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2010-12-01up
時々お散歩日記(鈴木耕)
26キナ臭い朝鮮半島を鎮火させるには…
散歩をしながら、下手な写真を撮り歩いています。これがけっこう面白い。いつの間にか、なんか変わったものはないかなあ、と辺りを見回しながら歩くのが癖になってしまいました。ヘンなおじさんだと不審者扱いされては困りますが。
あまりに落ち葉が美しいので、つい「落ち葉仮面」の写真を撮ってしまいました(撮影者はカミさんです)。むろん、「落ち葉仮面」の正体は、私であります。こういうイタズラも楽しい。(いよいよ「不審者」っぽい?)
大きなユリノキの落葉で、仮面を作ってみた
しかし、写真とは不思議なものです。たとえば、この写真。これは私の散歩コースになっている公園の中の四阿(あずまや)です。少しアングルを変えて撮れば、ご覧のようにまるで深山幽谷の趣きです。すぐ脇には大きな道路が走っていて車の騒音もしますが、写真に音は写りません。
つまり、写真は確かに事実を写しますが、それが真実かどうかは分かりません。撮った人間の作為と意志が、まったく別の世界を表現することだってあるわけです。
まるで深山の中のようだが、都会の公園です
今回の北朝鮮の砲撃事件にしたところで、見る目によっては、事態はまるで違って写るでしょう。もちろん、韓国は一方的に砲撃されたと主張しています。しかし北朝鮮側にしてみれば、自国の目と鼻の先、しかも自国の領海内だと主張している海域で、これみよがしの合同軍事訓練を行う米韓に対して反撃したのだ、というわけです。
北朝鮮の主張にも3分の理はあるでしょう。しかし、一般住民を巻き込んだ北朝鮮の砲撃を正しいとは絶対に言えません。一般人をも殺傷してしまったために、3分の理は崩れてしまいました。
南北対立の朝鮮半島情勢は、これからどう動くのでしょうか。イラクとアフガンの泥沼に足をすくわれているアメリカには、これ以上の軍事的リスクを冒す余裕などありません。そこを見越した北朝鮮の危険な外交戦術なのでしょう。
今年の3月26日、韓国軍の哨戒艦艇「天安」が、朝鮮半島西側の黄海上で沈没するという事件があり、46名の乗組員が死亡しました。ここは、韓国側がNLL(北方限界線)と主張する北朝鮮に極めて近い海域ですが、当然のことながら北朝鮮は自国領海内だと主張しています。今回の砲撃事件の現場となった延坪島はまさにこの海域で、北朝鮮本土から十数キロしか離れていません。南北の緊張度の最も高い海域なのです。
韓国側は、「天安」沈没は、北朝鮮の魚雷発射によるものだとして強硬に非難しましたが、逆に北朝鮮側は、この事件は米韓が仕組んだ陰謀である、と応酬しました。
この件に関しては、いまだに多くの謎が指摘されており、ほんとうに北朝鮮の攻撃だったかどうかは判然としません。合同演習していたアメリカ軍の原子力潜水艦の魚雷の誤発射ではないか、とか、古い機雷に触れたのではないか、などの説も流れました。
実際、韓国内でも疑問視する人は多く、北朝鮮の攻撃だったとは思わない人が4割近くもいた(朝日新聞)そうです。しかし、今回の砲撃により、その割合は激減しているとも聞きます。
この「天安」沈没事件への対抗措置として、韓国政府は宣伝用の大出力スピーカーを、休戦協定ライン沿いに北へ向けて設置し、大音量での放送で北朝鮮非難を始める予定でした。このスピーカーによる宣伝放送は、かつても行われていたのですが、2004年、南北和解の流れによって、双方合意の上で取り止めになっていたものです。それを、韓国は再開しようとしたのです。
これに対し北朝鮮は猛反発、もしスピーカー放送を行うならば、実力でこれを粉砕する、と宣言したのです。北朝鮮は、言ったことは実行する、というかなり恐ろしい軍事戦略を堅持した国です。本気でスピーカーへ向けて砲撃するのではないか、とアメリカは危惧しました。そうなればアメリカも否応なく南北紛争に関与せざるを得なくなります。イラク、アフガンで手一杯のアメリカが、ここで新たな紛争に巻き込まれるわけにはいかないのです。
そこで、設置を見合わせるよう、アメリカが韓国に強く迫りました。それによって設置は当面、先送りされたのですが、今回の延坪島砲撃事件での韓国世論の北朝鮮非難の高まりを受けて、韓国政府は再度、スピーカー設置を検討し始めたといいます。
そうなれば、北朝鮮側は宣言したとおり、スピーカー砲撃を敢行するかもしれません。
戦争は、何らかのきっかけで始まります。時の為政者の個人的感情や、末端の軍人たちの人為的ミスからだって起こりかねません。
中国が11月28日午後、朝鮮半島問題をめぐる「6カ国協議」の予備会議を開くよう、関係各国(韓国、北朝鮮、米国、中国、ロシア、日本)に呼びかけました。
しかし、韓国とアメリカは開催に慎重な態度です。日本政府は、ほとんど検討した気配もなく、あっさりと「米韓と足並みをそろえる」ことを決めたようです。韓国は自国世論に配慮しての慎重姿勢ですし、アメリカも米韓軍事演習中であり、すぐには会議の場には出にくい事情があります。しかし、日本は立場が違います。まず和平への道を探るべきです。
日本はなぜ、中国と共同提案をしてでも北朝鮮を国際社会の場へ引き出す努力をしないのでしょうか? それが、少なくとも南北対話への道を開き、緊張緩和の糸口にはなると思うのですが。
しかし、例の尖閣諸島問題で、日中の間は冷え切ったまま。とても中国と共同歩調をとれるような状況にはありません。
私たちは、じっと身をひそめるようにして事態の推移を見つめていくしかない。まさに、確固とした外交政策のない政府を持ってしまった国民の不幸です。そんな政府を選んでしまったのは国民自身ではないか、と言われればそれまでですが…。
沖縄知事選を各紙はどう報じたか
11月28日、沖縄知事選が行われました。結果はすでにみなさんご存知のように、仲井真弘多氏が伊波洋一氏を接戦の末破って、2期目の当選を決めました。
私は、伊波氏の当選を切望していただけに、この結果は残念でなりません。せめて当選した仲井真氏が、自身の公約である「普天間基地の県外移設」を撤回しないように祈るばかりです。
伊波氏は米軍基地問題を最大の争点にしようとしましたが、仲井真氏は選挙間近になって突然変節、「県外移設」を主張し始め、米軍基地問題の争点外しを図り、経済問題へと争点をずらしました。これが功を奏したようです。
沖縄各地にはまたも、伊波氏を誹謗し争点を経済問題に絞った(謀略的な)ポスターが、選挙戦の後半になって貼り出されました。規模は違うようですが、かつての大田県政を倒した「県政不況」なるキャンペーンと同じことが行われたのでしょうか。
また、伊波氏は日米安保にはっきりとノーの立場、仲井真氏は安保堅持で抑止力論を掲げました。そこへ、尖閣諸島問題や北朝鮮の砲撃事件などが勃発、米海兵隊抑止力論を掲げる仲井真氏にはそれも追い風になったようです。さらに、投票率が沖縄県知事選史上2番目の低さであったことなども影響したと、マスメディアは伝えています。
それらの分析のどれが正しいか、私には分かりません。そこで、各紙の11月29日付の見出しのみを、以下に掲げてみましょう。
(私は、毎日新聞、東京新聞、朝日新聞の3紙を購読しています。さすがにそれ以上の新聞を取る経済的余裕はありません。3紙以外の各紙の見出しは、ネットで検索したものであることをお断りしておきます)
<毎日新聞>
沖縄知事 仲井真氏再選 伊波氏破る
普天間「県内、事実上ない」
普天間、当面膠着 政府、成算なき期待
尖閣、北朝鮮情勢が影響 森本敏氏 拓殖大大学院教授
「普天間なし」提案の機会 孫崎享氏 元外務省国際情報局長
沖縄知事 仲井真氏再選 同盟深化 険しく
日米声明「普天間」切り離し論も
米軍駐留 日本全体のため 改めて「県外移設」
沖縄知事選「基地 全国で考えて」 仲井真氏 振興公約が奏功
「国は誠意もって説明を」有権者
本土への新たな告発 比屋根照夫琉球大名誉教授(日本政治思想史)
<東京新聞>
沖縄知事に仲井真氏
政府 辺野古わずかに望み
沖縄知事選 仲井真氏再選
「交渉の余地」政府安堵
普天間移設 県外主張、説得難しく
「辺野古」へ移設 県民68%が拒否 出口調査
仲井真氏当選 基地負担 見えぬ着地
県民「県外へ」約束守って
辺野古移設は難航◆低投票率に絶望感
<朝日新聞>
沖縄知事に仲井真氏再選
普天間移設 長期化へ 首相、沖縄訪問へ調整
県内移設の道 残っていない 那覇総局長 後藤啓文
沖縄 政府 溝深く
移設先・名護は拒絶、「県民理解得られぬ」
仲井真氏の「県外」撤回困難
日米期待「交渉は可能」 民主、悲観論も
「普天間最重視」29% 本社出口調査 民主層7割が伊波氏
試される「県外移設」
主張一転の仲井真氏 「普天間 日本全体で考えて」
「国との対話を」「とにかく景気」 投票率伸びず
伊波氏「手応えあったが…」
ウオッチ沖縄
本土との壁 直面 外交や安保 関与の必要
知事とは(大田昌秀氏、稲嶺恵一氏)県民の思いと板挟み 苦悩
問題解決へ国民理解を
<読売新聞>
沖縄知事に仲井真氏が再選…「県内移設はない」
仲井真知事
再選、米は日米合意前進を一層要求へ
仲井真氏再選で官房副長官「誠心誠意話し合う」
宜野湾市長選、共・社推薦の安里氏が初当選
<産経新聞>
沖縄知事選、仲井真氏再選
県外移設に固執すれば日米同盟にも影響
<日本経済新聞>
沖縄知事に仲井真氏が再選 普天間移設先「沖縄にない」
仲井真氏再選、政府と沖縄の溝深く
基地固定化続く恐れも
<琉球新報>
沖縄県知事選 仲井真氏が再選
県知事選 投票率60.88% 過去2番目の低さ
県知事選 普天間移設 県内「事実上ない」
仲井真氏が再選 伊波氏に3万8626票差
「県外移設」公約の実現を 問われる対政府交渉力
<沖縄タイムス>
仲井真氏 知事再選 伊波氏に3万8626票差
保守県政4期継続 投票率60.88%
県内移設先なくなった 仲井真弘多氏
争点ぼやけた 伊波洋一氏
基地負担軽減 話し合いたい 福山官房副長官
「政府の説明を」名護 容認派 「県外移設守って」反対派
いかがでしょうか? 各紙の主張が見え隠れしています。いずれにしろ、仲井真知事は「県外移設」を掲げて当選したわけです。これを、民主党政府は翻意させようとしています。仲井真知事が変節しないよう、心から願うばかりです。
我が家の門扉の上の小さな「シーサー」が、なんだか寂しそうです。
なんだか寂しそうな我が家の玄関先のシーサー。数年前の沖縄みやげ
鈴木耕さんプロフィール
すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。
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