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2010-08-25up
時々お散歩日記(鈴木耕)
13伝説の写真家・福島菊次郎さん(89歳)
酷暑です。「暑」という字を書くだけでイヤになってしまうほどです。当然のことながら、外へなど出たくありません。
もちろん、外で働かなければならない方たちもたくさんおられます。そういう方たちには、心の底から「ご苦労さまです。体には十分にお気をつけください」と頭を下げるしかありません。
幸いなことに、私はクーラーの効いた部屋で仕事ができます。なんだか、申し訳ない気もするのですが。
この暑さ、散歩はほとんどできません。少し体がなまってきているような気もします。それに、暑いものだから、ついビール…。ジムへ行ってちょっとは体を苛めようとも思うのですが、その気持ちもなんだか萎え気味です。悪循環ですねえ。
でも、これだけはぜひ出かけなくちゃ、という催しもあります。少し前ですが、8月14日に府中市のグリーンプラザというホールで行われた講演会&写真展です。
出かけました。
講演者は、福島菊次郎さん。伝説の写真家です。
1960年代末から、月刊誌『現代の眼』(今はありません)や『世界』などに、鮮烈な報道写真を発表して権力を告発し続けた、ほんとうの意味での伝説の人物なのです。
彼の写真の迫力は凄まじい。「反体制」などと人は気軽に言いますが、菊次郎さんの前に出たら、そんな言葉は簡単には口に出せません。それほどに、国家や政治、大企業、防衛産業、原発などへの反逆・疑問・抵抗を、身を挺して写真に焼き付けてきた写真家なのです。身長160センチ足らず、いまや体重は30キロ台という小さな体のどこに、あれほどの意志と力が潜んでいるのかと驚愕してしまいます。
講演では89歳というお歳にもかかわらず、ほぼ2時間、思いの丈を語ってくださいました(司会の写真家・山本宗補さんの絶妙な合いの手が、時々の菊次郎さんの脱線を見事に防いでくれました)。
私事ですが、我が義母も89歳、菊次郎さんと同い年です。やはりこの世代の人たちには、戦争に対する抜きがたい嫌悪と、戦争を指導した権力者への強烈な不信感があります。時折、ドキリッとするような世の中へ対する鋭い言葉を義母が発するのも、その経験に基づいているからなのでしょう。
菊次郎さんの講演の大きな部分を占めたのは「戦争責任」の問題です。これほどの惨禍を日本国民のみならず、アジアの数千万人の人々に与えたにもかかわらず、いったい日本の誰があの戦争の責任を取ったのか。淡々と、しかしはっきりと菊次郎さんは語りました。
菊次郎さんは視力が衰え始めました。そこで、今度はカメラをパソコンのキイボードに持ち替えて、『福島菊次郎遺言集 写らなかった戦後3部作』という本にまとめました。その第3部が『殺すな、殺されるな』(現代人文社、1900円+税)です。9月の発売予定ですが、会場で先行販売していましたので、私はもちろん購入してきました。
菊次郎さんの想いは、その本の中の、特に「I 殺すな、殺されるな、憲法を変えるな」の章に凝縮されています。
この章は「開戦の詔勅」「天皇制の病理と責任」「靖国神社と天皇」「終戦の詔勅」と、文章が続きます。菊次郎さんの原点が見えます。
ぜひ、読んでみてください。ちなみに、この3部作の本の題名を挙げておきます。
『写らなかった戦後 ヒロシマの嘘』
『写らなかった戦後2 菊次郎の海』
『写らなかった戦後3 殺すな、殺されるな』
3冊を通して読むと、私たちの国が辿ってきた戦後が、いまも変わらずに呻吟していることがよく分かります。
(写真は、講演後に写真展会場で著書にサインをしている菊次郎さんです。私のピンボケ携帯写真で、ほんとうに申し訳ありません…)。
東京新聞「こちら特報部」で私の朝は始まる
さて、このような講演会などには出かけますが、暑さのために確かに外に出る時間は減りました。その分、新聞を読む時間は少々増えたようです。私は3紙を購読していますが、最近は、すっかり東京新聞のファンになりました。特に「こちら特報部」が、エッ!? と思うような記事を連発してくれていて、毎朝、それを読むのが楽しみです(しかし、さすがに3紙購読は、経済的な負担も大きいので、1紙は止めようかな、とも考えています。で、どの新聞を止めるのかは思案中です)。
8月23日の「こちら特報部」には、思わず「やっぱりなあ」と膝を叩いてしまいました。
タイトルだけ拾っていっても、中身は歴然です。
・調査捕鯨 やはり横流し
・鯨肉窃盗裁判で仰天事実
・長年売りさばき 自宅を新築「クジラ御殿」
・補助金産業化 懸念の声
・「捕りすぎたら海へ捨てる」
・水産庁傘下の企業が独占 「利権の護送船団」
二〇〇八年に環境保護団体「グリーンピース・ジャパン」の職員二人が、宅配中の鯨肉を盗んだとして窃盗罪などに問われた裁判の判決が九月六日、青森地裁で言い渡される。二人は当時、鯨肉横領疑惑の「証拠品」として鯨肉を持ち出したのだが、告発と逮捕時は「告発目的なら犯罪も許されるのか」という点ばかりが注目され、横領疑惑は置き去りにされた。判決を前に、あらためて事件を考えてみると―。
というリードに続いて、ショッキングな事実が次々に暴かれていきます。記事には、こんなことが書かれていました。
(なお、グリーンピースの行動と主張については、「マガジン9」のインタビューを参照してください)。
(引用者注・毎年十一月から翌年四月まで、二百数十人が乗り組んだ船団が南極海で操業する。その過程で解体された肉を)ベテランの船員が「こことっとけ」と命令し、肉を取り分ける。特に高級なのが、ベーコンに加工されるウネス(下あごから腹にかけてのしま模様の部分)という部位。(中略)
「キロ一万~一万五千円で買ってもらえると聞いた。それでも市場の半値くらいだから、飛ぶように売れる。百㌔くらい持って帰る人もいる。鯨肉を売りさばいた収入で自宅を新築して『クジラ御殿を建てた』と言われる人もいる」
下船のときに船会社から支給される正規の土産とはまったく別物だという。(中略)
「正規の土産」は八キロまでのはずが、ウネスを二三・五キロも送った理由について、持ち主の船員の説明は二転三転した。「同僚からもらった」と話したが、その人数は「一人→二人→四人」と変わった後、結局三人に。しかも、名指しされた同僚の一人は「あげていない」と証言した。(後略)
記事はこの後、調査捕鯨の実施主体の財団法人・日本鯨類研究所(鯨研)の委託を受けて、随意契約によって独占的に捕鯨を請け負う「共同船舶」なる会社への疑惑に触れます。
(略)鯨研は、調査捕鯨に許可を出す水産庁から毎年補助金をもらい、歴代の役員には天下りで同庁OBがいる。今年の補助金は、捕鯨妨害行為への対策費を含めて約八億円。すなわち共同船舶は、水産庁傘下のファミリー企業で「鯨肉利権の護送船団」との指摘もある。(後略)
私はかつて、「劣化する言葉」と題した講演を行ったことがあります。その中で「調査捕鯨」という言葉のいかがわしさを指摘しました。
「調査目的で、なぜ数百頭もの鯨を捕ることが必要なのか。それは調査に名を借りた収益事業ではないのか。なぜ国家がそのような私企業に手を貸すのか。調査という言葉で実態をごまかしているのではないか」
私は、そう問いかけたのです。そのことの意味が、東京新聞の記者たちの調査によって、こんなに明確にされたわけです。
「調査」などという言葉でごまかして、実際は誰かが「商売」をしている。そしてそこが、官僚たちの天下りの巣になっている。
しかし同じ「調査」でも、東京新聞のこの「調査報道」は、ほんとうの意味での調査です。私は、ずいぶんここから教えてもらっています。
さて、明日はどんな記事が載るのでしょうか?
鈴木耕さんプロフィール
すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。
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