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オカドメノート No.007
「沖縄タイムス」で連載中の「アメとムチの構図——普天間移設の内幕」が面白い。おそらく、元那覇防衛施設局長・佐藤勉氏の情報提供があったと思われる内容で、辺野古新基地建設を巡る防衛大臣や防衛事務次官、名護市の市長、建設業者などの実名と舞台裏の動きが生々しく描かれている。佐藤氏は、守屋防衛事務次官が逮捕された事件で東京地検特捜部に徹底的に調べられたこともある普天間基地移設計画のプロセスを知るキーマンの一人。おそらく、守屋に裏切られた思いと、あれだけの捜査をやりながら政治家一人も逮捕できなかった検察批判の意味も込められているのではないかと思う。沖縄が不幸な過去を背負ってきた分、日本政府が振興資金、補助金、基地対策費などの名目で大盤振る舞いしてきた歴史があるが、その背景では政治家の利権を狙った蠢きが常に噂されてきた。この連載は沖縄の「噂の深層」を裏付けた形の、地元紙としては出色の連載記事である。
こうした国家・政府予算がらみだけでなく、沖縄県においても仲井真知事の1000万人観光誘致計画に呼応、先取りした形で、那覇市内には本土資本によるマンションやビジネスホテルが次々と計画され、本島中部や石垣島でもリゾートホテル建設ラッシュの様相を呈している。そんな中、那覇市内の新都心におけるシンボリックな存在になるだろうと思われる超高層のツインタワービルを建てて、マンション、ホテル、商業施設をつくろうという計画が持ち上がり、それに対する地元住民を中心とした反対運動が起こっている。新都心というのは、以前は米軍住宅があった所であり、返還後は商業施設、ホテル、自治体施設、マンションなどの都市計画が進められてきた。この場所は那覇港や市街地を一望できる高台にあり、天気がいい日には慶良間諸島も見渡せる絶景のゾーン。その高台に、突然136メートルという超高層のツインタワービルを建てようというわけだ。
民間の土地であっても住民とのトラブルは避けられない大型の建設計画だが、この場所はもともと那覇市役所建設用地だったものである。それを「地域再生計画事業」という名のもとに用途地域の変更をやって民間のデベロッパーに売却したのだ。那覇市の言い分は財政赤字の解消である。売却先は大和ハウス、大京、オリックス不動産の3社。この建設計画予定地の隣には二階建ての日本銀行那覇支店がある。日銀が購入した価格に比べれば、那覇市がデベロッパーに売却した価格との間には50億円の落差があるといわれ、反対運動グループは市民に損失を与えたとして住民訴訟を起こしている。すでに那覇市はデベロッパー側から土地購入費の支払いを受けており、この秋には着工したいという意向である。
しかし、最大の問題は、業者側というよりも那覇市の地域住民に対する説明不足である。那覇市という行政当局が主体となっているプロジェクトならば、説明責任、情報公開は大前提だろう。このプロジェクトによる日照権、風害、電波障害、交通渋滞などの環境問題の徹底調査をやった上で住民側に納得いく説明をしない限り、建設計画自体が頓挫する可能性もあるのではないか。少なくとも那覇市側は業者まかせで住民説明会にも出てこないという実態は何とも不可解だ。
沖縄が長い間、県民の意志を無視した外務省や防衛省を中心とした中央官庁の秘密主義やお上の押し付け政策に泣かされてきた歴史を思えば、今こそ那覇市は率先して新しい行政のありようをケーススタディとして誠意を持って提示してみたらどうなのか。それができなければ、那覇市と業者側の間に公表できない裏取引の「噂の深層」があるのではないかと勘ぐられても仕方あるまい。翁長那覇市長は今秋には市長選を控えており、仲井真知事退任後の県知事選にも意欲満々と伝えられる。この計画予定地の隣にあるメディアビルに入居する沖縄タイムスは被害者の代表みたいなものだから、私憤ではなく公的目的、公益性も十分にある問題なのだから調査報道力を発揮する絶好のチャンスではないのか。
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