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2010-10-06up
時々お散歩日記(鈴木耕)
19我が身を振り返れば…
秋の花々が、さまざまな色と匂いで私たちを楽しませてくれています。あんなに暑かった今年の夏も、さすがに季節の移ろいには勝てなかったようです。でもまだ、例年より気温はかなり高めみたいですが。
秋は実りの季節でもあります。よく見てみると、たくさんの実がたわわに実っているのです。
先週は花々の写真をいっぱい掲載しましたので、今回は、近所を散歩しながら目についた草木の実を紹介しましょう。気をつけて目を大きく見開いていると、ほんとうにいろんな実が野鳥たちの食欲を誘っているようですよ。
へえ、こんな木にはこんな実が生るのか、とちょっと不思議な発見を楽しんだりもしたのです。相変わらずの下手な携帯電話写真ですが、それなりに味があるでしょ?(と自画自賛)
自然が提供してくれる恵みを、ありがたくいただく。木の実に群がる野鳥を見ていると、なんとも心が和みます。
けれど、人間の世界ではそうはいかない。新聞や週刊誌、テレビに接していると、とにかく熱く大きく喚いていないと商売にならない方たちが多すぎるみたいです。
週刊誌の新聞広告も、凄まじいほどの喚き方です。たとえば「週刊現代」の広告の見出し。(10月4日、各紙掲載分)
怒りのぶち抜き大特集 なんと33ページ
だから中国になめられる>
その上で、さまざまな記事の見出しが躍っています。たとえば、こんな大騒ぎです。
ドキュメント官邸、歴史的敗北 また逃げた菅と仙谷
君たちはそれでも男か ああ民主党政権、逃げ回る弱虫総理とオバカな大臣たち
いやな感じ 中国人観光客 怒鳴る、値切る、ゴネる
やばくない? 日本の財産が中国に全部取られる
石破茂「次は沖縄、そして対馬へ」
腐れ検察、何を偉そうに 君たちは廊下で正座してなさい…
まだほかにもたくさんの記事があるようです。なにしろ、33ページ大特集なのですから。同日発売の「週刊ポスト」の新聞広告にも、まあ似たりよったりの見出しが並んでいました。
先週も書いたように、こういうときこそ冷静に決着の道筋を探るべきだと思うのですが、それは甘い考えなのでしょうか?
国際社会への情報提供を第一に考えて、国際司法裁判所や国連諸機関の活用による解決策を見い出す、というのが先週の私の提案だったのですが、もちろん、それが最善だなどと言うつもりはありません。もっといい方法があると言う人がいるのなら、それを提示すればいいのです。
しかし、これらの週刊誌報道では、そんな解決策提案がほとんど見られません。ただただ“中国になめられるな”を繰り返しているようにしか思えないのです。
とにかく“それでも男か!”を振りかざし、“男なら戦え!”と煽るばかりです。
でもねえ…、と考えてしまうのです。そんなに威丈高に怒鳴って、少しは恥ずかしさを感じませんか? 我が身を振り返って、苦笑いが浮かんでは来ませんか?
「腐れ検察」→ほんの少し前まで、「巨悪を眠らせない最後の砦」と持ち上げていたのは誰だったでしょうか。
「いやな感じ 中国人観光客」→「パリの高級店で顰蹙を買う日本人観光客たち」。あのバブル時代、パリやロンドン、ローマなどの高級ブランド店に集団で押しかけ、傍若無人の札ビラ三昧で顰蹙を買った我が同胞たちの所業を、もう忘れたのでしょうか。
「日本の財産が中国に全部取られる」→1989年、アメリカの象徴とも言われるニューヨーク・マンハッタンのロックフェラー・センターを日本の三菱地所が買収して、アメリカ人の猛反発を買い、日本脅威論が巻き起こったことは記憶にありませんか。
同じころ、アメリカ人の心の拠り所とされているハリウッドの大手映画会社のコロンビアをソニーが買収し、「日本人がアメリカの魂までカネで奪った」と、凄まじいジャパン・バッシングに晒されたことなどもありましたよね。
高度成長で浮かれ、銀座で大枚をはたいている中国人は、私たちの20~30年前の姿でしょう。日本国内の資産を中国企業が買い漁っている。それもまた、日本企業がかつてアメリカやヨーロッパで繰り返してきたことと重なります。
こう書けば、すぐさま“自虐史観だ!”という罵声が聞こえてきそうです。でもこれは歴史観でもなんでもない。ほんの少し前の、誰もが知っている事実です。
ある国が勃興期を迎えたとき、そういうことは必然的に現れるのではないでしょうか。日本に限らず、ヨーロッパ諸国だってアメリカだって、同じことをしてきたのです。いまそれを、中国が行っている。
これらの現象をすべて“中国になめられるな”に収斂させて危機感を煽る。やっぱりそれは、自制しなければいけない論調だと思うのです。中国政府がとっている外交政策と、中国人そのものを一緒くたにして、「なんでもかんでも中国が悪い」と決めつけるのは、やはりおかしい。
私たち日本人だって、中国をなめ、韓国をバカにし、アジア諸国を子ども扱いにし、ヨーロッパやアメリカの横ッ面を札束で引っ叩いたことが、恥ずかしいけれど、少し前にあったのです。
その反省の上に立って、「もう少し冷静に物事を見極めましょう。そのためにはこういう解決策、外交術もあるのですよ」と説くのが本来のジャーナリズムの役割ではありませんか。
中国側も、これ以上ことを荒立てることは得策ではないと判断したようです。対日輸出制限をしていると言われていたレアアース(稀土類)の輸出は再開されました。
菅首相が急遽出席したASEM(アジア欧州会議)の場で、10月4日(日本時間5日未明)に、偶然を装って(そんなはずはありませんが)菅首相と温家宝中国首相が会談をしました。これも、「会う予定はない」と言っていた中国側の軟化の兆しであることは間違いありません。
そのような情況を正確に読み取って、こちらの次の出方を考えるのが外交でしょう。お互いが歩み寄って話し合うしか、問題の解決はあり得ません。
振り上げた拳の下ろしどころを、メディアもそろそろ模索し始めてもいいころだと思うのです。
鈴木耕さんプロフィール
すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。
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