マガジン9

憲法と社会問題を考えるオピニオンウェブマガジン。

「マガジン9」トップページへ時々お散歩日記:バックナンバーへ

2010-10-20up

時々お散歩日記(鈴木耕)

21

少数意見の大切さ

 ふらふら街を歩いていると、時折、面白いものや、おやっ? と立ち止まってしまうようなものを見かけます。
 近所の小道に、巨大な花を発見しました。なにしろ直径が50センチほどもある黄色の花です。家に帰ってから『牧野日本植物図鑑』などで調べましたが、どうもよく分からない。大きさや派手さからいって、日本の種ではないでしょうね。知っている方がいたら、ぜひ教えて下さい(ペコリッ!)。

 某大学のそばの道端で、妙な看板を見つけました。「とひたし注意」だそうです(爆笑)。これを作った人、濁音があることを知らないのかなあ。それにしても、看板を設置するときに、係りの人たちが誰も気づかなかったというのも不思議ですねえ。

 この大学のそばには、プロペラ機専用の飛行場があります。我が愛しの携帯電話写真機が、なんとか飛行機を捉えました。携帯では奇跡的な撮影成功といえます。

 飛行場の少し北側には、小さな川が流れています。小川の両脇には遊歩道も整備されていて、いつも散歩人で賑わっています。ノンビリした空間です。川にかかる橋の上、大きな鳥たちが群れていました。よく見るとカモメです。海から遠く離れたこんなところまで遠征して来るのですねえ。散歩途中でポリポリやっていた煎餅を細かく割って投げてみると、カモメたちは見事に空中でキャッチ。かなり馴れています。誰かが餌付けしているのかな?
 これも携帯電話写真で、またも奇跡的に撮影成功。飛行機とカモメ、こんなに動いているものが撮れたなんて、今日が初めてです。「携帯電話写真家」として売り出そうかなあ。うん、新しいジャンル(と自画自賛)。

 川筋の公園の人目につかない暗い隅から、けたたましい鳥の鳴き声が聞こえます。カラスです。妙な小屋の中で、カラスたちが騒いでいます。これは、カラス捕獲小屋でした。小屋の中に脂身の肉がぶら下げられており、カラスはその匂いに誘われて小屋に入ります。すると、入り口にぶら下げられた針金に邪魔されて、もうカラスは外に出られない、という仕掛けになっていました。
 カアカアと悲しげに叫ぶカラスたちと、小屋の屋根に止まって辛そうにそれを見ている親ガラス(?)。害鳥として嫌われているとはいえ、なんだか切ない光景ではあります…。

 おやっ?という光景は、散歩途中でなんとなく目に入ってくるものですが、新聞を読んでいると、やはり時折、おやっ?という記事に巡りあうこともあります。
 最近はあまり「おやっ、ちょっと珍しいことを書いているな」と感心する評論が少ないのですが、毎日新聞(10月14日付)の金子秀敏編集委員の木曜コラム「木語 moku-go」は、「どこが外交敗北だ」というタイトルの、なかなか面白い評論でした。
 以下、ちょっと長いですが引用します。

 尖閣諸島沖で中国漁船が日本の巡視艇に衝突した事件処理は「戦後最大の外交敗北」だ――。自民党の小野寺五典氏が9月30日の衆院予算委で追及した。副外相の経歴があるから素人ではない。
 中国の圧力で中国人船長を釈放したことが外交敗北らしい。世論調査でも「検察が中国人船長を釈放した判断は適切だったか」の質問に「適切でなかった」が74%だ(毎日新聞10月4日)。日本中が冷静さを欠いている。
 もしも小野寺氏が外相なら、船長を起訴して裁判にかけたのか。それで「外交勝利」したのか。中国は必ず対抗措置をとる。現に、事件直後から現場付近に漁業監視船2隻を出動させ、巡視船と対峙させた。長引けば、東シナ海で操業する日本漁船はこわくて漁に出られなくなる。武力衝突の可能性もあった。
 だが、船長が釈放されると、あうんの呼吸で菅直人首相と温家宝首相の廊下懇談が実現し、あうんの呼吸で、漁業監視船が現場を離れ、東シナ海の緊張は緩和した。日本が島の実効支配を失ったわけではない。危機回避の外交がなんとか機能したではないか。このどこが「戦後最大の外交敗北」で「不適切」なのか。(中略)
 問われるのは、いい結果が出たかどうかである。

 つまり、振り上げた拳の下ろしどころを探ること、それも外交術ではないか、と金子記者は書いているわけです。 さらに、こう続きます。

 それでは、外国の圧力を受け入れたことが敗北なのか。(中略)船長釈放を求めたのは中国だけではない。米国もクリントン国務長官が日米外相会議で「事件の即時解決」を求めた。前原誠司外相は「まもなく解決」と答え、その翌日、地検が船長釈放を発表した。
 国務長官の圧力はまだある。米国産牛肉の輸入規制の緩和を求めた。前原外相は農水相に事前の協議なく「検討する」と答えた。日本の独自資源であるイランのアザデガン油田から撤退せよという要求も外相はのんだ。日本が撤退すれば権利は中国に渡るだけなのに押し返せなかった。こっちの方が敗北ではないのか。

 マスコミが煽り、対中強硬論が燃え上がっているこの時期に、その論調に逆らって、自分が所属する新聞紙上にこのように書くのは、なかなか勇気の要ることでしょう。反発も強いと思います。
 そう思っていたら、さっそく同じ紙上に、金子記者の意見を真っ向から否定するような評論が掲載されました。10月17日付けの毎日新聞のコラム「反射鏡」です。森嶋幹夫論説委員が書いたものです。

 (前略)戦略的互恵関係の原点に戻ることを確認したブリュッセルでの菅首相と中国の温家宝首相の非公式会談が、険悪化した関係を好転へ向かわせるきっかけとなったのは確かだ。(中略)
 この潮目の変化を導いたのは「静かな外交」だ、と自賛する声が政府内にあるという。(中略)
 だが、これをもって「静かな外交」の成果を強調するのはおこがましい。中国側の理不尽さは言うに及ばないが、日本側にも対中外交への構えの甘さがあったことは否めない。皮肉な見方をすれば、中国の横暴ぶりを国際社会に印象づけたことがせめてもの得点と言えるかもしれない。(後略)

 確かに、中国側の今回の出方はかなり理不尽であった、といえると思います。では日本はどうすればよかったのか。振り上げた拳の下ろしどころを、日中双方がお互いにタイミングを見計らって探るしか、解決方法はなかったはずです。
 森嶋氏は、その外交手段にはまったく触れていません。日本はどうすればよかったのか? それが書かれていないのです。「おこがましい」と言うのであれば、「おこがましくない解決方法」を書かなければいけない。それがジャーナリストの役目であるはずです。森嶋氏に限らず、この問題に関してのマスコミの報道や評論には、その点が欠けていたのではないでしょうか。
 さまざまな国が存在している以上、さまざまな軋轢が生まれます。これからだって、同じような事態は起きるでしょう。「日本も核武装を考えろ」とか言うどこかの知事さんなどは論外ですが、落とし所を考えるのが外交でしょう。
 いかに相手が理不尽とはいえ、武力衝突は“絶対に”避けなければいけません。「戦争も視野に入れて毅然とした態度で立ち向かえ」というような意見には、私は“絶対に”賛成できません。

 マスコミの論調が一色になってしまったときがいちばん怖い。歴史が何度もそれを教えています。
 金子記者のような少数意見がもっともっとマスコミで語られるようにならなければ、その怖さは現実のものとなってしまいます。

googleサイト内検索
カスタム検索
鈴木耕さんプロフィール

すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

「時々お散歩日記」最新10title

バックナンバー一覧へ→