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つじむら・ひろお 1948年生まれ。2004年岩手へIターンして、就農。小さな田んぼと畑をあわせて50アールほど耕している五反百姓です。コメ、野菜(50種ぐらい)、雑穀(ソバ、ダイズ、アズキ)、果樹(梅、桜桃、ブルーベリ)、原木シイタケなどを、できる限り無農薬有機肥料栽培で育てています。
第二十九回
「宇宙からのエネルギー」などというと、宇宙人やUFOなどがでてくるSF小説や、荒唐無稽な「トンデモ本」的な話題だと思われるかたも多いでしょうね。
でも、わたしは(ジョーダンは顔だけにしろ、とよく言われますが)大真面目です。今回は「宇宙からのエネルギー」と農業が、テーマです。宇宙からのエネルギーがないと、農業は成り立たない、という話です。
農業を支えるもっとも大切な「宇宙からのエネルギー」、それは光です。つまり、太陽からの光エネルギーなのです。
どなたも昔、理科の時間で「光合成」のことは習ったはずです。植物はその葉緑素によって、水と炭酸ガスを材料に、太陽光エネルギーを使って、自分のカラダを成長させ、果実や葉を作る、と習ったのをおぼえていますか?
わたしは、この光合成が地球上でいちばん大切な化学変化だと思っています。人間だけでなく、あらゆる動物や植物にとって大切な化学変化です。ですから、理科が苦手な方にも、是非おぼえてもらいたい。憲法9条をおぼえるように、こころに刻みつけてほしい。
この光合成を化学方程式であらわすと、以下のようになります。
6H2O+6CO2+光=C6H12O6+6O2
つまり、6個の水分子(H2O)と、6個の二酸化炭素分子(CO2)が、植物の葉緑素の働きと光エネルギーによって、1個の炭水化物分子(C6H12O6)=ブドウ糖やデンプンと6個の酸素分子(O2)に変換されるのです。水と二酸化炭素が、食べ物(炭水化物)と、新鮮な酸素になってくれるという、魔法のような変化です。この魔法のような化学変化に、すべての生命が依存しています。
化学方程式としては単純な化学変化なのですが、万物の霊長人間は、いまだにこの化学変化を人工的に作れない。おそらく、未来永劫、作れない。だから、この化学変化を作れる存在=葉緑素を持つ植物を大切にしないと、人間は自分の首を自分で締めることになるのです。
なぜ、いちばん大切な化学変化なのか? それは、光合成がすべての食べ物を作り出してくれる恵みのおおもとだからです。野菜やお米やパンや果物は、光合成が直接生み出してくれた恵みです。
肉や魚やバターやたまごは、光合成が間接的に作ってくれた恵みです。たとえば、光合成によって草や穀物が生長します。その草や穀物を牛やニワトリが食べて、牛乳やたまごや肉になります。海の中では、光合成によって植物プランクトンが発生します。そのプランクトンを動物プランクトンや小魚が食べ、それを、イカやサバやマグロが食べる。肉も魚も、すべて光合成の恵みなのです。
食べ物だけではありません。家を建てる木もそうです。燃料になるマキや炭もそうです。そもそも、石油や石炭も、数億年も昔の光合成が作ってくれた、地球の遺産なのです。
つまり、人間が依存している食のすべて、原子力を除くエネルギーのほとんどは、光合成が生み出してくれたものなのです。まさに、宇宙からのエネルギーによって、地球上のすべての生物は生かされているのです。
(光合成のほかに、風力、水力、地熱とエネルギーのもとになるものはありますが、すべて地球系というシステムの中で循環するエネルギーです。唯一、循環しないエネルギーが原子力。その意味でも、原子力がいかに異質で危険なエネルギーかわかります。核融合エネルギーは、太陽光のように、地球の外に置くべきエネルギーなのだと思います)
ちかごろ、二酸化炭素(CO2)は地球温暖化の下手人扱いで、すっかりワルモノになってしまいましたね。でも、二酸化炭素は、上記のように光合成の大切な原料なのです。二酸化炭素がなければ、植物は育ちません。野菜もお米も果物も、さらに肉も魚もとれなくなってしまうのです。
ですから、地球温暖化も、空気中の二酸化炭素の濃度が上がりすぎたのが問題なので、二酸化炭素そのものが悪いのではありません。悪いのは、空気中の二酸化炭素の濃度バランスを崩した私たち人間なのです。二酸化炭素は冤罪です。真犯人は、人間の底なしの欲望なのです。
そしてもうひとつ、太陽光エネルギーほどではありませんが、農業に大切な宇宙からのエネルギーがあります。それは、月の引力です。
満月のときは、「太陽-地球-月」と並びますので、地球は両方から引っぱられて、月の引力は相対的に弱くなります。新月のときは、「太陽-月-地球」と並びますので、地球は太陽にも月にも同じ方向から引っぱられて、月の引力は大きくなります。この月の引力の変化が、作物に影響をあたえるらしいのです。
「たかが、月の引力で・・?」と思われるかたも多いでしょう。でも、ヨーロッパの森では満月の夜にオオカミオトコが出現しますし(?)、南の海ではサンゴが産卵します。
オオカミオトコは伝説ですが、サンゴの産卵はほんとうの話です。満月には、子どもが生まれる、ともいいますね。満月のときの引力は、どうやら、生殖に関係するらしい。
植物でも、満月には生殖成長が盛んになり、新月では栄養成長が盛んになります。結果、満月のときのほうが、作物のPHがあがります(酸度は下がる)。植物における生殖が活発になって、花や実が多く結実するのです。実を食べる野菜(トマトやナス)なら、満月のころに採ったほうが糖度があがるので、甘くておいしくなるのです。
逆に新月では、栄養成長が盛んになりますので、成長をつかさどる植物内の硝酸態チッソが増えて、PHが下がります(酸度はあがる)。そのため、苗を植える場合は活着がよくなります。みなさんもガーデニングなどで挿し木をしたり花の苗を植えるには、新月のころを選ぶといいのです。でも野菜は、硝酸態チッソが増えるため、にがくなります。野菜嫌いな子どもにしないためには、新月ではなく、満月のころに採った野菜を食べさせるといいのかもしれません。
さらに、害虫も満月のときに交尾したり産卵したりしますので、そのころ防除対策をすると効果があるようです。わたしは殺虫剤の代わりに、防除剤として木酢液を野菜やお米に散布しています。これも、満月を基準に散布するようにしています。
つまり、月の満ち欠けの周期(陰暦)が、農業ではいまも大切なリズムになっている、ということですね。今日は何曜日か忘れても、月齢はいつも意識しています。
かくして、やまねこムラにもやっと遅い春がめぐってきました。「宇宙からのエネルギー」をいっぱい受けとめて、今年も、多くの野菜や果樹や穀物たちが育ち始めました。野にも山にも、たくさんの花が咲き始めました。
水と光のおかげで、(さらにほどほどの二酸化炭素のあるおかげで)、作物たちは元気に育っていきます。日に日に、緑が濃くなっていきます。この「いつもどおりの春」を楽しめることに感謝して、今年も百姓仕事に取り組んでいきたいと思っています。
(2008.4.11)
2間半×5間の、小さなハウスをもうひとつ建てることにしました。
作物の連作障害を防ぐためです。
今日は、今年になって初めての雨(雪でなく)が降っています。
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