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おかどめ やすのり 1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。HP「ポスト・噂の真相」
オカドメノート No.068
今年8月31日の衆議院選挙で民主党が308議席を獲得したことで、社民党と国民新党を合わせて連立政権が樹立された。反権力の編集方針で雑誌を作り続けた筆者にとっては、悲願が実現したことで今年の重大ニュースNO.1である。これまでの霞ヶ関官僚のやりたい放題だった「官僚内閣制」を打破し、国民目線に基づく政治主導の民主主義を打ち出したことで、国民は新政権に革命にも似た過大な期待を寄せた。日本の憲政史においても画期的な出来事だった。いや正確には、はずだったというべきか。概算要求予算の見直しにおいても、公開の場で事業仕分けをやって見せたことで、予算の作成過程や天下り法人への無駄な予算がいかに使われてきたかという実態を国民の目に見せてくれた。事務次官会議や官僚答弁を原則禁止し、政治主導を優先させる政治システムも画期的だった。まだ不十分とはいえ、大手メディアと官庁の癒着の元凶だった記者クラブ制度にも風穴が開きつつある。まさに日本における真の民主主義のための新しい政治が始まるものと国民の多くが期待し、鳩山政権の支持率も発足当初は7割を超えた。
ところが、である。まだ、政権交代から3ヶ月しか経たない段階ではあるが、マニフェストの先送りや前政権と変わらない官僚主導の政治も目立ち始めた。何よりも分かりやすいのは、鳩山総理の指導力の欠如と閣僚たちのバラバラな閣内不統一とも言うべき不安定な状態が国民の目にさらされ始めていることだ。この先行き不透明感こそが、国民不安の元凶になりつつあり、支持率も下降している。新政権の政策のブレは経済対策などいろいろあるが、その分かりやすい代表格が沖縄の普天間基地の移転問題だろう。衆議院選挙前の国外・県外移設の主張を棚上げして、嘉手納基地統合案や辺野古新基地建設容認が跋扈し始めた。背景には、米国の強権的な恫喝外交があったことはいうまでもない。しかし、政権が交代した以上、前政権と官僚たちによる日米合意じたいを見直すのは当然である。それこそが民意というものであり、これまでは沖縄県民の意志は完全に無視されてきたのだ。米国のご都合主義的な言い分こそ、大国のエゴであり、内政干渉の極致ではないのか。
しかし、米国がそこまで居丈高になった理由も明らかだ。これまでの政権が米国の主張をほとんど容認してきたことと、防衛・外務官僚が米国の手先として日本の立場の主張を完全放棄してきたためだ。日米関係において、日本はひたすらモミ手をする、迎合の極みとも言える外交しかやってこなかった。思いやり予算なる奇妙奇天烈な存在が象徴的である。今回の普天間移設問題で対日強硬派と化しているのは、いずれも知日派といわれる米国の政治家や官僚である。知日派というのは、日本の対米従属外交の本音を知りつくした連中のことである。日本は米国の核を含む軍事抑止力に頼りきっているのだから、その点を突いて脅せば何とでもなるということを知り尽くしているのだ。
政権が交代しても、防衛・外交官僚が対米交渉においても米国サイドに立って主導権を握っているのだから、新政権は裸踊りをしているみたいなものだ。日本の官僚たちから、新政権の手の内は米国に筒抜けといっていい。これぞまさに売国官僚の所業である。仮に鳩山政権の政治主導で、普天間の移設先がグアム統合や硫黄島に決まったら、防衛・外務官僚のメンツは丸つぶれである。その意味でイの一番に洗脳されたのが、北沢防衛大臣だ。言っている事はほとんど官僚の受け売りにすぎない。岡田外相の方がいくらかマシとの見方もあるが、米国に恫喝されて県外・国外移転の可能性を探ることすら放棄したのだから、似たりよったりだ。
この原稿は今年最後なので、普天間問題の見通しを書きたかったが、現段階では鳩山総理の決断が来年まで持ち越しとなったこと以外、何も決まっていない。こと普天間に関しては日々情勢が変わり、今後とも二転三転する可能性が高い。鳩山総理の政治的リーダーシップの欠如や優柔不断な性格などを思えば先行きの見通しは楽観できないが、少なくとも沖縄県民を裏切るような結論だけは絶対に願い下げだ。沖縄県民の意思を慮って、辺野古移設に踏み切れないでいる鳩山総理の優柔不断さというか、良識に一縷の望みをつないでおきたい(苦笑)。米国、そして日本の防衛・外務官僚に負けずに、筋を通して初心貫徹せよ! とエールを送っておきたい。
最後にPRを。12月22日夜7時半から、阿佐ヶ谷ロフト(03−5929−3445)において、『癒しの島・沖縄は今どうなっているのか』というシンポジウムをやります。パネラーは『沖縄幻想』などの著作のあるノンフィクション作家の奥野修司氏、前衆議院議員として沖縄訪問歴も多い保坂展人氏、最近、『彼らは戦場に行った』の著作を出した共同通信編集委員の石山永一郎氏と筆者の4人。地元を熟知する沖縄の新聞記者の飛び入りというサプライズもあるかもしれません。興味のある向きはぜひご参加ください。
これまでの「対米追随」のツケが、
一気に噴き出したともいえる普天間移設問題。
地元の人たちの思いがまたしても踏みにじられる、
「後退」はあってはならないはず。
そう信じつつ、「越年」のゆくえを見ていきたいと思います。
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