮き彫りにした前首相の歴史的証言は、県民の反発と波紋を広げそうだ。(略)
新基地の使用期限設定を事務方に指示したことにも言及した。だが事務方は米軍が期限を区切ることに強く難色を示していると説明し実現しなかった。「辺野古」回帰に向かう中、元首相補佐官の岡本行夫氏から何度も辺野古移設に向けた説明を受けたという。(略)
「学べば学ぶにつけ、海兵隊のみならず沖縄の米軍が連携して抑止力を維持していると分かった」と説明し、自らの「最低でも県外」を撤回してしまった鳩山前首相だったが、その実、「学んだのは米軍の意向」(岡本氏らからのレクチャー)だったということか。
一方、中央のマスメディアはどうか。2月15日になって、ようやく鳩山発言を伝えたが、沖縄メディアを引用するだけの後追い記事。ほかでは相変わらず「アメリカの動向報道」を繰り返すだけだ。たとえば、2月11日の朝日新聞。
菅政権が公明党に連携を断られたため、国会対策として社民党の抱きこみを図っている。そこで、普天間飛行場の辺野古移設反対を掲げる社民党に対し、移設関連予算を一時凍結することも考慮している、という趣旨の記事だが、「米、政権見限る」という見出しでこんなことを書いている。
「(県内移設の)日米合意を遵守していく立場は全く変わらない」。前原誠司外相は10日の記者会見でこう強調し、日米関係にヒビがはいることを懸念する外務省内の声を代弁した。
凍結するのは約18億円にすぎないので、大問題にはならないとの楽観論もある。だが、複数の政府関係者は「本当に凍結したら、米国は菅政権を見限る」と言い切る。(略)
これまでと同様、またしても「アメリカに見限られるゾ!」という論調だ。大新聞が、これほどまでにアメリカの意向を斟酌しなければならない理由はどこにあるのか。
アメリカにしがみついて自分の立場を守ろうとする政府関係者(外務や防衛官僚ら)が、そう言うのはよく分かる。しかし、それについて何の検証もせずにそのまま紙面化するという記事の書き方に、記者たちは疑問を感じないのだろうか。
たとえば、岡留安則さんが「マガジン9」のコラム「沖縄の深層」で書いておられるように、沖縄タイムスや琉球新報は独自の特派員をアメリカに送り、在沖米軍基地についての疑問を、アメリカ政府高官らへの取材で明らかにしている。中央マスメディアは、なぜかそのような突っ込んだ取材をしない。取材視線の向けどころが違うのだ。
沖縄では鳩山発言に対して大きな怒りが広がっていると、沖縄メディアは伝えている。ネット上でも、この発言をめぐってさまざまな意見が飛び交っている。だが、中央マスメディアは相変わらず「アメリカの意向」と絡めた報道を続けるだけだ。情報格差は開いていく。
マスメディアが次第に力を失っていく様子が、ここからも見えてくる。
鈴木耕さんプロフィール
すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。
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