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おかどめ やすのり 1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。HP「ポスト・噂の真相」
オカドメノート No.066
オバマ大統領の初訪日と前後して、沖縄では普天間基地の移設を巡る動きがあわただしかった。別に、オバマが来日するから普天間の移設先を早急に決めなければならないというわけではない。にもかかわらず、日米両政府に早期決着の空気が出ていたのは、米国防長官・ゲーツが一足先に訪日して、日本政府に辺野古移設合意案の実行を迫ったからだ。さすが、ブッシュ大統領の側近でもあった対日強硬派である。その恫喝に日本の関係閣僚は動揺し、嘉手納統合案や辺野古新基地容認に大きく動き始めた。選挙前の民主党の公約を完全に無視する形である。鳩山総理だけは、沖縄県民の意思を尊重するという抽象的な言い回しに終始したが、沖縄県の民意はすでに先の衆議院選挙でも十二分に示されたし、直近の地元紙の世論調査でも普天間の県内移設は圧倒的にNO!という結果が出ている。来年1月の名護市長選の結果を見てからなんて言い分は、鳩山総理が政治判断を逃げているだけのことである。
この間、沖縄ではいろんなことがあった。県内移設に反対する県民大会が宜野湾市の海浜公園で開かれて2万1千人が集まった。共同呼びかけ人の中には、自民・公明が推した保守系の翁長雄志・那覇市長も名を連ねていた。この翁長市長は県外の硫黄島移設を主張している人物でもある。超党派の県民大会というわけにはいかなかったが、こうした動きが引き金になって、辺野古推進派の頭目だった島袋名護市長も「代替施設が提起されれば、新基地建設にこだわらない」と大胆な方針転換発言。自民党沖縄県連も「県外移設」で足並みをそろえてきた。何の収穫もなかった米国訪問で県民からひんしゅくを買った仲井真知事は相変わらずバカのひとつ覚えのように「県外移設がベストだが、現実的には辺野古しかない」と語っているが、これも県民の総意から完全にズレまくっているだけに、方針転換は時間の問題だろう。当初、仲井真知事は任期は一期だけと語っていたものの、途中からもう一期続けるという色気も見せているといわれている。しかし、辺野古の沖合移動における埋め立てという主張を受け入れる自民党防衛族や防衛省の幹部は、もはや政府・中枢にはいないと考えていい。
民主党政権の誕生によって露骨な利権誘導の旨みは消えたのだ。名護市長もそのことに気付いたのではないか。しかし、ただ一人、防衛省官僚に洗脳された北沢防衛大臣がいる。この大臣は、防衛省の概算予算削減にはまったく意欲を見せず、思いやり予算が仕分け作業にリストアップされると、防衛族議員みたいな防衛省擁護発言を繰り返している。誰がこんな無能な人物を大事な防衛大臣に指名したのか。鳩山総理か小沢幹事長だろうが、筆者的には鳩山政権の閣僚中、政治主導の政権であることが全く理解できていない最低の大臣に思える。自民党時代の防衛大臣と寸分違わない、官僚まかせの体質が透けて見える。早いとこ、交代したほうがいい閣僚NO.1である。
そんな中、オバマ大統領が来日した。問題のオバマ・鳩山トップ会談は90分間に及び、その後は共同記者会見となった。今回のトップ会談の目玉はアフガン支援策といわれたが、こちらは給油活動を打ち切るかわりに民生支援に5年間で50億ドル(4500億円)を供出することで決着がついた。給油活動を打ち切れば、日米関係がギクシャクするという旧来の親米派の言い分は、恫喝のたぐいだったことが鮮明になった。そして、今回のトップ会談では議題にのぼらないだろうと見られていた、普天間基地の移転問題。しかし、オバマ大統領は「政権が代わって見直しすることは率直に支持する。ロードマップ(在日米軍再編)の修正が必要になることもあり得る。ただ、基本は守るべきだ」と発言した。
この基本を守るべきという意味をどう解釈するかが、論議を呼んだ。基本が普天間の辺野古移設という合意案ならば、沖縄県民は受け入れられないし、鳩山外交も失敗ということになる。今後は日米のワーキングチームで論議を積み重ねるというが、このレベルの話し合いだと、米国側の強硬な意見に押し切られる可能性が高いと見るべきだろう。その意味では、鳩山総理もオバマ大統領に対して、「在日米軍基地の75パーセントを抱える沖縄県民は県外・国外を強く望んでいる」というメッセージをキチンと発するべきだった。対等で緊密な日米関係を望むならば、当然の主張ではないか。しかし、鳩山総理は、沖縄での県民大会が開かれ翌日に起きた米兵によるひき逃げ事件に対する抗議のひとつもしなかった。これで、日米地位協定の見直し交渉を本気でできるのだろうか。
政権交代後、連日のようにニュースになった普天間移設の県外・国外移設へのハードルは高く、オバマ大統領との直接会談でも打開の道筋は明確にされなかった。米国が日本政府から得てきた幾多の既得権益をやすやすと手放すはずがないにしても、鳩山総理の政治・外交力に対して、少なくとも沖縄県民は不安と苛立ちを覚えたことだけは間違いない。その後、急遽、沖縄を訪問した岡田外相の行動も、その不安を拭いさるものではなかった。仲井真知事と共に訪米した神奈川県の松沢知事の、<辺野古に新基地が出来ないと、神奈川県厚木基地を含めた米軍再編が進まないので迷惑だ>という発言こそ、沖縄県民にだけ米軍基地をおしつけてことたれりとする、大和=日本人の身勝手さ、鈍感さの代表的意見なのだろう。それを思うと、「ボケ、松沢」と大和からの移住者である筆者も怒り心頭気分になる。鳩山総理に、せめて友愛精神とやらを見せて欲しいと沖縄の地から祈っておきたい。
この17日には、普天間問題を協議するための、
「日米閣僚級作業グループ」の会合がスタート。
圧倒的な「沖縄県内移転NO」の県民の声を前に、
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