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2010-07-21up
時々お散歩日記(鈴木耕)
9夏、やはり沖縄を考える
バチンッ! とスウィッチが切り替わったように、突然、夏が来ました。いやはや、暑い。この暑さでは、なかなか散歩にも行けません。熱中症にかかってしまいそうです。仕方がないので、自宅の近所をうろうろと徘徊(?)しています。
ま、散歩の短縮版ですね。
ご近所には、花を愛する方たちが多くて、ひまわりや朝顔、それに名も知らぬ花々が、いまや百花繚乱です。それらを見て回るだけで、いい気分になれます。
しかし、梅雨明け直前の豪雨に見舞われた地方も多かったようです。私の故郷でも、梅雨明け前に洪水に襲われることがしばしばありました。特に私の育った家は、やや低地にあったものですから、何度か水に浸かってしまった記憶があります。
洪水は嫌なものです。
私の記憶にある洪水は、じわじわと浸水してくるタイプだったので、生命の危険は感じなかったのですが、後始末が大変でした。家中にひどい臭いが染み付いてしまっていつまでも臭いし、梅雨時でジメジメ感が何日も抜けません。
ひどくユーウツでした。
豪雨被害に遭われた方たちに、心からお見舞いを申し上げます。1日も早い復興を願っております。そして、亡くなられた方とご家族には、心からのお悔やみを。
梅雨がいけば、夏到来です、
夏の花が一斉に咲き始めました。さまざまな果実や木の実も、熟れ始めたようです。我が家の垣根に這わせてあるブラックベリーも、たくさんの実をつけました。
写真の赤い実はまだ酸っぱい。黒く熟れると甘みが出て、なかなかの美味しさです。この露地は、近所の幼稚園へ通う園児たちの通園路にもなっています。きゃあきゃあ言いながら、黒い実を採っている園児とお母さんたち。「いただきまあーす」と、可愛い声がかかります。
園児たちが行き過ぎてしばらくすると、ヒヨドリやムクドリがヒーヨヒーヨ!ギャアギャア!と、大騒ぎしながら実をつついています。なんで黙って食べられないのかねえ、と私は首を傾げます。
梅雨明けしてしばらくは、なぜか空が真っ青に見えます。これまでの雨が空のチリを洗い流してくれたせいでしょうか。
まるで、沖縄の空みたい。
どうしても私の思いは、沖縄へ飛んでいきます。
毎日新聞(7月19日付)の、「追跡 民主大敗」という特集記事には、
<普天間 続く「迷走」>
という大きな見出しが躍っていました。小見出しだけを拾ってみます。
<迫る工法検討期限>
<見えぬ「官邸主導」>
<沖縄との対話 糸口つかめず>
<米国防省「複数案」を拒否>
相変わらずの“状況説明”に終始するだけの、新しい視点もスクープも、ましてや提案など何もない記事です。結局、アメリカの言い分をなぞる点はいつもと同じです。ただ、民主党内の動きを伝える部分には、少しだけ注目しました。
<(民主)党内には「国外、県外移設」を求める声も根強く残っており、「国外」を主張する鹿児島県連代表の川内博史衆院議員は16日、党本部で記者団に「代表選では普天間問題も大きな争点になる」と強調した。(以下略)>
9月には民主党の代表選挙が行われます。
ここで、川内議員が言うように、しっかりと普天間問題を代表選の争点にしなければなりません。
小沢一郎前幹事長が、その代表選挙に出るのか出ないのかと、相変わらずの政局絡みの報道ばかりがなされていますが、そんなことより、鳩山退陣の最大の原因であったはずの「普天間問題」を、今後どうするかが問われなければならないのです。
メディアと政治家・政党との共謀(?)で、すっかり政治イシューとしては影が薄くなってしまった「沖縄米軍基地問題」ですが、この問題を放置しておくならば、昨年の政権交代の意味が、大きく損なわれてしまうことになると私は思います。
それにしても、メディアのアメリカに関する報道ぶりには、やっぱり疑問を持たざるを得ません。この毎日新聞の記事も、ほとんどアメリカべったりです。
<(前略)「沖縄県民の世論」を理由にした結論先延ばしをどこまでも容認すれば鳩山政権の二の舞になりかねないことを米側は懸念している。モレル国防総省報道官は14日の記者会見で、8月末時点での「複数案提示」を明確に否定し、「8月の期限に向けて作業していくことがすべてだ。現時点では実現可能だと期待している」とクギを刺した。(中略)
(在沖海兵隊グアム移転経費が、米議会で削減されたことに触れて)グアム移転と普天間移設はパッケージとされており、今後、予算の削減分の復活を目指す国防総省などが、普天間移設問題にこれ以上の遅れが出ないよう圧力を強める可能性もある。>
もちろん、米政府の公式な見解はこの記事に書かれたとおりでしょうが、しかし、公式見解の裏には、それとは違った本音や動きがあることは、ジャーナリストならば周知の事実でしょう(それについては、後に引用する琉球新報がきちんと触れています)。
そういう動きを、この記事はまったく伝えていません。いったい何を取材しているのか。
さらに、日本側がどういう態度に出るべきか、についても一切触れられていません。ひたすらアメリカの言い分だけです。
宜野湾市の伊波洋一市長や元沖縄県知事の大田昌秀さんなどをはじめとして、多くの識者が指摘し始めているように、米海兵隊の大部分がグアムに移転することは、すでに決定事項なのです。
普天間飛行場の辺野古移設が決定しようがしまいが、いずれ米海兵隊の移転作業は始まります。米軍再編の戦略上、それは既定路線なのです。アメリカの世界戦略の一環であり、いまさらグアム移転はしない、などということは考えられません。
その程度のことは、新聞記者なら常識のはずですが、なぜかこの記事のように、そこにも触れようとしていません。
7月20日付の朝日新聞の記事も、ひどいものでした。
マイヤーズ元米統合参謀本部議長へのインタビュー記事ですが、見出しはこうです。
<沖縄海兵隊は「防衛の決意」>
<「普天間論議に終始、不幸なこと」>
アフガンやイラク戦争を指揮した軍人ですから当然の発言でしょうが、とにかく「海兵隊は沖縄に必要」の一点張りです。インタビューアー(立野純二記者)は、それに対し何の反論も試みていません。元統合参謀本部議長殿の言い分を、そのまま書き起こすだけ。しかも“質問”として「日米関係の揺らぎを心配していますか」と、“日米同盟最重要論”を引き出すための道筋作りさえ行っている気配です。まさに“御用記者”の典型のように見えます。
さすがに、これではあまりにひどいと思ったのか、記事の解説では<「抑止効果」検証は不可能>との小見出しで、以下のように述べています。
<(前略)マイヤーズ氏は、有事の際に戦地に真っ先に駆けつけて戦う地上兵力の存在は、その規模にかかわらず、重要と強調した。米国のその「決意」を他国は無視できず、攻撃を控えさせると説く。(中略)
要約すれば、紛争はどう起きるか想定はできない。どんな危機にも対応するには、小規模であっても海兵隊は常駐せねばならない。その駐留拠点は沖縄でなければならないわけではないが、ほかに場所がない、という主張だ。(後略)>
そしてこの解説記事は、
<今ほどの過重な沖縄の負担と日米間の摩擦のコストを払ってまでして、海兵隊の長期的な沖縄常駐を当然の前提にすべきかどうか、議論を深める余地は大いにあるといえるだろう。>
と結ばれています。
では「議論を深める」ためには、どういう提案が必要なのか、という点にはまったく言及しない。
このマイヤーズ氏は、沖縄の「米兵による少女暴行事件」(1995年)の際の在日米軍司令官だった方です。あのときに、いったいどのような沖縄の負担軽減策を示したでしょうか。あの後、沖縄では何が変わったのでしょうか。実際は、米兵犯罪はその後も続発しているし、沖国大米軍ヘリ墜落事故のような危険な事故も多発しています。
NHKキャスターのシメの言葉のように「これは、国民がこぞって考えなければならない問題だと思います」で済ましてしまっていいのでしょうか。
一方、琉球新報は、7月19日付の社説で、次のように書いています。
<米国内で、在沖海兵隊の不要論が急浮上している。
米下院民主党の有力議員バーニー・フランク氏が「米国が世界の警察だという見解は冷戦の遺物で時代遅れだ。沖縄に海兵隊がいる必要はない」と主張し、大きな波紋を広げている。
米国内での不要論の広がりは沖縄にとって好機到来である。日本側から在沖海兵隊の撤退や普天間飛行場の県内移設なき返還を要求すれば、許容する米国内の空気が醸成される可能性が出てきた。(中略)
これまで、米上下院議員の中で在沖米軍基地の大幅縮小を求める議員はいたものの、下院歳出委員長を務めるフランク氏の影響力は別格だ。連邦議員を30年務め、政策能力が高く評価されている。(中略)
同氏の主張は二点で注目される。一点目は、米国の厳しい財政赤字を踏まえて膨張の一途にある軍事費に果敢にメスを入れる考えを示し、二点目は米国の覇権主義と決別すべきだと唱えている。(中略)
(フランク氏は)大手メディアの番組に相次いで出演した際、真っ先に閉鎖すべき基地として普天間飛行場を挙げ、こう語った。
「海兵隊がいまだに沖縄にいる意味が分からない。台湾と対じする中国を野放しにしたくないが、沖縄にいる1万5千人の海兵隊が何百万人もの中国軍と戦うなどとだれも思わない。海兵隊は65年前にあった戦争の遺物だ。沖縄の海兵隊は要らない。将来的にも活用する機会はない」(中略)
軍事費を増大させる中国と核開発を進める北朝鮮をにらみ、日米両政府は、沖縄の地理的優位性や疑問だらけの抑止力を振りかざし、沖縄に海兵隊を置く根拠にしてきた。フランク氏の問題提起はその矛盾を端的に突いている。
米政府は6月に「軍事費を2012会計年度から5年間で1兆ドル削減する」という方針を出した。イラク、アフガンの戦争で膨らんだ戦費を大幅削減しないと、財政が立ちいかなくなっていることを示す。
軍事による平和構築には限界があり、国家財政を破たんさせかねないことを自覚した対処方針であり、海外で大規模展開する米軍基地を縮小する流れは、押しとどめることはできないだろう。(以下略)>
引用が長くなってしまいましたが、これらの記事を読み比べてもらえれば、どちらに説得力があるかは一目瞭然でしょう。なぜ全国紙やTVキー局(いわゆる中央メディア)は、この琉球新報のような視点が持てないのでしょうか。取材力にそう違いがあるとは思えませんし、取材費や人員は圧倒的に中央メディアが上でしょう。
にもかかわらず、対象へ踏み込む力には切ないほどの差があります。むろん、中央メディアの完敗です。
アメリカ特派員は、何を取材しているのでしょうか。アメリカ政府内の日本ハンドラーにしか目が向いていない証拠です。
恥を知るべきです。
琉球新報が指摘しているように、米国内での在沖縄海兵隊基地不要論は、次第に高まってきていると聞きます。それに、沖縄の“米海兵隊抑止力論”など、アメリカ本国では、ほとんど歯牙にもかけられていない、といった状況です。
かつては、ビンの蓋論(日本の軍国主義の暴発を防ぐための“抑止力”として在日米軍が必要だとする論)のほうが有力だったのです。しかし、そのビンの蓋論も、最近ではあまり語られなくなりました。つまり、どの方向から考えても、もう沖縄の米海兵隊の必要性は相当程度、失われているのです。
ではなぜ、辺野古(移設)案に固執する人たちがいるのか?
「思いやり予算」を失いたくない米国の財政問題と、日本側の基地建設をめぐるなんらかの利権構造、とでも考えるしかありません。
何度でも繰り返しますが、もうここら辺りで、日本政府はきちんと米政府に向き合うべきです。アメリカの政権与党である民主党の有力議員たちの間からも普天間不要論が出てきているのですから、日本の民主党議員たちも与党同士、はっきりと議論をすればいいのです。
普天間不要論で一致できるなら、与党から政府へ、しっかりと提言できるはずでしょう。
川内博史民主党議員ら「普天間飛行場の海外移設を求める議員」の勢力は、180人を超えています。ぜひ、米民主党の重鎮フランク氏らと連携して、日米両政府へ“断固たる圧力”をかけるよう、動き始めてもらいたいものです。
沖縄について書くと、つい文章が長くなってしまいます。
乞う御容赦。
私は、毎年のように、夏には沖縄へ出かけてきました(もちろん、夏以外にも行きますが、やっぱり、夏の沖縄が大好きです)。
しかし、さまざまな個人的事情から、この夏は、どうも沖縄には行けそうもありません。
でも、沖縄については考え続けていきたいのです。
鈴木耕さんプロフィール
すずき こう1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。
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