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2010-11-10up
時々お散歩日記(鈴木耕)
24荒波の中で
里山の上の雲、岩木平のほうまで行くのかなあ。
秋空には、ふんわりと白い雲が浮かび、のどかな風も吹いています。今日(9日)はまさに小春日和です。
静かな青空とは裏腹に、もの凄い荒波がこの国に押し寄せているようです。それなのに、荒波への防波堤がほとんど崩壊状態です。スーパー堤防などという超無駄なものを造る暇と金と労力があるのなら、政治の防波堤をもっとしっかり構築してほしいものですが…。
まず、尖閣諸島をめぐる中国とのさまざまな軋轢が第一波でした。その問題に関しての日本政府首脳(特に前原誠司外相ら)の度重なる強硬発言に怒った中国によって、首脳会談を拒否されたのは菅直人首相。むろん、中国国内の不満を抑えるために、対日強硬策を採らざるを得ない中国政府の思惑も重なってのことでした。
APEC(アジア太平洋経済協力会議)の首脳会議は、11月13、14日に横浜で開かれますが、通常ならもう日程が確定しているはずの日中首脳会談は、いまだに(9日現在)セットされていません。ASEAN(東南アジア諸国連合)+3の会議の際のハノイでの「立ち話懇談」(10月30日)のようなものになるのではないか、との観測さえ流れています。
日中双方では相手国への批判・非難が高まり、両国内で非難合戦の様相です。中国での反日デモに呼応するように、日本でも何度か渋谷や秋葉原などで反中デモが行われましたが、11月6日には5千人(主催者発表)の反中国デモが銀座を練り歩きました。両国内でのナショナリズムの高揚、危なっかしい感じがするのです。
日中の反目の間隙を突くように、今度はメドベージェフ・ロシア大統領の国後島への突然の訪問。領土問題での衝突は、とても一筋縄ではいきません。中国との交渉の日本の拙劣さを見透かしたロシアに、してやられた結果でしょう。
日本政府は「尖閣諸島は日本が“実効支配”しているから、日本の領土だ」と繰り返しますが、では「北方領土はロシアが“実効支配”しているではないか」と返されたら、どう反論するのでしょう。領土問題が一筋縄ではいかない、と述べた理由です。
現実が歴史を乗り越えてしまうケースは多いのです。だからこそ、歴史的経緯や歴史的文書などをきちんと提示して、お互いが話し合うしか解決策はありません。
そのために、さまざまな国際機関を積極的に利用して自国の主張を訴えるのも外交術でしょう。しかし、その外交交渉の仕方が、どうにも日本はうまくない。
そこで「戦争も辞さず」などと吠え立てるタカ派の方々が出てきます。 『サンデー毎日』(11月21日号、9日発売)が、「タカ派言論人に問う 正気か?中国との戦争」という記事を掲載していますが、同感です。「正気ですか?」と私も問いたい。
さらに、火に油を注ぐように持ち上がったのが、海上保安庁撮影の尖閣問題映像の「ユーチューブ」への流出。ビデオ公開をめぐって政府と野党がコップの中の争いを繰り広げているのを嘲笑うかのような流出でした。ネット社会の威力まざまざです。ただただ慌てふためく政府首脳と既成メディアの醜態。
追い撃ちをかけたのが、小沢一郎元民主党代表の「ニコニコ動画」での、「国会招致には応ぜず」発言。もはや、新聞テレビなど既成メディアを相手にせずという、これこそまさに、ネット社会時代の政治手法です。「旧い政治家」の代表のように言われる小沢氏が、いち早くネットを使いこなして、批判を繰り返す既成メディアに一撃を食らわせたのです。「旧い」のは、いったいどちらでしょう。
小沢氏は「金と数に頼る」という意味では、確かに旧い体質の政治家かもしれませんが、新しいツールを使いこなす手法は、既成の政治家の遥かに先を行っているような気がします。
テレビも新聞も、ユーチューブやニコニコ動画の後追いをするばかりです。自らの手では、何も新しい事実の発掘ができません。報道の主力が、新聞テレビ週刊誌といった既成メディアから、ネットへと移り始めたことの象徴的出来事なのかもしれません。
そして、落胆させられたのは、馬淵澄夫国交相による「八ッ場ダム見直しの白紙撤回」発言です。「マニフェストなんか知ったこっちゃない」ということなのでしょうか。これでは「公約のひとつやふたつ、守れなくたって大したことじゃない」と開き直った小泉純一郎元首相の批判なんかできっこない。
これでは、いくら仕分け作業によるパフォーマンスで人気回復を図ろうとしても、とうてい無理です。あの蓮舫“仕分けの女王”大臣も、影が薄くなってしまいました 。
ビルマ(ミャンマーではありません)では、APF通信の山路徹さんが、軍政府当局によって拉致拘束されました。3年前(2007年)に、ビルマ民主化デモの取材中に、軍によって射殺された長井健司カメラマンの遺志をついで、ビルマ軍政の欺瞞的な選挙(11月7日)を報道しようと、決死の覚悟でのビルマ潜入だったようです。
あのアメリカですら、今回のビルマ軍政府による「民主選挙」は「非民主的」だとして激しく非難しました。民主化運動の指導者・アウンサンスーチーさんを自宅軟禁した上での選挙ですから、その欺瞞性は明らかです。ところが日本政府は、この選挙への厳しい非難声明は出していません。なぜか。裏には、日本のODA(政府開発援助)の膨大なビルマへの供与があるのです。
長井健司さんが射殺された2007年には約8億円、長井さん射殺に抗議して減らすのかと思われたけれど、翌08年には約11億円、09年約14億円と、日本は“ミャンマー軍事政権”へのODAを、むしろ増やし続けてきたのです。今年10年も3億円です。これはすべて外務省管轄のODA資金だけですが、他にも援助金(?)があるのは事実ですから、総計はもっと膨大な額になるでしょう。
国際社会から非難を浴びている“ミャンマー軍事独裁強圧政権”に、なぜこれだけの援助を続けるのか。当然のことながら、その裏にさまざまな利権の噂が飛び交っています。
私はかつて、山路さんの本を作ろうと、何度か山路さんとお会いしました。東京赤坂の、彼が主宰するAPF通信社にもお邪魔しました。忙しさのために、山路さんの本は実現しませんでしたが、活気に溢れた通信社のざわめきと、山路さんがスタッフに指示を出している大きな声は、まだ私の記憶にあります。
その山路さんが、9日夕刻に解放されたとのニュースが入ってきました。なにはともあれ、山路さんの無事を喜びたいと思います。
「ぶるるるるーっ」と
「ゴーッ! バリバリバリーッ!」
なんだか激流に幻惑されて、話が重苦しくなってしまいました。少しは散歩の話もします。
蕎麦畑に吹く風
1週間ほど前の秋晴れの日、東京町田市の薬師池公園というところへ行ってきました。公園自体より、その周辺の里山がとても素敵なところです。ダリヤ園などもあり、散歩には最適です。
藁焼きの煙り
山道から見下ろしたら、藁焼きの青い煙が見えました。のどかです。蕎麦畑もありました。これが美味しい新蕎麦になるのです。少しおなかが鳴りました。
ダリヤ園に入ったら、きれいな可愛い花が目に止まりました。「太陽の子」という名称札。ああ、そういえば、と思い出しました。
ダリヤ園の楽しい花
私の好きだった児童文学者の灰谷健次郎さんに『太陽の子(てだのふぁ)』(角川文庫)というタイトルのベストセラーがありました。これは、「てだのふぁ」という大衆食堂を営む両親と、ふうちゃんという子どもの物語ですが、悲惨な沖縄戦が背景になっています。それまでにはなかった社会性を持った児童文学として、大きな議論を巻き起こした小説でもありました(これは、最初は新潮社から刊行されたのですが、ある事件をめぐって灰谷さんと新潮社が対立。灰谷さんはすべての著作を新潮社から引きあげる、という経緯をたどったのですが、それはまた別の話です)。
てだのふぁ、とは沖縄語で「太陽の子」という意味です。なるほど、このダリヤは「太陽の子」のような楽しさを見せてくれます。沖縄へ心が飛びました。
プロペラ機が飛ぶ小さな飛行場
民主党の岡田幹事長は、沖縄知事選をめぐって、同党の川内衆院議員に厳重に警告したそうです。東京新聞(11月9日付)によれば、こうです。
民主党の岡田克也幹事長は八日、沖縄知事選に出馬する伊波洋一前宜野湾市長が七日に那覇市で開いた集会に出席した川内博史衆院議員(鹿児島一区)と国会内で会い「党方針に違反した。今後の活動は十分によく考えてもらいたい」と伝えた。
民主党は知事選について、独自候補擁立を断念し、自主投票とする方針を決定。これに伴い、沖縄県連所属議員以外が特定の候補を応援するために沖縄入りすることを禁止している。岡田氏は記者会見で「今回は警告を発した」と述べた。
こんなデタラメな話もない。
だって、普天間飛行場の県外移設は民主党の公約だったはずです。伊波氏は「米海兵隊グアム移転論」で、それを主張し続けています。対する仲井真弘多現知事は選挙間近になって、とってつけたように「県内移設は難しい」とは言い始めましたが、「県内移設絶対反対」までは、なぜか踏み込みません。
民主党首脳はそこに期待しているのです。もし伊波氏が勝てば、辺野古移転はほぼ絶望。しかし仲井真氏ならば交渉の余地が残る。アメリカの顔色を伺う外相や防衛相、それに仙谷官房長官、菅首相にとっては、それが最後の頼みの綱。もし伊波氏が勝ったら、日米合意は吹っ飛んでしまいます。アメリカに叱りつけられるのが怖いのです。
仲井真氏はこれまで、自民公明の推薦を受けて選挙に臨んできました。いかに民主党首脳が恥知らずであっても、さすがに表立ってこの仲井真氏を推すことはできません。沖縄県民に申し開きができないからです。だから水面下で仲井真陣営と裏取引して、当選の暁には辺野古移設に舵を切るよう、県内移設を受け入れるよう画策するつもりなのです。
しかし、民主党所属の沖縄の国会議員や地方議員は、ほとんどが伊波氏支持に回ると見られています。いくらなんでも、県民の意志を裏切ることはできない…。
こうなると、例によって政治家の二枚舌です。所属議員に対しては「特定の候補応援は許さない」としながら「沖縄県連所属議員は例外とする」と言うのですから。つまり、同じ党所属でありながら、沖縄とそれ以外の議員の扱いは別にしてしまった。
「沖縄差別」の一例と言われても反論できないでしょう。
なんだか、書いていて腹が立ってきました。どうしてこう、無責任な政策や発言を繰り返すことができるのでしょうか。国内問題ですらこれですから、外交交渉でも同じことなのでしょうね。
少し前に、近所の飛行場で撮った写真があります。プロペラ機です。ここはプロペラ機専用の飛行場ですから、「ぶるるるるるーっ」と、なかなか可愛い音を立てて飛行機は発着します。
2週前にこのコラムで書きましたが、普天間飛行場は嘉手納基地の滑走路改修工事に伴うジェット戦闘機の一時移転で、猛烈な爆音に襲われているとのことです。その爆音を「激痛音」というのだと、私は初めて知りました。確かに「ゴゴゴゴオーッ! バリバリバリバリッーッ!」と耳をつんざくあの巨大な騒音には、その言葉がぴったりです。
「ぶるるるるるーっ」と「ゴーッ! バリバリバリバリッーッ!」
それが、平和と戦争との音の差なのかもしれません。
鈴木耕さんプロフィール
すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。
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