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2010-10-27up
時々お散歩日記(鈴木耕)
22「仁義なき戦い」と 「激痛音」
おなかいっぱいのメスのジョロウグモ
きちんと秋がやって来ました。ということは、もうじき冬です。
動物や昆虫たちも、来るべき冬に備えて懸命に準備をしているようです。散歩コースの公園の木陰には、大きなジョロウグモが餌になった小さな虫をむさぼっていたりします。餌がなくなる冬への備えでしょう。よく見るとなかなかの迫力です。
我が家の庭に住みついている半ノラ猫のドットくん、多少夏バテ気味だったのですが、このところかなり食欲旺盛です。1日2度の食事では足りないらしく、頻繁に餌をねだるようになりました。これも冬に備えての食い溜めでしょうか。
猫小屋の前で考え込んでいるような先住半ノラ猫のドット
ところがここで問題が発生。
2ヵ月ほど前から我が家の庭に現れたノラ仔猫(とりあえず、ナーゴという名前をつけた。沖縄の名護にあやかってカミさんが命名)が、やたらと先住民のドットにまとわり付くのです。ところが、ずうっと孤高の生活を送ってきたドットには、これがとても迷惑。ナーゴが近づくと威嚇したり、ふいっと消えてしまったりします。ナーゴは仔猫なのだから、きっと遊んでもらいたいだけなのでしょうが、どうもうまくいきません。あげくに、ナーゴはドットの棲家を奪ってしまうのです。
半ノラ猫のナーゴ。かわいいんだけどねえ。
棲家というのは、実は犬小屋です。最初はドットを家の中で飼おうとしたのですが、根っからのノラ根性。どうしても家に入りたがりません。捕まえて家に入れると、外へ出してくれるまで大騒ぎする始末。仕方なく、ホームセンターへ出かけて小さな犬小屋を買ってきて、それがドットの棲家になっているわけです。その小屋をナーゴが占領。ドットはめんどくさいのか、小屋に入らずどこかへ行ってしまい、餌の時間だけ現れます。まったく『仁義なき戦い』です。
ま、近所には農家の小屋なんかもあり、ドットはそこの藁の上で寝ているらしいので、凍えることはないでしょうが、なんとかこの2匹を仲良くさせる方法はないものか…と。
ドットにしきりにちょっかいを出すナーゴ。
同じノラ猫同士でも気が合わないとうまくいかないのだから、人間ではもっと面倒臭いことになります。それが国家対国家ということになると、さらに複雑になってしまいます。
中国と日本の関係が、いまやそういう状況にあるようです。
しかも、日本の外交の責任者である前原誠司外務大臣が、やたらと危なっかしい発言を繰り返します。朝日新聞(10月23日付)には、こんな記事が載っていました。
<見出し>
前原発言 中国イライラ
政権内の「役割分担」か 強硬路線、党内に批判も
関係修復進まぬ一因に 中国側、根強い不信感
記事では、「国会議員は体を張って(尖閣諸島を)実効支配していく腹づもりを持ってもらいたい」とか「中国のとってきた措置は極めてヒステリックなものではないか」などという前原外相の発言や、それに対する中国側の胡正躍外務次官補の「毎日、中国を攻撃する発言をしている」との前原氏への批判などを紹介。対中国強硬派の前原氏が、一国の外相としては異例の発言を繰り返すことに、中国側は強い不信感を表明している、と書いています。
国家を代表する外交責任者が、極めて強い調子で相手国を非難することは、よほどの場合に限られるはずです。そして、もしそれが必要であったとしても、最低限の外交上の礼儀は尽くすべきでしょう。仮にも「ヒステリック」などという侮辱的な言葉は使うべきではない。
たとえ相手国が、儀礼的には道に外れた態度に出たとしても、こちらがそれと同じ対応をとるならば、結局はお互い様、どっちもどっちの喧嘩騒ぎとしか、国際社会は見てくれない。ネコたちの『仁義なき戦い』を笑えません。
記事には、こうもあります。
(前略)外務省幹部からも「前原さんは日本が言うべきことを言っているだけだ」と擁護する声があがる。領有権など歩み寄れない見解の相違を両国が認めつつ、それでも「戦略的互恵関係」の旗を振り続けるのが日中外交ではないか――と解説する。
だが、日中外相会談、首脳会談を成功させる道筋での「奔放」な発言には、民主党内にも苦々しく見る向きもある。落としどころも見極めず、「べき論」を打ち上げる軽はずみなパフォーマンスと映っているようだ。
ある民主党の中堅議員は「中国を怒らせるだけが外交か」と吐き捨てた。前原氏はいつも拳を振り上げるばかりで、その先の展開を考えていない、と憤る。
菅首相の周辺からも「危なっかしい。前原さんの暴走には菅さんも困っている」との声が漏れる。
菅首相が本気で困っているのなら、前原外務大臣を更迭するのが筋なのでしょうが、いまや菅内閣第一の実力者になった感のある仙谷官房長官が前原外相の後ろ盾です。菅首相がその実力者をさしおいて、前原外相を更迭などできるわけもありません。つまり、「中国のイライラ」は、当分解消されそうもないということです。
尖閣諸島問題で火がついた反日デモは地方へ波及し、この先どういう経緯をたどるのか不明です。しかし中国政府にしたところで、対日関係をこれ以上悪化させたくないはずです。必死になって反日デモを抑えにかかっている状況を見れば、それは明らかでしょう。日本政府もそれに対応して、たとえ批判するにしても言葉を選ぶべきです。
もう少し、同記事を引用します。
中国では、前原氏の一連の発言はメディアで大きく取り上げられてきた。時事情報紙の環球時報は前原氏の「ヒステリック」発言を1面で伝え、「これが中国が20年前に『発展の模範』とした日本なのか。どうして過激で偏った国のようになったのか」。市民に人気のある日刊紙、中国青年報も「日本の外相はいったい何をしたいのか」とやはり1面で訴えた。(中略)
各地の反日デモは、当局の予想をはるかに超える規模となった。
こうした中での前原氏の発言は、中国外交当局に対し「日本が悪いから関係改善がうまくいかないと主張する絶好の口実を与えた」(北京の外交筋)との指摘がある。胡正躍外務次官補は21日、前原氏を批判しつつ「両国関係はあまりに重要だ。これを傷つけ、弱め、破壊することには耐えられない」と切々と訴えた。(中略)
中国政府高官が公の場で日本政府高官を名指しで批判することはめったにない。胡次官補の発言には、問題を悪化させているのは前原氏個人と位置づけることで、日中関係全体への影響を抑える狙いがある可能性もある。「中国当局はこれを機に、一気に前原氏外しを進める」(日中関係筋)との見方も出ている。
たった一言が、火に油を注ぐ結果になることだってあるのです。日常生活でも時折あることです。不用意な一言が、モーレツな喧嘩に発展してしまった、などという苦い経験をお持ちの方もおられるでしょう。
もちろん、自らの思想信条を大事にすること、その思想信条の中身がどうであるかは別として、それを政治に生かしていこうとするのは、政治家としては当然でしょう。しかし、個人の心情をそのまま極端な形で表現し、国家間の対立を煽り、抜き差しならない悪化状況へ国家や国民を引きずり込んでしまうことになるなら、それは政治家失格です。
自分の思想信条を実現していくために、どう表現しいかに行動していくか、それを考えるのがほんとうの政治家ではないでしょうか。
もうひとつ、どうしても書いておかなければならないことがあります。沖縄の普天間飛行場がひどいことになっています。
普天間に近い米空軍嘉手納基地には2本の滑走路があり、そのうちの1本で改修工事が始まりました。そのため、嘉手納所属の米空軍戦闘機F15やF16など12機が普天間飛行場へ飛来しました。少し古いですが10月14日の琉球新報によれば、こうです。
(前略)9月21日の目的地変更による基地使用の発表の後、普天間飛行場で米海兵隊岩国基地のFA18戦闘攻撃機の飛来や、嘉手納基地のF15戦闘機による低高度侵入訓練の実施など、異常事態が続いている。
5日には滑走路に隣接する宜野湾市上大謝名地区で、過去5年間で最大の123.6デシベルを記録した。120デシベルは、ジェットエンジンのすぐ近くの音と同等で、最大可聴値で激痛音とも呼ばれる130デシベルに迫った。(後略)
「激痛音」…。私はこんな言葉は知りませんでした。まさに音の暴力。その激痛音が空から降ってくる。飛行区域のほぼ真下にある宜野湾小学校では、轟音のたびに授業が停止。遮音窓が設置されていても、その窓さえビリビリと震えて遮音にならないそうです。
脅える赤ちゃん、子どものヒキツケも多発しているといいます。いや、子どもに限らず、大人だって病状の悪化に苦しんでいます。
米軍報道部によると、滑走路改修工事の工期は約18ヵ月。つまり、1年半以上にわたってこの状況が続くわけです。
日本政府の言う「日米合意の見返りとしての沖縄の負担軽減」という口約束はどこへいったのか。この程度のことさえ抑えることができずに、いったいどんな「負担軽減」が行えるというのか。
沖縄担当大臣は馬淵澄夫氏です。前任者は前原誠司氏でした。ふたり一緒に、現在の普天間飛行場へ行ってみればいい。「視察」などとカッコつけなくてもいい。宜野湾小学校の教室に座って、ジェット戦闘機の「激痛音」を1時間でいいから体験してくればいい。
しかし、そんなことはするはずもない。
政府の本音は、「辺野古移転を拒否し続ければこの普天間の状況は変わらない。普天間の負担軽減のためにも、さっさと辺野古移転に賛成しなさい」という脅しなのだ、と沖縄では言われているそうです。
あながち、うがちすぎの憶測ではないでしょう。そうでないと言うのなら、日本政府は米軍に、「普天間へのジェット機の移動をやめるように」と抗議すべきだし、“最低でも”交渉を呼びかけるべきでしょう。
しかし、その気配さえありません。
民主党政権への落胆は、日増しに強まるばかりです。
懸命に蜜を集めて冬にそなえるミツバチ。
鈴木耕さんプロフィール
すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。
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