1月20日、世界中が注目する中、米国第44代大統領の就任式スピーチが行なわれました。内容については、既に新聞などメディアが報じている通りですが、スピーチ集がベストセラーになるなど、日本でもかつてないほどの高い関心を呼んでいます。「9条世界会議」での通訳や、「映画 日本国憲法」の翻訳、字幕制作など、「9条」に関する通訳・翻訳の仕事も多い、古山葉子さんに原文「オバマスピーチ」をどう受け取ったか、原稿を寄せてもらいました。
古山葉子(ふるやまようこ)通訳・映像翻訳
1986年より18年間、ピースボート共同代表を務める。特にキューバ、北アイルランド、東ティモール、南アフリカなどの交流プログラムは、中心的にコーディネート。映画製作会社シグロにて、『映画 日本国憲法』の翻訳・宣伝に携わる。アメリカの独立系報道番組を日本に紹介する「デモクラシー・ナウ!ジャパン」の立ち上げメンバーでもある。現在、大使館秘書をする傍ら、フリーランスで通訳・映像翻訳・コーディネーターを行っている。
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世界中の注目と期待とを集めながら、オバマ氏がアメリカの新大統領に就任した。その就任演説は、主にレーガン大統領以来30年間からの大転換を謳う、たいへん思い切ったものだった。世界史に悪名を残したブッシュ政権の負の遺産を、次々とひっくり返すのは至難の業だろう。でも、すでにグアンタナモ収容所の撤去命令を出すなど、着々と政策を実現させつつあるオバマ新政権に、おおいに期待をする。
さて、オバマ新大統領のスピーチの中で心に響いた部分は多々あったが、中でも外交および防衛に関わるところは、他人事とは思えなかった。
私なりに訳してみると:
9.11の後に制定されたアメリカ愛国法、アフガンやイラクへの根拠ない先制攻撃、テロ対策を口実に行われたアブグレイブやグアンタナモでの人権蹂躙などを批判していると思われる部分である。ここで彼は、「『身の安全を思えば、理想にしがみついている場合じゃない』というレトリックに引っかかってはならない」と強く呼びかけている。
日本国憲法9条への私の執着は、このオバマ氏の演説と通じる気がする。経済的・外交的危機に見舞われ、社会不安が広がってしまう時も、日本が立ち返るべき原点は憲法第9条だと思うのだ。理想は見失ってはならず、一時の便宜のために手放してはいけない。なぜなら、その理想とは、さんざん苦しい思いをした結果生まれたものであり、2度と苦しい思いをしないための唯一の道を示したものだからだ。
アメリカの独立宣言はアメリカ人が血を流した結果創り上げたもので、日本国憲法は日本がアメリカから押し付けられたものだから、根本が違うという人もいるかもしれない。でも、その憲法を作ったアメリカが、朝鮮戦争時代以来、アメリカの援軍をせよと圧力をかけてきているにもかかわらず、9条を変えてこなかったのは日本の我々だ。この時点で、9条は日本人が選んで守ってきたものであり、もはやアメリカの押し付けは関係なくなっていると思う。
1月末の『朝まで生テレビ!』で、以下のような発言があった。「アメリカの民主党政権は、日本を軽視する傾向がある。クリントン大統領は、中国には1週間も滞在したが、日本には立ち寄ることもせず、『ジャパン・パッシング』をした。共和党の方が日米同盟を重視するので、日本が大切にされる」と。確かに、共和党は中国と対峙するために日本を大切にするが、民主党は中国と仲良くしようとするため日本の軍事的重要性が下がる、という図式があるのかもしれない。でも、共和党の軍事戦略の片棒を担ぐことでしかアメリカに「重視」されないようでは情けないじゃないか。そんなことで「重視」などされたくない。
というくだりも、オバマ演説の中の有名な部分だ。日本の政権にもあてはまると思う。アメリカに評価されたくて、ブッシュに尻尾を振って軍事協力してきた「ホコリ」を払い落とし、9条を持つ国なりの「人の安全保障」を進めて行こうじゃないか。「他国に攻められたらどうする?」という架空の脅威は、外交努力を積極的に重ねることで減らすしかない。国際協力分野においても、武装を必要とする活動に参加する代わりに、貧困の撲滅など紛争の根本原因の除去に結びつく活動を積極的に進め、あくまでも非武装を貫くべきだ。
オバマ率いるアメリカは、険しい道をがんばって進んでいくだろう。私たちも、ブッシュなき今、自らを奮い立たせ、9条を再生して本当に活かす仕事を、心新たに進めようじゃないか。
さて、みなさんは、オバマのメッセージを
どう受け取ったでしょうか?
スピーチの英文の全文掲載はこちら。
音声を聞くこともできます。
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