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やまねこムラだよりー岩手の五反百姓からー

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つじむら・ひろお 1948年生まれ。2004年岩手へIターンして、就農。小さな田んぼと畑をあわせて50アールほど耕している五反百姓です。コメ、野菜(50種ぐらい)、雑穀(ソバ、ダイズ、アズキ)、果樹(梅、桜桃、ブルーベリ)、原木シイタケなどを、できる限り無農薬有機肥料栽培で育てています。

第四十四回

「農地法」が「改正」されたこと、知っていますか?

 麻生政権末期のゴタゴタ国会のなかで、6月17日に「改正農地法」が成立、年内に施行されることが決まりました。
 たまたま、別件で東京に住む友人と会う機会があったときに、「農地法が改正されたことを知っている?」と聞いたら、「まったく知らない」とう返事。東京では、農地法の改正されたことが報道されなかったとは思いませんが、扱いも小さくて、農業に関係のない一般の方には目に留まらなかったのかもしれませんね。

 私は、この「改正農地法」(以下、「新法」といいます)に疑義を持っていますので、改めて「マガジン9条」の読者の皆さまに、改正された農地法の内容とその問題点を、五反百姓の立場からお伝えしたいと思います。

 「改正」の最大のポイントは、企業が農業に参入することを簡易化したことです。
 これまで農地法は、「耕作者主義」でした。「農地を耕す農民が農地を所有する」のがもっともふさわしい、という考え方です。新法ではこれを「有効利用主義」に変えました。
 背景には、農民の高齢化にともなう耕作放棄地の増加があります。「農民が年寄りばかりになって、農地が荒れている。ならば、企業に農業をやってもらって、農地を有効に利用してもらおうじゃないか」という発想です。

 そのために、これまで企業が借りられる農地は、市町村が指定する農地に限られていた規制を撤廃して、所有者と直交渉すれば優良農地でも借りられる、としました。そして、その賃貸期限を「20年」から「50年」としました。
 また農地を所有できる「農業生産法人」に対する企業の出資率は、これまで10%以下と規制していたのですが、これを50%以下と緩和しました。
 シバリとしては、企業の経営陣に最低一人、農業に常時従事する人間がいることが条件になっています。 以上が、新法のおおよその内容です。

 法律にはまったくのシロウトの私ですが、これは企業のためのザル法だということがすぐわかります。
 「耕作放棄地を利用するため」というのが新法のタテマエのひとつになっています。だが、耕作放棄地というのは、条件が悪いから放棄されてきたのです。わたしの住む中山間地の農地がその例なのですが、一枚一枚の農地が狭いうえに、段差がある。大型機械が入れないので効率が悪い。これまでは、それでもよければ借りて耕してください、というのですが、もちろん効率を求める企業はそんな農地はほしくない。
 そこで企業は、ひらば(平野部)の条件のいい農地を資金力で集めることになる。
 「米を作っても、もうけはほとんどないでしょう。それより、わが社に貸せば、毎年賃貸料をこれだけ出しますよ。米を作るより得でしょ!」と農民の顔を札束でひっぱたく。
 しかも、その借用期間が50年! かつてイギリスが香港を99年間租借する、といって実質植民地化した歴史を思い出します。
 50年経てば、もう孫の世代です。10歳の子どもが60歳になってしまう。ジイサンが貸した土地のことなど、孫があずかり知らぬことになってしまうのは当然です。

 それでも、企業は農地を所有はできないことになっています。しかし、農業生産法人なら農地を所有できる。その農業生産法人へ50%以下なら出資できることになったので、タテマエ49.9%出資しておけば、あとはどうとでもできる。つまり、「農業生産法人」を子会社化することで、企業は農地を実質的に、所有できることになるわけです。
 雇われ役員として、一人農民を取り込んでおけば、新法の条件はクリアできる。
 近い将来「サントリー農場」やら「味の素農園」や「日清ファーム」が、日本各地にできるのではないでしょうか。あるいは「トヨタ農園」や「ニンテンドー農場」だって、できるかもしれません。これで、ニッポンの農業は復活する!?
 戦前の大地主が、名前を変えて復活するのです。  さらに、問題があります。言うまでもなく、企業というのは、もうけるのが仕事です。業績が悪くなれば、撤退するのはあたりまえ。昨年来の不況で「雇い止め」やら「派遣切り」という嫌な新語がはやりましたが、言ってみれば、それが「企業の論理」であり「生理」でもあったと思うのです。 ところが、農業という仕事は、この企業的論理や生理と両立しないのです。

 たとえば、田植え前に、農家は協同で水路掃除をします。夏場には、何回も草刈をします。これは、農家の仕事ではありますが、「もうけ仕事」ではありません。水路掃除をしたからといって、労賃が入るわけではありません。草刈りをしたら、それが売れるわけではありません。はっきり言って、ボランティア・ただ働き。しかし、田んぼへ水を引くため、あるいは害虫が繁殖しないためには、必要な作業なのです。
 さらに、その作業のおかげで、田んぼはダムの代わりに保水能力をもち、カエルやトンボなど、多くのいのちを生み出します。田園の美しい景観が保たれるのです。
 まったくもうける見込みのないこんな作業に、企業は金や労力を出して、参加するのでしょうか。

 「金がもうかるからやる。もうからなければ撤退」。これが企業の論理であり生理なら、やりたい放題やって、もうけがなくなったら、あとは文字通り「あとは野となれ、山となれ」と、どこか金のにおいのするほうへ行ってしまうのが、企業のやり口ではないのでしょうか
 農水省のエライお役人が、頭の中で考え出した「改正農地法」なのでしょうが、企業に農地を解放したせいで、日本の農業は壊滅、結果は「野となり山となった」農地が残るだけだった、ということにならないように、私は祈るばかりです。

(2009.7.3)

ハウスの中ではキュウリの花が咲いて、小さな実ができはじめています。

記事の冒頭にもありますが、この問題について、
東京ではあまり大きな報道は見られませんでした。
「農地の有効利用」といえば聞こえはいいけれど、
辻村さんも指摘するように、「効率」や「利益率」だけでははかれない、
それが農業という仕事のはず、なのですが…。
皆さんはどう思われますか? ご意見をお寄せください。

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